間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

文字の大きさ
上 下
74 / 1,047

偶然なんかじゃなかったんだ、サタン様は最初から死神さん達の話をするつもりで

しおりを挟む
「どう、思う……って?」

 質問で返してしまっていた。意図が読めなかったってのもある。でも、それ以上に驚きが上回っていたのだ。

 どうして彼らの話を、こんなタイミングで?

 俺の困惑が伝わったんだろう。少しだけ表情を和らげてくれたサタン様が、今度はゆっくりと優しい声色で問いかける。

「……おぬしの本心を、素直に包み隠さず教えて欲しいんじゃ」
 
 それでも俺の頭には、こびりついて離れなくなってしまっていた。先程の、魂ごと凍ってしまいそうな鋭い眼差しが。

 恐れは不安を、不安は新たな不安を生んでしまう。

 現に俺は結びつけてしまったのだ。以前にバアルさんが言っていた、彼らの処遇。俺が二人を赦さなかったのならば、首を切らねばいけなかったのだと。それだけの罪を犯したのだと。

 もしかして、俺が赦しても二人は赦されなかったんじゃ……

「……っ、どうか……御慈悲を、いただけないでしょうか?」

 気がつけば俺は訴え、勢いよく頭を下げていた。

「慈悲……とな?」

 訝しげな声に、おのれの膝を掴む手が震えてしまう。額に汗が滲んでいく。熱くもないのに、むしろ肌寒いくらいなのに。

「はいっ……俺なら、大丈夫ですから……怒ってませんし、元々彼らを恨んでなんかいません……それに」

 こみ上げてきた色んな感情で、ぐちゃぐちゃになってしまった頭から導き出した考え。

 たとえ俺が赦したとしても、地獄を治める王族として彼らに責任を取らせる必要が、別の重い罰を与えなければならないのかと。

 今日、俺達の部屋を訪れたのはたまたまではなく、現地獄の王であるヨミ様に代わって、そのことを伝えに来たのではないかと。

 その推論に囚われた俺は、必死に訴えていた。

「俺っ……今、スゴく幸せなんですっ……」

 立ち上がり、震える喉から声を振り絞り、頭を深く下げ、祈るように言葉を重ねていたんだ。

「大切な人に……バアルさんに出会えて…………皆さんから、受け入れていただけて……だから、どうか彼らにご慈悲を……お願いします……」

 お互いを守る為に、必死で庇い合っていた彼ら。死神さん達への罰が、どうか少しでも軽くなりますようにと。

「……バアルよ」

「…………はい」

 室内を占めている重苦しい空気。そして前方から、サタン様から放たれている威圧感に喉が勝手に締まっていく。上手く呼吸が出来ない。

 堪えられず、胃の中身を全てぶちまけてしまいそうだった俺の耳に届いたのは。

「絶っ対に、アオイ殿を逃してはならんぞっ」

「……重々承知しております」

 力強い重低音と、僅かに震える低音だった。

 逃がしてはならないって、俺を? 何で?

 お二人は、何やら分かり合っているいるようだが、俺からしたら何が何だか。

 恐る恐る顔を上げれば、余計に頭の中が疑問符で埋め尽くされた。サタン様が、真っ赤な瞳をますます赤く滲ませて、俺を見つめていたのだ。

 今までの話の流れに、泣きそうになる要素、あったっけ?

 助けを求めて横を向けば、バアルさんの瞳も潤んでいた。口元を覆い、肩を震わせている。白い頬も、優しい目元も真っ赤に染めていらっしゃる。

「へ?」

 間抜けな声を漏らした俺はようやく気がついた。俺だけが、とんでもなく明後日の方向へと、頭を働かせてしまっていたことに。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

処理中です...