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とある秘書と王様の雑談
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ただの秘書である私が言うのもなんだが、サタン様と同じくらい……いや、それ以上にヨミ様も、面倒見のよい方だと思う。
シンプルな装飾で彩られた扉に3回。ノックをしてから失礼させていただくとローテーブルの上には何故か、あふれんばかりのクズ石が盛られた木箱があった。
「……その書類に、サインすればよいのか?」
「あ……はい、申し訳ございません。よろしくお願いいたします」
書類を受け取り「気にするな」と微笑んでくれたヨミ様に胸をほっと撫で下ろす。
気にはなるものの、聞けずにいた私の心情を察してくれたのだろう。ぽつぽつと柔らかい声で一から説明していただけた。
「今日がバアルの誕生日だったのは、貴殿も知っておるだろう?」
「はい」
「奥方のアオイ殿は、彼の為にケーキを焼いてくれていたようでな。私と父上は幾度となく祝ってきたが……二人にとっては初めて一緒に祝う日だろう? 邪魔してはならんとメッセージカードと一緒にプレゼントを置いて退散したんだ」
バアル様の奥方様……私自身は、まだ直接お会いしたことはない。が、笑顔が大変可愛らしく、心根が良いお方だと常々耳にしている。
彼がバアル様と共に、定期的に兵舎へ差し入れにいくという焼き菓子の噂も。
なんでも、素朴で家庭の味を思い出させるような、温かい魔力がこめられているとか。
頭の中にふわふわと、奥方様のケーキを微笑みながら召し上がる、バアル様のご様子が過ぎる。なんとも微笑ましい光景に、頬が緩みそうになってしまった。
デスクの左右に積まれている書類の山に、埋もれかけていたヨミ様が、片腕を天井に向かって伸ばしながら軽く息を吐く。
万年筆の尖端で、箱に盛られたクズ石を指し示しながら「それでな……」と言葉を続けた。
「言うまでもないが……手作りの贈り物は素敵だ。しかし、形に残る物を贈りたいと、アオイ殿が思うかもしれないだろう?」
「成程、それで彼に内職を……」
お手頃な装飾品用の石を作る為に、クズ石、魔宝石のなり損ないに、魔力を込める仕事は、単純で誰でも出来るものだ。
ただ、何度も魔力を練らなければならないので、それなりの労力と共に集中力を使うが。
「ああ、バアルが指南しているんだ、魔力を込める鍛錬は、すでに終えているだろう。私や父上が彼にこっそり資金提供してもいいのだが……おそらくアオイ殿は、自分の力でバアルへ贈り物をしたいと思うだろうからな」
ヨミ様が、どこか自嘲気味に「要はお節介だ、私のな……」と笑う。私は私の思ったまま、素敵なお節介だと伝えると「そうか……ありがとう」と今度は心からの笑顔を見せてくれた。
シンプルな装飾で彩られた扉に3回。ノックをしてから失礼させていただくとローテーブルの上には何故か、あふれんばかりのクズ石が盛られた木箱があった。
「……その書類に、サインすればよいのか?」
「あ……はい、申し訳ございません。よろしくお願いいたします」
書類を受け取り「気にするな」と微笑んでくれたヨミ様に胸をほっと撫で下ろす。
気にはなるものの、聞けずにいた私の心情を察してくれたのだろう。ぽつぽつと柔らかい声で一から説明していただけた。
「今日がバアルの誕生日だったのは、貴殿も知っておるだろう?」
「はい」
「奥方のアオイ殿は、彼の為にケーキを焼いてくれていたようでな。私と父上は幾度となく祝ってきたが……二人にとっては初めて一緒に祝う日だろう? 邪魔してはならんとメッセージカードと一緒にプレゼントを置いて退散したんだ」
バアル様の奥方様……私自身は、まだ直接お会いしたことはない。が、笑顔が大変可愛らしく、心根が良いお方だと常々耳にしている。
彼がバアル様と共に、定期的に兵舎へ差し入れにいくという焼き菓子の噂も。
なんでも、素朴で家庭の味を思い出させるような、温かい魔力がこめられているとか。
頭の中にふわふわと、奥方様のケーキを微笑みながら召し上がる、バアル様のご様子が過ぎる。なんとも微笑ましい光景に、頬が緩みそうになってしまった。
デスクの左右に積まれている書類の山に、埋もれかけていたヨミ様が、片腕を天井に向かって伸ばしながら軽く息を吐く。
万年筆の尖端で、箱に盛られたクズ石を指し示しながら「それでな……」と言葉を続けた。
「言うまでもないが……手作りの贈り物は素敵だ。しかし、形に残る物を贈りたいと、アオイ殿が思うかもしれないだろう?」
「成程、それで彼に内職を……」
お手頃な装飾品用の石を作る為に、クズ石、魔宝石のなり損ないに、魔力を込める仕事は、単純で誰でも出来るものだ。
ただ、何度も魔力を練らなければならないので、それなりの労力と共に集中力を使うが。
「ああ、バアルが指南しているんだ、魔力を込める鍛錬は、すでに終えているだろう。私や父上が彼にこっそり資金提供してもいいのだが……おそらくアオイ殿は、自分の力でバアルへ贈り物をしたいと思うだろうからな」
ヨミ様が、どこか自嘲気味に「要はお節介だ、私のな……」と笑う。私は私の思ったまま、素敵なお節介だと伝えると「そうか……ありがとう」と今度は心からの笑顔を見せてくれた。
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