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こんなキス、知らない。心も、魂も、まるごと全部食べられてしまいそうなキスなんて
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結論から言うと、彼らにはすでに公の場で、ヨミ様の口から別の罰が言い渡されているらしい。
あの死神の少年には、再び見習いとして修行を積むことが。彼の師匠さんには、減給と左遷が。
ただ、どちらも彼らの今後の働き次第で、少年は再び一人前に。師匠さんは、前の担当地域に戻れるらしい。なので、これ以上、俺の胃が痛むようなことにはならなそうだ。
じゃあ、なんで突然、あんなことを聞いてきたのか、という俺の質問は、安心したように微笑むサタン様に、ものの見事にはぐらかされてしまった。
代わりというか、お詫びというか。毎朝お花を届けてくれている方の件は任せて欲しい、と分厚い胸板を張り約束してくれたので、それ以上は聞かないことにしたんだ。
なんとなく、だけど……バアルさんも、なにか知っているみたいだったしさ。
優しい彼のことだ。俺に言わないってことは、多分、いや絶対に、なにか深い事情があるのだろう。
だったら俺は、バアルさんを信じて待つだけだ。彼のことが、バアルさんが好きだから。
ご機嫌そうに大きな身体を揺らしながら、大きな手を振りながら、俺達の部屋を後にしたサタン様。去りゆく広い背中を見送り終えてから、追加のカップケーキを作るべく、気合を入れ直す。
「よしっ」
早速、深緑色のエプロンをつけようとしていた俺の身体が浮いた。
「ひゃ……ちょっ」
いや、抱き上げられた。引き締まった長い腕に軽々と。
正体は言わずもがなバアルさんだ。当たり前のように俺をお姫様抱っこして、スタスタと歩みを進めている。
彫りの深い顔を、じっと見上げても何のその。止まりもしなければ、視線すら合いやしない。
しなやかな足が向かう先は、部屋の奥。そこで鎮座している、大の大人が三人寝転んでもまだ余裕がありそうなベッドへと運ばれ、真っ白なシーツの上へと優しく下ろされた。
「ば、バアル……さん?」
呼びかけても返事は返ってこない。やっぱり目も合わせてはくれない。触覚と羽が、僅かに揺れ動いたくらいだ。怒っては、いないと思うけれど。
困惑している俺を前に、彼にしては珍しく雑に黒いスーツのジャケットを脱いでから、ベッドの脇へと放り投げた。
手袋を外し、緩める暇すら惜しいのか、荒々しくネクタイを解く。それらもまた無惨にも投げられていく。
ぼーっと見上げている内に、彼が纏う服は白いシャツと黒いズボンだけになっていた。逞しい長身が、仰向けに寝転ぶ俺へ影を落とす。二人目の重みを受けて、ベッドが軋んだ音を立てた。
バアルさんが俺に覆い被さってくる。俺の身体を跨いで膝をつき、手を伸ばす。
手と手が重なって、指が絡んで繋がれる。ようやく目が合った。
「あ……」
射抜くように俺を見つめる緑の瞳。いくつもの六角形のレンズで構成された、宝石みたいに美しい瞳。
色鮮やかな双眸に、すっかり俺は見惚れてしまっていた。そうして、いつの間にか心どころか吐息ごと、形のいい唇に奪われていたんだ。
「ん……」
いつもなら、優しくそっと触れてくれてから、すぐに離れていってしまうのに。
「……ふ…………ぁっ……」
角度を変えては何度も重なり、甘く食んでくれる。心臓がひっきりなしにドキドキと高鳴って、壊れてしまいそうだ。
「っ……あ…………んむ……」
のしかかられて、押さえつけられて、全然身動きが取れなくて。呼吸も……合間にしか、出来なくて。
「んん……ふぁ…………っ……」
してもらい過ぎて、おかしくなってしまったんだと思う。触れ合う度に、身体がビクビク勝手に跳ねてしまう。変に上擦った声が出てしまう。
「……ぁ…………ん……」
頭がぼーっとして、なんか宙を浮いているみたいにふわふわしてきて……こんなの、知らない。
確かに俺は、いつでも大歓迎だって言った。だけど知らない。考えてもみなかった。
こんな、全てを持っていかれてしまいそうな。心も、魂も、まるごと全部食べられてしまいそうな、キスなんて。
