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夢のようなデートの終わり
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こっそり見学させてもらうつもりが、まるでショーのような魔術の数々を、がっつり楽しませてもらってしまった。それだけでも頭が下がる思いだ。
なのに、レダさんの優しい計らいで、俺達がいつでも好きな時に来られるようにと、見学用のベンチはそのまま設置されることになったんだ。
ただ、今日の記念に俺達の氷像を溶けてしまわないように術で保存して、演習場の目立つところに飾ろうという兵士さん達からの提案は、恥ずかし過ぎるので、全力で丁重に断らさせてもらったんだけどさ。
楽しい時間が過ぎるのは、あっという間だ。
レダさん達に見送られながら、演習場を後にした頃にはすでに、青空にオレンジ色の光が滲み始めていて、真っ白な雲は淡いピンク色に染まっていた。
「そろそろお部屋に戻りましょうか」
少し冷たくなってきた風から、俺を庇うように抱き寄せてくれながら、バアルさんがふわりと微笑む。
「はい」
彼みたく上手く出来ているかは分からないけど、今の俺が出来る精一杯の笑顔で答える。
すると、ゆったりと俺の歩幅に合わせてくれている、彼の背から生えている羽が、僅かにパタパタとはためいているように見えたんだ。
……なんというか、スゴく濃い一日だったな。
すでに城内で噂が。近々俺が、バアルさんの……お、奥さんになるっていう、噂が広まっていたこともだけど。
悪魔の皆さんと違って、人間である俺のことを、好意的に受け入れてもらえていたことには驚いたな。
これも、バアルさんの人望の厚さによるものなのかもしれない。
なんせ、彼に会えただけで涙ぐんだり、拝む人まで出てしまうくらい、熱心なファンの方々がいるくらいだからなぁ。
まぁ、そもそも地獄の代表であるヨミ様やサタン様が、おおらかな性格の方々だったから。
彼らに集う人達も、自然とみんな優しくて、穏やかな方々ばかりになるのかもしれないけどさ。
「……安心致しました」
今朝よりも、行き交う人々がまばらになっていた城内に、ぽつりと耳障りのいい穏やかな低音が響く。
「貴方様が、お楽しみ頂けたようで」
茜色に染まりつつある廊下で、歩みを緩めたバアルさん。彼の宝石みたいな緑の瞳が淡い光を帯び、俺を捉えた瞬間、嬉しそうに細められた。
「は、はいっ……とっても楽しかったです」
何がとか、どういう風にとか、具体的にすらすら言えたらいいのに。
夏休みの日記か、あらすじだけしか読んでいない本の感想文みたいだ。
平々凡々な言葉でしか、胸の中で色鮮やかに煌めく彼と一緒に過ごした今日を、表現することが、伝えることが出来ない。
その事実に少しだけ、もやっとしていたっていうのに。
「それは……何よりです」
噛み締めるように呟いた彼から、柔らかい笑みを向けてもらえただけ。それだけで、あっという間に吹き飛んで、心臓がはしゃぎだしてしまう。
色々ともう、末期なのかもしれない。
「あの……バアルさんは、楽しかった……ですか?」
「ええ、勿論。貴方様さえ側で笑っていてくだされば、私の心は満たされますので」
「ひぇ……」
目尻を下げた彼から、当然のように即答されてしまった。それどころか、俺が欲しかった言葉以上のものまで。
嬉し過ぎて、膝から崩れ落ちそうになってしまった。こりゃあ、もう、かもではないな。確定しているようなもんだ。
なのに、レダさんの優しい計らいで、俺達がいつでも好きな時に来られるようにと、見学用のベンチはそのまま設置されることになったんだ。
ただ、今日の記念に俺達の氷像を溶けてしまわないように術で保存して、演習場の目立つところに飾ろうという兵士さん達からの提案は、恥ずかし過ぎるので、全力で丁重に断らさせてもらったんだけどさ。
楽しい時間が過ぎるのは、あっという間だ。
レダさん達に見送られながら、演習場を後にした頃にはすでに、青空にオレンジ色の光が滲み始めていて、真っ白な雲は淡いピンク色に染まっていた。
「そろそろお部屋に戻りましょうか」
少し冷たくなってきた風から、俺を庇うように抱き寄せてくれながら、バアルさんがふわりと微笑む。
「はい」
彼みたく上手く出来ているかは分からないけど、今の俺が出来る精一杯の笑顔で答える。
すると、ゆったりと俺の歩幅に合わせてくれている、彼の背から生えている羽が、僅かにパタパタとはためいているように見えたんだ。
……なんというか、スゴく濃い一日だったな。
すでに城内で噂が。近々俺が、バアルさんの……お、奥さんになるっていう、噂が広まっていたこともだけど。
悪魔の皆さんと違って、人間である俺のことを、好意的に受け入れてもらえていたことには驚いたな。
これも、バアルさんの人望の厚さによるものなのかもしれない。
なんせ、彼に会えただけで涙ぐんだり、拝む人まで出てしまうくらい、熱心なファンの方々がいるくらいだからなぁ。
まぁ、そもそも地獄の代表であるヨミ様やサタン様が、おおらかな性格の方々だったから。
彼らに集う人達も、自然とみんな優しくて、穏やかな方々ばかりになるのかもしれないけどさ。
「……安心致しました」
今朝よりも、行き交う人々がまばらになっていた城内に、ぽつりと耳障りのいい穏やかな低音が響く。
「貴方様が、お楽しみ頂けたようで」
茜色に染まりつつある廊下で、歩みを緩めたバアルさん。彼の宝石みたいな緑の瞳が淡い光を帯び、俺を捉えた瞬間、嬉しそうに細められた。
「は、はいっ……とっても楽しかったです」
何がとか、どういう風にとか、具体的にすらすら言えたらいいのに。
夏休みの日記か、あらすじだけしか読んでいない本の感想文みたいだ。
平々凡々な言葉でしか、胸の中で色鮮やかに煌めく彼と一緒に過ごした今日を、表現することが、伝えることが出来ない。
その事実に少しだけ、もやっとしていたっていうのに。
「それは……何よりです」
噛み締めるように呟いた彼から、柔らかい笑みを向けてもらえただけ。それだけで、あっという間に吹き飛んで、心臓がはしゃぎだしてしまう。
色々ともう、末期なのかもしれない。
「あの……バアルさんは、楽しかった……ですか?」
「ええ、勿論。貴方様さえ側で笑っていてくだされば、私の心は満たされますので」
「ひぇ……」
目尻を下げた彼から、当然のように即答されてしまった。それどころか、俺が欲しかった言葉以上のものまで。
嬉し過ぎて、膝から崩れ落ちそうになってしまった。こりゃあ、もう、かもではないな。確定しているようなもんだ。
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