47 / 906
兵士さん達の魔術ショー
しおりを挟む
鈍く光る胸当てとすね当てを身につけ、額に鋭い角を生やした兵士さん達。彼らの手の動きに合わせて動く、赤、青、黄色、緑に紫と色とりどりの炎の玉。
宙を右へ左へと行き交ったり、くるくると旋回したり、最後には遥か上空へと飛び立ち、花火のように弾けて消えていく。
俺達が彼らに拍手を送っている間にも、間髪いれずに続いていく。
次は自分の番だと言うように歩み出た、犬のような耳と尻尾を生やした兵士さん。彼が深く息を吸い込んで、演習場に敷き詰められた、石造りの床に手を置いたかと思えば、突如、彼の身の丈より大きな氷の柱が出現する。
そして、もう一人。彼の近くにいた、背中にトンボの様な半透明の羽を持った兵士さんが、氷に向かって手をかざす。途端に、いくつもの風の刃が飛んで、固そうな氷の塊を見る見るうちに削っていく。
あっという間に、二人の魔術によって出来上がったのは俺達の彫像。
特にバアルさんの氷の像は、彼のキッチリと撫でつけられたオールバックの生え際に生えている触覚や、背にある半透明な羽。
綺麗に整えられた髭が似合う口元に、いくつもの六角形のレンズで構成された複眼は勿論のこと。彼が身に纏っている執事服のシワまで完璧に、まるで本人から直接型取ったように、細部まで見事に作られていた。
晴れ渡った青空から降り注ぐ日差しを受け、キラキラと輝くバアルさんの彫像。その美しさに、見入ってしまう。
うっかり忘れてしまっていた。素晴らしい術を披露してくれた彼らに対して、拍手を送ることを。
「カッコいい……溶けるのがもったいないなぁ……」
更には口から漏らしてしまっていた。当の本人が、すぐ隣にいるってのに、心の底から思っていたことを。
「アオイ様の仰る通り、大変残念でなりません」
耳元でそっと答えた、聞き心地のいい低音に、ようやく自分のやらかしに気づく。
しかし彼は誤魔化す時間も、口を挟む余裕すら与えてはくれない。宝石みたいに煌めく緑の瞳に妖しい熱を灯し、艶やかな笑みを浮かべ続けるのだ。
「あれほどまで忠実に、貴方様の愛らしさを再現なさっているのですから……」
ただでさえ、レダさんが急遽用意してくれたベンチの真ん中に、身を寄せ合うように座ってしまっているのに。彼から香る優しいハーブの匂いに包まれて、浮かれた熱で頭がぽやぽやしていたってのに。
引き締まった長い腕で、俺を軽々と抱き上げ、向かい合う形で自分の膝の上へと乗せてしまう。更には俺の頬を、白い手袋に覆われた大きな手でゆるりと撫でてから、囁いてくるのだ。
「ただ、本物の輝きの前では、些か霞んでしまいますが」
もう俺は、いっぱいいっぱいだ。彼に伝わってしまうぐらい、心臓が踊り狂っている。けれども、彼のひたすらに甘い攻撃は止まらない。
俺の手を恭しく取ったかと思えば、喜びが溢れそうになっている唇で、甲にそっと触れてくれる。
「ひぇ…………ありがとう、ございます……」
お陰様で、全身の熱が一気に顔に集中してしまった。挙げ句、なんとも情けないひっくり返った声を出してしまっていた。
さりげなく細長い指が絡んで繋がれ、肩と一緒に俺の心臓が仲良く大きく跳ねる。
ますます嬉しそうに笑みを深めた口元に心を奪われ、つい釘付けになってしまっていると、低めのざわめきと一緒に、なにやらいくつもの視線が注がれているのを背中に感じた。
おそるおそる振り向けば案の定。微笑ましそうな眼差し達と、幾人かの涙ぐんだ瞳としっかりバッチリかち合ってしまった。
「あっ、う……ぁ……」
余計に顔が熱くなる。なんだか目の奥までジンと熱くなっているような。
俺は、逃げるように彼の逞しい胸板に顔を埋めた。ぎゅうぎゅうと抱きついてしまっていたのに何故か、兵士さん達から温かい拍手が送られた。
