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今度こそ、俺がカッコよくお誘いするつもりだったのに

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 今日の俺は珍しく冴えているかもしれない。

 今朝、見事に作戦を成功させただけではない。対バアルさんとのお風呂リベンジ用の秘策まで、思いついてしまったんだからな。

 これで俺も、彼の色っぽさにうっかり腰を抜かすことなく、スマートにお背中を流すことが出来るハズだ、間違いない。

 根拠は一切ないのだが。けれども俺は自信満々に、座り心地抜群のソファーの端で一人、拳を握り気合を入れていた。

 不意に、背中に柔らかい響きを持った低音が呼びかけてくる。

「……アオイ様、湯浴みのご用意を致しました」

「は、はいっ、ありがとうございます」

 お手本のように綺麗なお辞儀をしているバアルさんの元へ早く。でも、みっともなく見えないように。逸る気持ちを抑えて俺はソファーを離れ、穏やかに微笑む彼に歩み寄った。

 俺は意気込んでいたのだ。もう一つのリベンジである、お誘いの言葉を今日こそはカッコよく決めようと。

「お約束どおり、本日も……ご一緒させて頂いて宜しいでしょうか?」

 速攻だった。口を開くことなく俺は、彼から心ときめく一撃をお見舞いされてしまった。

 どこか落ち着きなく半透明の羽をはためかせ、ふわりと微笑みかけてくれた彼に恭しく手を取られる。そうして見せつけるみたいに、形のいい唇で手の甲に触れてもらってしまったのだ。

 お陰で全部、吹っ飛んだ。セリフも予定も全部。

「ひゃい……お願いします……」

「こちらこそ、宜しくお願い致します」

 なんとか、すんでのところで尻もちをつくことなく堪えられたものの、ひっくり返った声でしか返事が出来なかった。情けない。

 けれどもバアルさんは、喜びがあふれてしまいそうな笑みを湛え、その引き締まった腕で俺を抱き寄せてくれた。その長い指で、俺の短い髪を梳くように頭を撫でてくれたのだ。

 見上げれば、直ぐ側にあるバアルさんの優しい笑顔。伝わってくる温もり、香るハーブの匂い。気がつけば俺は、軽々と横抱きにされてしまっていた。

「では……参りましょうか……」

 緩やかな笑みを描いた唇が、俺の額にそっと触れる。お陰で、はしゃいでいた俺の心臓は、壊れそうなくらいに激しく高鳴ってしまったんだ。
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