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兵士さん達の魔術ショー

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 鈍く光る胸当てとすね当てを身につけ、額に鋭い角を生やした兵士さん達。彼らの手の動きに合わせて動く、赤、青、黄色、緑に紫と色とりどりの炎の玉。

 宙を右へ左へと行き交ったり、くるくると旋回したり、最後には遥か上空へと飛び立ち、花火のように弾けて消えていく。

 俺達が彼らに拍手を送っている間にも、間髪いれずに続いていく。

 次は自分の番だと言うように歩み出た、犬のような耳と尻尾を生やした兵士さん。彼が深く息を吸い込んで、演習場に敷き詰められた、石造りの床に手を置いたかと思えば、突如、彼の身の丈より大きな氷の柱が出現する。

 そして、もう一人。彼の近くにいた、背中にトンボの様な半透明の羽を持った兵士さんが、氷に向かって手をかざす。途端に、いくつもの風の刃が飛んで、固そうな氷の塊を見る見るうちに削っていく。

 あっという間に、二人の魔術によって出来上がったのは俺達の彫像。

 特にバアルさんの氷の像は、彼のキッチリと撫でつけられたオールバックの生え際に生えている触覚や、背にある半透明な羽。

 綺麗に整えられた髭が似合う口元に、いくつもの六角形のレンズで構成された複眼は勿論のこと。彼が身に纏っている執事服のシワまで完璧に、まるで本人から直接型取ったように、細部まで見事に作られていた。

 晴れ渡った青空から降り注ぐ日差しを受け、キラキラと輝くバアルさんの彫像。その美しさに、見入ってしまう。

 うっかり忘れてしまっていた。素晴らしい術を披露してくれた彼らに対して、拍手を送ることを。

「カッコいい……溶けるのがもったいないなぁ……」

 更には口から漏らしてしまっていた。当の本人が、すぐ隣にいるってのに、心の底から思っていたことを。

「アオイ様の仰る通り、大変残念でなりません」

 耳元でそっと答えた、聞き心地のいい低音に、ようやく自分のやらかしに気づく。

 しかし彼は誤魔化す時間も、口を挟む余裕すら与えてはくれない。宝石みたいに煌めく緑の瞳に妖しい熱を灯し、艶やかな笑みを浮かべ続けるのだ。

「あれほどまで忠実に、貴方様の愛らしさを再現なさっているのですから……」

 ただでさえ、レダさんが急遽用意してくれたベンチの真ん中に、身を寄せ合うように座ってしまっているのに。彼から香る優しいハーブの匂いに包まれて、浮かれた熱で頭がぽやぽやしていたってのに。

 引き締まった長い腕で、俺を軽々と抱き上げ、向かい合う形で自分の膝の上へと乗せてしまう。更には俺の頬を、白い手袋に覆われた大きな手でゆるりと撫でてから、囁いてくるのだ。

「ただ、本物の輝きの前では、些か霞んでしまいますが」

 もう俺は、いっぱいいっぱいだ。彼に伝わってしまうぐらい、心臓が踊り狂っている。けれども、彼のひたすらに甘い攻撃は止まらない。

 俺の手を恭しく取ったかと思えば、喜びが溢れそうになっている唇で、甲にそっと触れてくれる。

「ひぇ…………ありがとう、ございます……」

 お陰様で、全身の熱が一気に顔に集中してしまった。挙げ句、なんとも情けないひっくり返った声を出してしまっていた。

 さりげなく細長い指が絡んで繋がれ、肩と一緒に俺の心臓が仲良く大きく跳ねる。

 ますます嬉しそうに笑みを深めた口元に心を奪われ、つい釘付けになってしまっていると、低めのざわめきと一緒に、なにやらいくつもの視線が注がれているのを背中に感じた。

 おそるおそる振り向けば案の定。微笑ましそうな眼差し達と、幾人かの涙ぐんだ瞳としっかりバッチリかち合ってしまった。

「あっ、う……ぁ……」

 余計に顔が熱くなる。なんだか目の奥までジンと熱くなっているような。

 俺は、逃げるように彼の逞しい胸板に顔を埋めた。ぎゅうぎゅうと抱きついてしまっていたのに何故か、兵士さん達から温かい拍手が送られた。
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