宙を右へ左へと行き交ったり、くるくると旋回したり、最後には遥か上空へと飛び立ち、花火のように弾けて消えていく。
俺達が彼らに拍手を送っている間にも、間髪いれずに続いていく。
次は自分の番だと言うように歩み出た、犬のような耳と尻尾を生やした兵士さん。彼が深く息を吸い込んで、演習場に敷き詰められた、石造りの床に手を置いたかと思えば、突如、彼の身の丈より大きな氷の柱が出現する。
そして、もう一人。彼の近くにいた、背中にトンボの様な半透明の羽を持った兵士さんが、氷に向かって手をかざす。途端に、いくつもの風の刃が飛んで、固そうな氷の塊を見る見るうちに削っていく。
あっという間に、二人の魔術によって出来上がったのは俺達の彫像。
特にバアルさんの氷の像は、彼のキッチリと撫でつけられたオールバックの生え際に生えている触覚や、背にある半透明な羽。
綺麗に整えられた髭が似合う口元に、いくつもの六角形のレンズで構成された複眼は勿論のこと。彼が身に纏っている執事服のシワまで完璧に、まるで本人から直接型取ったように、細部まで見事に作られていた。
晴れ渡った青空から降り注ぐ日差しを受け、キラキラと輝くバアルさんの彫像。その美しさに、見入ってしまう。
うっかり忘れてしまっていた。素晴らしい術を披露してくれた彼らに対して、拍手を送ることを。
「カッコいい……溶けるのがもったいないなぁ……」
更には口から漏らしてしまっていた。当の本人が、すぐ隣にいるってのに、心の底から思っていたことを。
「アオイ様の仰る通り、大変残念でなりません」
耳元でそっと答えた、聞き心地のいい低音に、ようやく自分のやらかしに気づく。
しかし彼は誤魔化す時間も、口を挟む余裕すら与えてはくれない。宝石みたいに煌めく緑の瞳に妖しい熱を灯し、艶やかな笑みを浮かべ続けるのだ。
「あれほどまで忠実に、貴方様の愛らしさを再現なさっているのですから……」
ただでさえ、レダさんが急遽用意してくれたベンチの真ん中に、身を寄せ合うように座ってしまっているのに。彼から香る優しいハーブの匂いに包まれて、浮かれた熱で頭がぽやぽやしていたってのに。
引き締まった長い腕で、俺を軽々と抱き上げ、向かい合う形で自分の膝の上へと乗せてしまう。更には俺の頬を、白い手袋に覆われた大きな手でゆるりと撫でてから、囁いてくるのだ。
「ただ、本物の輝きの前では、些か霞んでしまいますが」
もう俺は、いっぱいいっぱいだ。彼に伝わってしまうぐらい、心臓が踊り狂っている。けれども、彼のひたすらに甘い攻撃は止まらない。
俺の手を恭しく取ったかと思えば、喜びが溢れそうになっている唇で、甲にそっと触れてくれる。
「ひぇ…………ありがとう、ございます……」
お陰様で、全身の熱が一気に顔に集中してしまった。挙げ句、なんとも情けないひっくり返った声を出してしまっていた。
さりげなく細長い指が絡んで繋がれ、肩と一緒に俺の心臓が仲良く大きく跳ねる。
ますます嬉しそうに笑みを深めた口元に心を奪われ、つい釘付けになってしまっていると、低めのざわめきと一緒に、なにやらいくつもの視線が注がれているのを背中に感じた。
おそるおそる振り向けば案の定。微笑ましそうな眼差し達と、幾人かの涙ぐんだ瞳としっかりバッチリかち合ってしまった。
「あっ、う……ぁ……」
余計に顔が熱くなる。なんだか目の奥までジンと熱くなっているような。
俺は、逃げるように彼の逞しい胸板に顔を埋めた。ぎゅうぎゅうと抱きついてしまっていたのに何故か、兵士さん達から温かい拍手が送られた。
80
お気に入りに追加
485
あなたにおすすめの小説
嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる