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一体どんな噂が、尾ひれがついたっていうんだ?
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噂ってのは大抵勝手に尾ひれがつくもんだし、広がるのも早いもんだ。
そんな中でも特に、誰と誰が付き合ってるだのなんだのっていう類いの話は、渦中の人と知り合いでなくとも、つい興味本意で聞き入ってしまうこともあるんじゃないかな。
ましてや、その噂の張本人が有名人だったり、高嶺の花のような存在だったりしたら、ついヒートアップしてしまうのも、しょうがないってのは理解はできる。できるんだが。
……一体どんな尾ひれがつけば、こういう状況になるっていうんだ。
思わず喉まで出かかっていた言葉を無理矢理飲み込む。少し気持ちを落ち着けようと深呼吸しようが、目をきつく瞑ってから開いてみようが、目の前に広がる現実が変わることはない。
相も変わらず、俺より一回りも二回りも大きな体格をした筋骨隆々の男達。もといお城の兵士の方々が、隣にいるバアルさんにならまだしも俺に対しても、何やら熱のこもった眼差しを向けている。
城内で何人かとすれ違った時にも、ほぼ確信してはいたが……やっぱり、皆さん顔がいい。色んなタイプのイケメンを集めてみましたって感じだ。
まぁ、皆さん悪魔というか、地獄の方々だから、鋭い牙や爪、尖った角を持っている方。または、昆虫みたいな羽や触覚、獣の耳や尻尾を生やしている方などなど。各々、なにかしら人間ではない部分的特徴を持ってはいるのだけれども。
しかし、俺が人間だから、悪目立ちしているであろう自覚はあったんだが……
「映像で見るより可愛らしいなっ」
「なんて澄んだ綺麗な瞳だ……本当に人間なのか?」
「いやーお似合いというか、絵になるよな。お二方とも」
バアルさんが絵になるのは当然とはいえさ、なんで、俺のことまで……やたらめったら誉めちぎってくれているんだ?
俺自身を見てからの感想にしては、内容があまりにも分不相応過ぎて、恥ずかしいんだけど……
多少距離は離れているのに、皆さんの声量が大きいせいで、漏らすことなく全部耳に入ってしまう。
あとさ、微笑ましそうに見つめている方はまだしもさ、涙ぐんだり拝んだりしている方々は一体どうしたんだ?
もしかして、バアルさんの熱烈なファンの方とかだろうか…………確かに、彼は素敵な人だ。
洗練された所作や言葉遣いは勿論カッコいいし、とても思いやりがあって優しくて……地獄の元トップであるサタン様から、魔術の腕を一級品だと認められ、現トップのヨミ様からの信頼も厚いもんな。
憧れられたり、あんな風に崇拝されちゃうのも無理はないかもしれない。俺としてはちょっと複雑だけどさ。
というか、彼らの反応が気になりすぎて、うっかり聞き流しかけてたけど、映像ってなんのことだ?
まさか、週刊誌か号外のごとく、すでに俺達の写真が城内に広まっていたり……するわけないか。流石に、それは自意識過剰すぎるな。
考えに耽りきっていた俺の手から突然。繋いでいたはずの温もりが離れていく。代わりに全身が、重力が無くなってしまったような浮遊感に襲われる。
かと思えば至近距離に現れた、鼻筋の通った端正な顔にようやく、バアルさんに抱き上げられたのだと気づいた。
「ば……っ」
今まさに開こうとしていた口が、白い手袋に覆われた人差し指に、ちょんとつつかれ塞がれてしまう。
ゆるりと細められた瞳に視線で促され、いつものように彼の首に腕を回すと、大きな手が褒めてくれているみたいに、俺の頭をゆったり撫でてくれる。
その優しい手つきと彼から香る落ち着くハーブの匂いについ、大勢の人の前だというのに首筋にすり寄ってしまっていた。
ぽやぽやしかけていた思考を引き戻したのは、ワンテンポ遅れて起こった雄々しい歓声。釣られて目を向けると五、六人だったはずのギャラリーが、いつの間にか十数人に増えてしまっていた。
驚きよりも、後悔が勝ったんだろう。半開きの口から、ため息が漏れてしまう。
