間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

期待はしていたけれど、いきなりベッドで覆い被さられるのは心臓に悪すぎる

　住めば都っていうのは、どうやら部屋に対しても該当するらしい。

　静かで広く、長い廊下を歩いた先の大きな扉を開き、見慣れた青いシャンデリアの明かりに出迎えられた時。ああ、帰ってきたんだなって、知らず知らずの内にホッとしていたんだから。

　そして、それとほぼ同時に頭の片隅でぼんやりと、彼と、バアルさんと二人きりになれたなって思ってはいた。

　しかも、想像しただけで胸がドキドキして、止まらなくなるような彼とのシチュエーションを、正直ちょっとだけ期待してはいた。いたんだが。


　……さすがに、いきなり覆い被さられるのは心臓に悪すぎるんだけど。よりにもよってベッドの上で。

　確かに俺は、心のどこかで今朝の続きを……あの、大きく温かい手に思う存分甘やかされたり、あわよくば、き、キスしてもらえたりしたら嬉しいな……なんて、そんな、おこがましいことを考えていなくもなかったっていうか……考えてはいたけどさ。

　それにしたって段階がっ……二、三段どころか数十段レベルで、すっ飛ばされていないか？　いるよな？　いるだろ！

　……いや別に、嫌って訳じゃないんだけどさ。

　そもそも、バアルさんにだったら、なにをされても構わないっていうか。むしろ嬉しいというか…………って何を考えているんだ。俺は。

　高鳴りまくっている自分の鼓動しか、聞こえていなかった俺の耳元で、不意に木材が軋むような音が響く。

　音の正体は彼の、まるで俺をベッドに縫いつけるように頭の横にそっと置かれた、引き締まった長い腕によるものだった。

　いつの間にか間近に迫っていた、鼻筋の通った彼の顔。柔らかい微笑みが、大きな窓から差し込む光によってオレンジ色に染まっている。

　……そもそも、なんで、こんな状況になったんだっけ？