でも、嬉しい…………スゴく、幸せだ。
バアルさんから……強く求められているみたい。全力で、俺のこと……好きだって、言ってもらえているみたい……
あの死神の少年には、再び見習いとして修行を積むことが。彼の師匠さんには、減給と左遷が。
ただ、どちらも彼らの今後の働き次第で、少年は再び一人前に。師匠さんは、前の担当地域に戻れるらしい。なので、これ以上、俺の胃が痛むようなことにはならなそうだ。
じゃあ、なんで突然、あんなことを聞いてきたのか、という俺の質問は、安心したように微笑むサタン様に、ものの見事にはぐらかされてしまった。
代わりというか、お詫びというか。毎朝お花を届けてくれている方の件は任せて欲しい、と分厚い胸板を張り約束してくれたので、それ以上は聞かないことにしたんだ。
なんとなく、だけど……バアルさんも、なにか知っているみたいだったしさ。
優しい彼のことだ。俺に言わないってことは、多分、いや絶対に、なにか深い事情があるのだろう。
だったら俺は、バアルさんを信じて待つだけだ。彼のことが、バアルさんが好きだから。
ご機嫌そうに大きな身体を揺らしながら、大きな手を振りながら、俺達の部屋を後にしたサタン様。去りゆく広い背中を見送り終えてから、追加のカップケーキを作るべく、気合を入れ直す。
「よしっ」
早速、深緑色のエプロンをつけようとしていた俺の身体が浮いた。
「ひゃ……ちょっ」
いや、抱き上げられた。引き締まった長い腕に軽々と。
正体は言わずもがなバアルさんだ。当たり前のように俺をお姫様抱っこして、スタスタと歩みを進めている。
彫りの深い顔を、じっと見上げても何のその。止まりもしなければ、視線すら合いやしない。
しなやかな足が向かう先は、部屋の奥。そこで鎮座している、大の大人が三人寝転んでもまだ余裕がありそうなベッドへと運ばれ、真っ白なシーツの上へと優しく下ろされた。
「ば、バアル……さん?」
呼びかけても返事は返ってこない。やっぱり目も合わせてはくれない。触覚と羽が、僅かに揺れ動いたくらいだ。怒っては、いないと思うけれど。
困惑している俺を前に、彼にしては珍しく雑に黒いスーツのジャケットを脱いでから、ベッドの脇へと放り投げた。
手袋を外し、緩める暇すら惜しいのか、荒々しくネクタイを解く。それらもまた無惨にも投げられていく。
ぼーっと見上げている内に、彼が纏う服は白いシャツと黒いズボンだけになっていた。逞しい長身が、仰向けに寝転ぶ俺へ影を落とす。二人目の重みを受けて、ベッドが軋んだ音を立てた。
バアルさんが俺に覆い被さってくる。俺の身体を跨いで膝をつき、手を伸ばす。
手と手が重なって、指が絡んで繋がれる。ようやく目が合った。
「あ……」
射抜くように俺を見つめる緑の瞳。いくつもの六角形のレンズで構成された、宝石みたいに美しい瞳。
色鮮やかな双眸に、すっかり俺は見惚れてしまっていた。そうして、いつの間にか心どころか吐息ごと、形のいい唇に奪われていたんだ。
「ん……」
いつもなら、優しくそっと触れてくれてから、すぐに離れていってしまうのに。
「……ふ…………ぁっ……」
角度を変えては何度も重なり、甘く食んでくれる。心臓がひっきりなしにドキドキと高鳴って、壊れてしまいそうだ。
「っ……あ…………んむ……」
のしかかられて、押さえつけられて、全然身動きが取れなくて。呼吸も……合間にしか、出来なくて。
「んん……ふぁ…………っ……」
してもらい過ぎて、おかしくなってしまったんだと思う。触れ合う度に、身体がビクビク勝手に跳ねてしまう。変に上擦った声が出てしまう。
「……ぁ…………ん……」
頭がぼーっとして、なんか宙を浮いているみたいにふわふわしてきて……こんなの、知らない。
確かに俺は、いつでも大歓迎だって言った。だけど知らない。考えてもみなかった。
こんな、全てを持っていかれてしまいそうな。心も、魂も、まるごと全部食べられてしまいそうな、キスなんて。
でも、嬉しい…………スゴく、幸せだ。
バアルさんから……強く求められているみたい。全力で、俺のこと……好きだって、言ってもらえているみたい……
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