84 / 906
もしかしなくても、俺のせい? サタン様の御威光を借りちゃった、俺の?
しおりを挟む
ことの始まりは、今朝、俺達の部屋を訪れた元地獄の王様、サタン様の一言からだった。
頼まれていた、件の方と会えるように話がついたから、午後に自分の部屋に来てほしいと。今思い出せば、確かに気になる点はあった。
やっと、毎朝届けてくれているお花のお礼が言えると、どんな方なんだろうなぁと、わくわくしていた俺を、微笑んで見ていたバアルさんの様子が、少しだけおかしかったんだ。
何が? って聞かれちゃうと、具体的にどこがとは答えられないんだけどさ。その時に「大丈夫ですか?」って聞いても「大丈夫ですよ」って微笑んでくれただけだったし。
まぁ、でも、サタン様のお部屋の扉を開けた瞬間。見覚えのある、お揃いの灰色のフードマントを身に纏った二人を見た瞬間。ああ、成程って納得したんだけどさ。
そりゃあ、本当に会いたいのかってサタン様が確認したのも分かるわ。俺が彼らを、死神のお二人をどう思ってるか心配で、聞きたくなるのも。だって、彼らの間違いが切っ掛けで、俺は地獄に来たんだし。
とはいえ今は、お陰で大好きなバアルさんと一緒に居られるから……俺としては変な話、二人には感謝してるんだけどな。
だって、普通に生きて、死んでたら、絶対に彼とはこういう形で出会えなかったんだからさ。
でも、向こうからしたら……無茶苦茶気まずいよなぁ……俺と会うの。むしろ、よくオッケーしてくれたよな。
……いや待てよ、もしかしなくても俺のせいか? 元地獄のトップである、サタン様の御威光を借りた俺のせいか? せいだろ、違いない。
じゃあ、今、お二人を困らせてるのは、俺の、直接会ってお礼を言いたいっていう我儘のせいか? せいだな、確実に。
自分のやらかしに気づいた後の俺の行動は早かった。せめて、目の前の彼を安心させなければと、そのことで頭がいっぱいになったんだと思う。
「あの……グリムさん」
淡い日差しが大きな窓から差し込む室内に、俺の声だけが響く。
誰しも、俺が口を開くとは、思っていなかったんだろう。弾かれたように顔を上げたグリムさんに続いて、皆の視線が一気に俺に集まった。
「は、はい……」
どこか怯えたように見つめる薄紫の瞳に、大丈夫ですよと想いを込めて、微笑みかける。
いつも俺の好きな人が、バアルさんが俺にしてくれているように柔らかい声で、そっと。
「……いつも、ありがとうございます」
「…………え?」
「お花、とても嬉しかったです。後、お菓子も、美味しくてキレイで……」
「あ、え…………そんな、僕……」
「いつも、楽しみにしているんです……ずっとお礼が言いたかった。今日は、俺の我儘に付き合ってくれてありがとうございます」
きょとんと丸くなっていた瞳がじわじわ滲んで、透明な雫がぼろぼろこぼれ出す。
そこで、ようやく俺は気がついた。また俺は、やらかしてしまったんだと。
頼まれていた、件の方と会えるように話がついたから、午後に自分の部屋に来てほしいと。今思い出せば、確かに気になる点はあった。
やっと、毎朝届けてくれているお花のお礼が言えると、どんな方なんだろうなぁと、わくわくしていた俺を、微笑んで見ていたバアルさんの様子が、少しだけおかしかったんだ。
何が? って聞かれちゃうと、具体的にどこがとは答えられないんだけどさ。その時に「大丈夫ですか?」って聞いても「大丈夫ですよ」って微笑んでくれただけだったし。
まぁ、でも、サタン様のお部屋の扉を開けた瞬間。見覚えのある、お揃いの灰色のフードマントを身に纏った二人を見た瞬間。ああ、成程って納得したんだけどさ。
そりゃあ、本当に会いたいのかってサタン様が確認したのも分かるわ。俺が彼らを、死神のお二人をどう思ってるか心配で、聞きたくなるのも。だって、彼らの間違いが切っ掛けで、俺は地獄に来たんだし。
とはいえ今は、お陰で大好きなバアルさんと一緒に居られるから……俺としては変な話、二人には感謝してるんだけどな。
だって、普通に生きて、死んでたら、絶対に彼とはこういう形で出会えなかったんだからさ。
でも、向こうからしたら……無茶苦茶気まずいよなぁ……俺と会うの。むしろ、よくオッケーしてくれたよな。
……いや待てよ、もしかしなくても俺のせいか? 元地獄のトップである、サタン様の御威光を借りた俺のせいか? せいだろ、違いない。
じゃあ、今、お二人を困らせてるのは、俺の、直接会ってお礼を言いたいっていう我儘のせいか? せいだな、確実に。
自分のやらかしに気づいた後の俺の行動は早かった。せめて、目の前の彼を安心させなければと、そのことで頭がいっぱいになったんだと思う。
「あの……グリムさん」
淡い日差しが大きな窓から差し込む室内に、俺の声だけが響く。
誰しも、俺が口を開くとは、思っていなかったんだろう。弾かれたように顔を上げたグリムさんに続いて、皆の視線が一気に俺に集まった。
「は、はい……」
どこか怯えたように見つめる薄紫の瞳に、大丈夫ですよと想いを込めて、微笑みかける。
いつも俺の好きな人が、バアルさんが俺にしてくれているように柔らかい声で、そっと。
「……いつも、ありがとうございます」
「…………え?」
「お花、とても嬉しかったです。後、お菓子も、美味しくてキレイで……」
「あ、え…………そんな、僕……」
「いつも、楽しみにしているんです……ずっとお礼が言いたかった。今日は、俺の我儘に付き合ってくれてありがとうございます」
きょとんと丸くなっていた瞳がじわじわ滲んで、透明な雫がぼろぼろこぼれ出す。
そこで、ようやく俺は気がついた。また俺は、やらかしてしまったんだと。
80
お気に入りに追加
485
あなたにおすすめの小説
嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる