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よっぽど俺は、デレデレした顔を晒していたらしい

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 一度目は……まださっきの、余韻が残っていたんだろうと、自分に対して言い訳が出来た。ぽやんと思い浮かべるだけで、胸がドキドキと高鳴ってしまう、甘ったるい雰囲気の。

 二度目だって、相手が相手だから見抜かれてしまったんじゃないか? と自分を無理矢理誤魔化すことが出来た。でも……

「ああ、失礼。いつも存じていましたが……本日は、より一層仲睦まじくいらっしゃるなと感じましたので……」

 さすがに三度目はムリだ。もう、言い訳も誤魔化しも出来ない。絶対に何かしら、顔に出してしまっているんだ……俺が。

 落ち着きなく、ライオンみたいな耳をぴこぴこ動かしながら。レダさんは、どこか恥ずかしそうに、頭の形に沿って刈り上げられた薄茶色の短髪と同じ色の、整えられた顎髭を無骨な指先で触っている。

 お城の兵士さん達をまとめる団長さんなだけあって、その大柄な身体は筋骨隆々で頼もしい。

「じろじろ見てしまって、申し訳ありませんでした」

 鋭い瞳を閉じ、逞しい上体を勢いよく直角に傾ける。キビキビとしたお辞儀の反動で、彼が身に纏う軍服の胸元を飾っている勲章達が、鈴を鳴らしたような音を奏でた。

「いえ……そんな、全、然……気にして……ませんから……」

 とにかく俺は、一刻も早くこの場を離れたかった。

 少し離れた位置でピシッ背筋を伸ばして整列している、彼の部下である兵士さん方にも同じように……

「あ、この二人なんかあったな……」

 などと勘づかれてしまっていたらと思うと恥ずかしさで、皆さんの前だというのに顔を熱くしたままひっくり返ってしまいそうだからである。

 だから申し訳ないな……と心の中で頭を下げつつ、焼き菓子の詰まった大きなバスケットをバアルさんに渡してもらってから、談笑もそこそこに兵舎を後にしたんだ。

 頭の中ではひっきりなしに、微笑ましそうな、優しげに細められた、いくつもの眼差しが浮かんでは消える。

 気恥ずかしさで、膝から崩れ落ちそうになりながら、なんとか薄い紫や桜色の水晶の花が咲き誇る、中庭まで戻ってこれた頃。俺の歩幅に合わせてゆったり歩きながら、手を引いてくれていたバアルさんが「……どう致しますか?」と足を止め、尋ねてきた。

「……どう、いたしますかって?」

「……もうすぐ城内でございますので」

 彼の言葉をそのまま返すことしか出来ないくらい、いっぱいいっぱいな俺に対して、同じ立場にいるハズの彼の表情は、いつも通り涼しげだ。

 キッチリ後ろに撫でつけられた、オールバックの生え際から生えている触覚を、どこか上機嫌に揺らしている。

 おまけに、綺麗に整えられた白い髭が似合う口元を綻ばせ、甘さを帯びた声で囁いてくるのだ、

「斯様に愛らしい真っ赤なお顔を、行き交う皆様方にお見せしてしまうのは……貴方様をお慕い申し上げている私めとしては、思うところがございましたので……」

 白い手袋に覆われた指先で、俺の顔の輪郭をなぞるように、するりと撫でてくるもんだから困ってしまう。

 ますます熱くなっちゃったじゃないかっ……

 心の中でぼやきつつも、今度は頬を包み込むように、やわやわと撫でてくれている手の温もりに、擦り寄ってしまっている俺は、もう、どうしようもないんだろうな。

「宜しければ、お部屋まで御身を運ばせて頂けませんか? 勿論、可憐なお顔も見られないよう、しっかり守らせて頂きます」

 正直、今の俺にとって、彼からの提案は有り難かった。

 さっきから膝はガクガク笑いっぱなし、メンタル的にも落ち込み気味。なので、好きな人の温もりに癒やされないと、やってられなかったのだ。

「……じゃあ、よろしくお願いします」

「畏まりました」

 胸に手を当て、角度のついた綺麗なお辞儀を披露した彼は、軽々と片手だけで俺の身体を抱き上げてくれる。

 早速、優しいハーブの香りが漂う首元に、顔を埋めさせていただいた俺の耳元で、穏やかな低音が「いい子ですね……」と囁きながら、頭をよしよし撫でてくれた。

 やっぱり、バアルさんは俺を元気づける天才だ。今の小さなやり取りだけで、あっという間に気分が上を向いたんだから。

 ……子供みたいに抱っこで運んでもらうのも、それはそれで恥ずかしいけれど仕方がない。

 これ以上、緩みきった変な顔の目撃者を増やすよりはマシだ。しかも、ただのデレデレした顔じゃないらしい。

 何故なら友達のグリムさんからは、

「今日のアオイ様は、とっても幸せそうですねっ! なにかイイことありました?」

 なんて聞かれちゃったし。バイトの進捗を確認しにきてくれた、現地獄の王であるヨミ様からは、

「ケーキ……いや、アオイ殿の文化に準ずる場合、お赤飯とやらを炊いた方が、お祝いになるんだったか?」

 などと、目を輝かせながら尋ねられてしまったからな……相当ヤバい顔をしていたに違いない。

 因みに案の定というか、当然の成り行きだが。足早に、青い石造りの床にひかれた、真っ赤な絨毯の道を運んでもらっている途中。きゃあきゃあ、クスクスと小さく笑う黄色い声達と何度もすれ違うハメになってしまったんだ。
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