こんな騒ぎになるんだったら、図書館か城下町が見渡せるっていう塔にしておくんだったなぁ……
そんな中でも特に、誰と誰が付き合ってるだのなんだのっていう類いの話は、渦中の人と知り合いでなくとも、つい興味本意で聞き入ってしまうこともあるんじゃないかな。
ましてや、その噂の張本人が有名人だったり、高嶺の花のような存在だったりしたら、ついヒートアップしてしまうのも、しょうがないってのは理解はできる。できるんだが。
……一体どんな尾ひれがつけば、こういう状況になるっていうんだ。
思わず喉まで出かかっていた言葉を無理矢理飲み込む。少し気持ちを落ち着けようと深呼吸しようが、目をきつく瞑ってから開いてみようが、目の前に広がる現実が変わることはない。
相も変わらず、俺より一回りも二回りも大きな体格をした筋骨隆々の男達。もといお城の兵士の方々が、隣にいるバアルさんにならまだしも俺に対しても、何やら熱のこもった眼差しを向けている。
城内で何人かとすれ違った時にも、ほぼ確信してはいたが……やっぱり、皆さん顔がいい。色んなタイプのイケメンを集めてみましたって感じだ。
まぁ、皆さん悪魔というか、地獄の方々だから、鋭い牙や爪、尖った角を持っている方。または、昆虫みたいな羽や触覚、獣の耳や尻尾を生やしている方などなど。各々、なにかしら人間ではない部分的特徴を持ってはいるのだけれども。
しかし、俺が人間だから、悪目立ちしているであろう自覚はあったんだが……
「映像で見るより可愛らしいなっ」
「なんて澄んだ綺麗な瞳だ……本当に人間なのか?」
「いやーお似合いというか、絵になるよな。お二方とも」
バアルさんが絵になるのは当然とはいえさ、なんで、俺のことまで……やたらめったら誉めちぎってくれているんだ?
俺自身を見てからの感想にしては、内容があまりにも分不相応過ぎて、恥ずかしいんだけど……
多少距離は離れているのに、皆さんの声量が大きいせいで、漏らすことなく全部耳に入ってしまう。
あとさ、微笑ましそうに見つめている方はまだしもさ、涙ぐんだり拝んだりしている方々は一体どうしたんだ?
もしかして、バアルさんの熱烈なファンの方とかだろうか…………確かに、彼は素敵な人だ。
洗練された所作や言葉遣いは勿論カッコいいし、とても思いやりがあって優しくて……地獄の元トップであるサタン様から、魔術の腕を一級品だと認められ、現トップのヨミ様からの信頼も厚いもんな。
憧れられたり、あんな風に崇拝されちゃうのも無理はないかもしれない。俺としてはちょっと複雑だけどさ。
というか、彼らの反応が気になりすぎて、うっかり聞き流しかけてたけど、映像ってなんのことだ?
まさか、週刊誌か号外のごとく、すでに俺達の写真が城内に広まっていたり……するわけないか。流石に、それは自意識過剰すぎるな。
考えに耽りきっていた俺の手から突然。繋いでいたはずの温もりが離れていく。代わりに全身が、重力が無くなってしまったような浮遊感に襲われる。
かと思えば至近距離に現れた、鼻筋の通った端正な顔にようやく、バアルさんに抱き上げられたのだと気づいた。
「ば……っ」
今まさに開こうとしていた口が、白い手袋に覆われた人差し指に、ちょんとつつかれ塞がれてしまう。
ゆるりと細められた瞳に視線で促され、いつものように彼の首に腕を回すと、大きな手が褒めてくれているみたいに、俺の頭をゆったり撫でてくれる。
その優しい手つきと彼から香る落ち着くハーブの匂いについ、大勢の人の前だというのに首筋にすり寄ってしまっていた。
ぽやぽやしかけていた思考を引き戻したのは、ワンテンポ遅れて起こった雄々しい歓声。釣られて目を向けると五、六人だったはずのギャラリーが、いつの間にか十数人に増えてしまっていた。
驚きよりも、後悔が勝ったんだろう。半開きの口から、ため息が漏れてしまう。
こんな騒ぎになるんだったら、図書館か城下町が見渡せるっていう塔にしておくんだったなぁ……
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