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彼の優しさに甘えっぱなしじゃダメだ
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固く瞼を閉じていても感じる、強制的に俺を優しい眠りから引っ張り上げようとしてくる眩しさ。
容赦なく俺を照らしてくる白い光に、唸りながら渋々目を開けた先で、かち合った。朝日によって淡い光を帯びた、鮮やかな緑の瞳と。
「おはようございます、アオイ様」
ゆるりと目尻を下げ、俺の名を呼ぶ穏やかな低音。ふわりと綻んだ、喜びがあふれそうになっている口元。
嬉しくて仕方がないそれらに、全身の熱が一気に顔へと集中していく。モヤがかかっていた頭が、あんなに重たかった瞼が、あっという間にしゃっきり、ぱっちりする。
同時にぶわりと昨日の夢みたいな光景が。オレンジ色の光に包まれ、真っ直ぐな眼差しで見つめられながら、初めての俺に優しく触れてくれた。艶やかな笑みを浮かべた唇の、柔らかい感触が蘇ってしまっていた。
胸がいっぱいになるくらいの喜びに、目の奥がカッと熱くなるほどの恥ずかしさに襲われる。
「お、おはよう……ござい、ます……」
気がつけば、俺は額を目の前にある逞しい胸板に押しつけていた。情けなく震えた声で、バアルさんと朝の挨拶をするはめになってしまったんだ。
どうしようもない俺の背中を、バアルさんは俺より一回り大きな手で、宥めるようによしよし撫でてくれた。
どこかお加減が悪いのですか? と心配してくれた。大丈夫です、なんでもないですと、なんとかその場を押し切った。誤魔化せたと思う。
けれども、俺の状態が改善することはなかった。
宝石みたいに輝く綺麗な緑と目が合うだけで、柔らかい低音に呼ばれるだけで、全身が大げさに跳ねるわ、心臓はバクバクとはしゃぎだすわ。
彼に朝の身支度を整えてもらっている間も、朝食を食べさせてもらっている時でさえもだ。
しどろもどろになり、上手く喋ることが出来ない。それどころか、彼の顔すら、まともに見ることが出来なくなってしまっていた。
明らかに挙動不審な俺の態度にもかかわらず、バアルさんは優しかった。
時折心配そうな顔はすれど、立ち入ったことを聞きはしない。今も隣で座る俺の頭を、何も言わずにゆったり撫で回してくれている。
かといって、このまま彼の優しさに甘えっぱなしじゃダメだ。なんとかしなければ……一刻でも早く。
今までだって、そんなにテンポのいい会話が出来ていた訳じゃない。けど、こんなに常に、どうしようもなくドギマギすることはなかった。
せめていつも通り彼と向き合い、笑い合いながら話がしたい。
その為にも、少しでも、この気を抜けば胸が擽ったくなってしまう緊張に慣れる為にも、とにかく彼と会話を重ねるべきだ。
なにか、丁度いい話のとっかかりは、ないだろうか。広く整然とした高級ホテルのような室内を、きょろきょろ見回す。
そんな俺の目に入ったのは、淡いピンク色の花だった。
今朝早く、おそらくは、また俺が目覚める前に白、青、黄色に続いて新たに加わったんだろう。
窓の近くにある、横長のチェストの上に彩りを添えている。
容赦なく俺を照らしてくる白い光に、唸りながら渋々目を開けた先で、かち合った。朝日によって淡い光を帯びた、鮮やかな緑の瞳と。
「おはようございます、アオイ様」
ゆるりと目尻を下げ、俺の名を呼ぶ穏やかな低音。ふわりと綻んだ、喜びがあふれそうになっている口元。
嬉しくて仕方がないそれらに、全身の熱が一気に顔へと集中していく。モヤがかかっていた頭が、あんなに重たかった瞼が、あっという間にしゃっきり、ぱっちりする。
同時にぶわりと昨日の夢みたいな光景が。オレンジ色の光に包まれ、真っ直ぐな眼差しで見つめられながら、初めての俺に優しく触れてくれた。艶やかな笑みを浮かべた唇の、柔らかい感触が蘇ってしまっていた。
胸がいっぱいになるくらいの喜びに、目の奥がカッと熱くなるほどの恥ずかしさに襲われる。
「お、おはよう……ござい、ます……」
気がつけば、俺は額を目の前にある逞しい胸板に押しつけていた。情けなく震えた声で、バアルさんと朝の挨拶をするはめになってしまったんだ。
どうしようもない俺の背中を、バアルさんは俺より一回り大きな手で、宥めるようによしよし撫でてくれた。
どこかお加減が悪いのですか? と心配してくれた。大丈夫です、なんでもないですと、なんとかその場を押し切った。誤魔化せたと思う。
けれども、俺の状態が改善することはなかった。
宝石みたいに輝く綺麗な緑と目が合うだけで、柔らかい低音に呼ばれるだけで、全身が大げさに跳ねるわ、心臓はバクバクとはしゃぎだすわ。
彼に朝の身支度を整えてもらっている間も、朝食を食べさせてもらっている時でさえもだ。
しどろもどろになり、上手く喋ることが出来ない。それどころか、彼の顔すら、まともに見ることが出来なくなってしまっていた。
明らかに挙動不審な俺の態度にもかかわらず、バアルさんは優しかった。
時折心配そうな顔はすれど、立ち入ったことを聞きはしない。今も隣で座る俺の頭を、何も言わずにゆったり撫で回してくれている。
かといって、このまま彼の優しさに甘えっぱなしじゃダメだ。なんとかしなければ……一刻でも早く。
今までだって、そんなにテンポのいい会話が出来ていた訳じゃない。けど、こんなに常に、どうしようもなくドギマギすることはなかった。
せめていつも通り彼と向き合い、笑い合いながら話がしたい。
その為にも、少しでも、この気を抜けば胸が擽ったくなってしまう緊張に慣れる為にも、とにかく彼と会話を重ねるべきだ。
なにか、丁度いい話のとっかかりは、ないだろうか。広く整然とした高級ホテルのような室内を、きょろきょろ見回す。
そんな俺の目に入ったのは、淡いピンク色の花だった。
今朝早く、おそらくは、また俺が目覚める前に白、青、黄色に続いて新たに加わったんだろう。
窓の近くにある、横長のチェストの上に彩りを添えている。
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