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★ どうやら俺は、気持ちがいいことに弱いらしい

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 なんとも情けない話だが……俺はヘタレな上に弱いらしい……その、気持ちがいいことに……

 でなけりゃ、いくら好きな人に触ってもらえているからって、ほんの数分で足をがくがく震わせたりなんかしない。それも生まれたての小鹿か? っくらいに。いくらなんでも色々と早すぎる。

 確かに今回は、昨日と違って最初からバアルさんに、そういう意味で触ってもらえるんだって分かってはいた。分かってはいたんだが。

「あっ……んん…………っ……」

 昼間の賑やかさが嘘だったかのように、大抵の方々が寝静まっているであろう城内。その別棟にある一室。

 青い水晶で出来たシャンデリアがぼんやりと照らす、広く整然とした室内で、絶えず定期的に響いている。全然我慢しきれていない俺の声だけが、鼻にかかった変な声だけが。

 カッチリ着こなしている執事服姿でなく、白いシャツと黒いズボンだけというリラックス姿のバアルさん。すらりと伸びた長い足を、ふかふかのベッドの上にゆったり預け、逞しいその膝上に俺を軽々と乗せてくれている。

 細く長い指先で、俺の耳を擽るように撫でてくれながら、宝石のように煌めく緑の瞳をゆるりと細める。

「……アオイ、どうかご遠慮なく仰って下さいね。貴方様のお望みを叶えて差し上げられることが、私にとって最上の喜びでございますので……」

 綺麗に整えられた白い髭が似合う口元を綻ばせ、いつもより甘さを含んだ低音で彼が囁いた。

 それだけで、再び俺の背筋には、ぞくぞくした感覚が走ってしまったってのに。

 反対の手で、背中をゆったりと腰の辺りから背骨に沿って撫で上げてくれるのだ。艷やかな笑みを湛えた唇で、頬や首元に触れてもらえてしまったのだ。

 過剰な心地よさからか、俺の身体は、はしゃぎっぱなしの心臓になってしまったみたい。リップ音が鳴る度に、びくんっ、びくんっと大きく跳ねさせてしまっていた。

 そう、当然のことながら、察しのいい彼にはとっくの昔にバレてしまっている。

 彼の大きな手からたっぷり与えてもらっている気持ちよさのお陰で、俺の男として大事な部分がしっかりと反応を示してしまっていることが。

 でも、先の発言からなんとなく察しはつくだろうが、彼はそこを触ってはくれない。俺がお願いするまでは絶対に。

 ただ、それは逆に好都合だった。二人っきりの甘ったるい時間を、まだ終わらせたくない俺にとっては。

 だって、多分……いや絶対、俺がこのまま我慢出来なかったら終わってしまう。昨日と同じようにパパッと綺麗に着替えさせられ、よしよし撫でられながらお休みなさいをされてしまうだろう。

 まだ全然触ってもらえていないのに。もっといっぱいキスして欲しいのに。それだけは避けたい。

 やっぱり、俺は欲張りだなぁ……

 どうしようもない自分に呆れながら、俺は必死に堪えていた。じわじわと身体中に広がっていく気持ちのいい波を。

 それなのに、ひたすらに心地のいい感覚だけを俺に与え続けてくれていた彼の手が、突然ピタリと止まってしまった。

「……バアル、さん?」

 なんで? どうして? もっと、触ってほしいのに……

 疑問が浮かび続けている俺の頭の中は、さらにハテナマークで埋め尽くされていくことになる。

 胸の奥がきゅっと締めつけられるような、寂しそうな声色で発せられた、彼からの思いも寄らない一言によって。

「……やはり、私めに触られるのは……お嫌でしたか?」

「……え?」

 気づかない内に、また俺は、やらかしてしまったのだろうか。

 そっと俺の頬に手を添え、おずおずと窺っている彼の瞳。いくつもの六角形のレンズで構成された瞳には、不安気な光が揺らめいている。

 湯上がりの時のまま、さらりと下ろされた前髪の間から、ぴょこんと伸びて上機嫌に揺れていた触覚。細く長い二本は、今やしょんぼりと垂れ下がってしまっている。

 ぱたぱたとはためいていた半透明の羽も、しょぼしょぼと縮んでしまっていた。

「好き、ですよ……キスしてもらえるのと……同じくらい……」

「……では、何故ご遠慮なさっていらっしゃるのですか?」

 どうやら、必死に堪えていたこと自体もバレてしまっていたようだ。

 滲んだ目元を優しく指先で拭ってくれてから「斯様に我慢なされて……」と大きな手が、彼のシャツをしわくちゃにしてしまっていた俺の手を、やんわり取って撫で擦ってくれる。

 またしても、俺は失敗してしまっていた。

 あれだけ、恥ずかしさなんてしったことかと。バアルさんを傷つけてしまうくらいなら、誤解されないようにちゃんと、して欲しいことは素直に全部言ってしまおうと。

 なんなら、自分から行動で示そうと決めたばかりだってのに。また同じ失敗を繰り返してしまっていたんだ。

「それは……その、終わっちゃうから……」

「……はい?」

「……綺麗にしてくれていたのは、嬉しかったんですよ? でも、昨日……俺が……バアルさんの手に…………出しちゃった後……もう、触ってくれなかったじゃないですか……」

 今からでも遅くはないハズだ、全部白状してしまおう……

 そう思い、胸の内をぽつぽつさらけ出している俺を、きょとんとした瞳が食い入るように見つめてくる。

 真っ直ぐな……心の奥まで見られてしまっているような眼差しに、顔が一気に熱くなっていく。声が勝手に震えてしまう。

 それでも、言葉にしてちゃんと伝えなければ。静かに息を吸って吐く。離さぬように、彼の手を強く握り締めた。

「……なんか……今日の俺、すぐその…………気持ちよく、なっちゃってるから……こんなに早く終わっちゃうの……やだなって……もっと、バアルさんに触って欲しくて……だから……んっ」

 ふわりと優しいハーブの香りがして、柔らかい温もりが俺の口に重なった。

 ……なんで俺、キスしてもらえているんだろう?

 頭の中にぽやんと浮かんだ疑問はすぐさま消え、思考は真っ白に塗り潰されていくことになる。

 いつの間にか、元気を取り戻していた触覚を忙しなく揺らし、白い水晶のように透き通った羽をぶわりと大きく広げているバアルさん。

 どこか余裕がない様子の彼に、何度も口づけてもらえている嬉しさと、下着の中にするりと忍び込んできた大きな手の動きによって。

「あ……バアルさ…………んぁっ」

 すでに芯を持ってしまっている俺のものを、長い指がそっと絡め取って、上下に優しく撫で擦る。

 それだけでも、一気にジンジンと熱を持ってしまった俺の全身は、びくびくと震えてしまっているのに。指の腹で俺の弱いところを、的確に撫で回してくれるもんだから堪らない。

「やっ……あ、出ちゃう……待って、くださ……お願い……」

 口では止めてくれと訴えながらも、俺は自分からゆらゆらと腰を振ってしまっていた。彼がくれる心地よさを、貪欲に味わってしまっていたのだ。

 気持ちいい……もっと、もっと気持ちよくして欲しいのに……終わりたくない……

 真逆の願いを抱えながら、俺は情けのない声を漏らし続けていた。柔らかい笑みを浮かべた唇が、俺の額にそっと触れてくれる。

 思わず離しかけていた俺の手に、彼の白い指がするりと絡む。まるで、大丈夫ですよ……と言ってくれているみたい。しっかり繋いでくれた。

「ご心配なさらないで……貴方様が私を求めて頂けているかぎり、何度でも触れさせて頂きますので……」

「っ……ホント、ですか? ……んぅ…………いっぱい、ぁっ……キスも……してくれますか?」

 この時の俺は、すでに頭が芯まですっかり蕩けてしまっていたんだろう。自分の欲望が、口からダダ漏れになってしまっていたのだから。

 彼からの、降って湧いたような了承の言葉。それだけでも俺にとっては、十分過ぎるほど嬉しいことだったのに。更にお願いを重ねてしまっていたんだから。

「ええ、貴方様のお望みのままに……」

 目の前にある形のいい唇に、喜びがあふれてしまいそうな笑みが浮かぶ。

 スッと通った鼻先を、甘えてくれているみたいに擦り寄せてくれる。

「……ですから、いっぱい気持ちよくなりましょうね?」

 耳に入るだけで、うっかり腰を抜かしてしまいそうな甘ったるい低音で囁いた。

 途端に、俺を慰めてくれていた彼の手つきが変わっていく。優しいものから、確実に俺を追い詰める激しいものへと。

 声を上げる間もなかった。艷やかに微笑む彼に口を塞がれ、縮こまっていた舌を絡め取られた。

 上からも、下からも、ひっきりなしに襲いかかってくる強く甘い痺れ。過ぎた快感に、あっさり俺は陥落した。繋いだ手を握り締め、全身をガクガク震わせながら、彼の綺麗な手と一緒に下着までも、ぐっしょり濡らしてしまったんだ。
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