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魔術士としての一歩

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 好きな人からさ、不意打ちでドキッとさせられることってあるだろ?

 本人は素っていうか……何とも思わないで、ただ純粋にやってることなんだろうけどさ……俺とは違って恥ずかしがらずにスマートに。

 そういうところが、またカッコよくて……同じ男として悔しいというか…………あー……今のはナシ、ナシな。

 とにかく、向こうにその気はなくても、彼からドキッとさせられたんだからさ。

 お返しって訳じゃないけど……俺だって、ドキッとさせたいって思うのは普通だろ。普通……だよな?

 …………もしかしなくても、こういうところが子供っぽいのかな……俺って。



 手のひらにコロンと乗っている、濃い灰色の石をそっと握って目を閉じる。

 そのまま、意識を腹の中心へと集中する。途端にぐるぐると、明らかに体温以上の熱が、へそを中心にして回り始めていくのを感じた。

 徐々に熱と勢いを増していく魔力の流れを、少しずつ手の中の石へと送っていく。

 ほんのりと温かくなった手のひらを開くと、さっきまで色味も、輝きも、全く無かった石が、鮮やかなオレンジ色の水晶へと変化していた。

 色鮮やかなそれを慎重に摘んで、天井に吊るされたシャンデリアの明かりにかざして見る。

 ゆっくり回しながらじっくり見てみても、ひび割れた箇所は無さそうだ。上手く出来たみたい。加減を間違えると、せっかくの商品を傷物にしちゃうからな。

 よしっ、と達成感に満ちた独り言が、つい漏れてしまう。赤や黄色、黄緑に水色と、色とりどりの水晶が入った小箱に、出来たてのオレンジをそっと収めた。

 やっぱり、ちょっと感動するな……ただちゃんと魔力を込めることが出来たってだけなんだけどさ。

 なんていうか、そうだな……魔術士としての一歩を踏み出せたような感じがするんだ。魔力を込めるのは、基本中の基本だからな。

 まぁ、俺の先生であり、大切な人であるバアルさんみたいに自由自在に物を操ったり、部屋の構造そのものを変化させたり。なんなら、時間の流れすら思いのままに操作出来るようになれるのは、一体全体いつになるやらって感じだけど。

 というか、時間に関しては一生かけても絶対ムリな気がするし。

 いかんいかん、完全に思考が飛び立ちかかっていた。まだまだ、魔力を込めていない石は沢山あるんだから、集中しないとな。バアルさんとの城下町デートの前までに、しっかり稼いでおかないと。
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