80 / 1,047
失礼かとは存じますが、そのような行為に関する知識は、どの程度ございますか?
しおりを挟む
思っているだけじゃ、伝わらないのは当然だ。
だからこそ、行き違いになってしまわないように、言葉で伝える必要があるのは分かる。分かってはいるんだが。
「では……アオイ様は、私との関係の進展に前向きではございますが、ご経験の無さ故に不安に思っていらっしゃる……ということで宜しいでしょうか?」
「はぃ……宜しいです……」
まさか涼しい顔で淡々と、根掘り葉掘り胸の内を問いただされることになるとは、思ってもみなかったんだが?
恥ずかし過ぎるんだけど……なんか変な汗出てきたし。顔どころか、目の奥まで滅茶苦茶熱いんだけど……
引き締まった彼の腕に支えてもらわなければ、俺は今にもソファーからずり落ちてしまうだろう。そんな情けない俺に対して、隣で長い足を上品に組むバアルさんは、誰が見たって余裕綽々だ。
まぁ、さっきバスルームで彼が言ってくれた通り、大事なことなんだから、恥ずかしがってばかりじゃいけないよな……
そう自分に言い聞かせ、彼を見習って堂々としていようと、思い直そうとしていた矢先。再び投げかけられた質問が、いとも容易く俺の決意を挫いたんだけどさ。
「失礼かとは存じますが、そのような行為に関する知識は、どの程度ございますか?」
「……ッ、それは……その…………」
真っ直ぐに見つめてくる緑の瞳から、俺は思わず逃げてしまっていた。顔ごと背けてしまった俺の背を、バアルさんが「ゆっくりでいいですよ」と撫でてくれる。
単純な俺は、その優しい手つきにあっさり落ち着きを取り戻した。
とはいえ、頭の中にある引き出しをいくら開けても、一般的な知識しかない。同性同士の知識すらなかったのだ。
ましてや人間と悪魔との、あれやこれやのことなんか、入っている訳がない。
かといって、何も答えられないのもどうなんだ? と変なプライドが邪魔をした。
「えっと……お互いの身体を……触り合うとか、ですかね?」
結果、逆に自分の無知を白状してしまっているくらいに当たり前のことを、さも知っていてるかのように口にしてしまっていたんだ。
「ええ、左様でございます」
穏やかな低音から紡がれた、思いもよらない肯定の言葉。優しく微笑みかけてくれる彼を前にして、笑われてしまうんじゃないかと決めつけていた自分が情けなくなる。
「何事も段階を踏んでいくことが、大切でございますからね」
勝手に見栄を張って、勝手に落ち込んでいる俺の手に、一回り大きな手が重なり、繋がれた。
「……私達も少しずつお互いを知り、より深く愛し合って参りましょうね」
……バアルさんはきっと、いや絶対、俺を励ます天才なんだろう。
いつも完璧なタイミングで、たちまち心が舞い上がるようなことを、胸のドキドキが止まらなくなる言葉をくれるんだから。
「……はい」
満たされ過ぎて、頭がぽやぽやする。俺は、ただ頷くことしか出来なかった。
なのにバアルさんは、とても嬉しそうに微笑んでくれた。全身を包み込むように、ぎゅっと俺のことを抱き締めてくれたんだ。
だからこそ、行き違いになってしまわないように、言葉で伝える必要があるのは分かる。分かってはいるんだが。
「では……アオイ様は、私との関係の進展に前向きではございますが、ご経験の無さ故に不安に思っていらっしゃる……ということで宜しいでしょうか?」
「はぃ……宜しいです……」
まさか涼しい顔で淡々と、根掘り葉掘り胸の内を問いただされることになるとは、思ってもみなかったんだが?
恥ずかし過ぎるんだけど……なんか変な汗出てきたし。顔どころか、目の奥まで滅茶苦茶熱いんだけど……
引き締まった彼の腕に支えてもらわなければ、俺は今にもソファーからずり落ちてしまうだろう。そんな情けない俺に対して、隣で長い足を上品に組むバアルさんは、誰が見たって余裕綽々だ。
まぁ、さっきバスルームで彼が言ってくれた通り、大事なことなんだから、恥ずかしがってばかりじゃいけないよな……
そう自分に言い聞かせ、彼を見習って堂々としていようと、思い直そうとしていた矢先。再び投げかけられた質問が、いとも容易く俺の決意を挫いたんだけどさ。
「失礼かとは存じますが、そのような行為に関する知識は、どの程度ございますか?」
「……ッ、それは……その…………」
真っ直ぐに見つめてくる緑の瞳から、俺は思わず逃げてしまっていた。顔ごと背けてしまった俺の背を、バアルさんが「ゆっくりでいいですよ」と撫でてくれる。
単純な俺は、その優しい手つきにあっさり落ち着きを取り戻した。
とはいえ、頭の中にある引き出しをいくら開けても、一般的な知識しかない。同性同士の知識すらなかったのだ。
ましてや人間と悪魔との、あれやこれやのことなんか、入っている訳がない。
かといって、何も答えられないのもどうなんだ? と変なプライドが邪魔をした。
「えっと……お互いの身体を……触り合うとか、ですかね?」
結果、逆に自分の無知を白状してしまっているくらいに当たり前のことを、さも知っていてるかのように口にしてしまっていたんだ。
「ええ、左様でございます」
穏やかな低音から紡がれた、思いもよらない肯定の言葉。優しく微笑みかけてくれる彼を前にして、笑われてしまうんじゃないかと決めつけていた自分が情けなくなる。
「何事も段階を踏んでいくことが、大切でございますからね」
勝手に見栄を張って、勝手に落ち込んでいる俺の手に、一回り大きな手が重なり、繋がれた。
「……私達も少しずつお互いを知り、より深く愛し合って参りましょうね」
……バアルさんはきっと、いや絶対、俺を励ます天才なんだろう。
いつも完璧なタイミングで、たちまち心が舞い上がるようなことを、胸のドキドキが止まらなくなる言葉をくれるんだから。
「……はい」
満たされ過ぎて、頭がぽやぽやする。俺は、ただ頷くことしか出来なかった。
なのにバアルさんは、とても嬉しそうに微笑んでくれた。全身を包み込むように、ぎゅっと俺のことを抱き締めてくれたんだ。
91
お気に入りに追加
521
あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話
gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、
立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。
タイトルそのままですみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる