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もしかしなくても、俺のせい? サタン様の御威光を借りちゃった、俺の?

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 ことの始まりは、今朝、俺達の部屋を訪れた元地獄の王様、サタン様の一言からだった。

 頼まれていた、件の方と会えるように話がついたから、午後に自分の部屋に来てほしいと。今思い出せば、確かに気になる点はあった。

 やっと、毎朝届けてくれているお花のお礼が言えると、どんな方なんだろうなぁと、わくわくしていた俺を、微笑んで見ていたバアルさんの様子が、少しだけおかしかったんだ。

 何が? って聞かれちゃうと、具体的にどこがとは答えられないんだけどさ。その時に「大丈夫ですか?」って聞いても「大丈夫ですよ」って微笑んでくれただけだったし。

 まぁ、でも、サタン様のお部屋の扉を開けた瞬間。見覚えのある、お揃いの灰色のフードマントを身に纏った二人を見た瞬間。ああ、成程って納得したんだけどさ。

 そりゃあ、本当に会いたいのかってサタン様が確認したのも分かるわ。俺が彼らを、死神のお二人をどう思ってるか心配で、聞きたくなるのも。だって、彼らの間違いが切っ掛けで、俺は地獄に来たんだし。

 とはいえ今は、お陰で大好きなバアルさんと一緒に居られるから……俺としては変な話、二人には感謝してるんだけどな。

 だって、普通に生きて、死んでたら、絶対に彼とはこういう形で出会えなかったんだからさ。

 でも、向こうからしたら……無茶苦茶気まずいよなぁ……俺と会うの。むしろ、よくオッケーしてくれたよな。

 ……いや待てよ、もしかしなくても俺のせいか? 元地獄のトップである、サタン様の御威光を借りた俺のせいか? せいだろ、違いない。

 じゃあ、今、お二人を困らせてるのは、俺の、直接会ってお礼を言いたいっていう我儘のせいか? せいだな、確実に。

 自分のやらかしに気づいた後の俺の行動は早かった。せめて、目の前の彼を安心させなければと、そのことで頭がいっぱいになったんだと思う。

「あの……グリムさん」

 淡い日差しが大きな窓から差し込む室内に、俺の声だけが響く。

 誰しも、俺が口を開くとは、思っていなかったんだろう。弾かれたように顔を上げたグリムさんに続いて、皆の視線が一気に俺に集まった。

「は、はい……」

 どこか怯えたように見つめる薄紫の瞳に、大丈夫ですよと想いを込めて、微笑みかける。

 いつも俺の好きな人が、バアルさんが俺にしてくれているように柔らかい声で、そっと。

「……いつも、ありがとうございます」

「…………え?」

「お花、とても嬉しかったです。後、お菓子も、美味しくてキレイで……」

「あ、え…………そんな、僕……」

「いつも、楽しみにしているんです……ずっとお礼が言いたかった。今日は、俺の我儘に付き合ってくれてありがとうございます」

 きょとんと丸くなっていた瞳がじわじわ滲んで、透明な雫がぼろぼろこぼれ出す。

 そこで、ようやく俺は気がついた。また俺は、やらかしてしまったんだと。
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