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甘えたい+尽くしたい=相性抜群?
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空気が、ガラリと変わった。俺達の間で漂っていた和やかな空気が、妙に背中の辺りが擽ったくなってしまうものへと。
おまけに、ゆっくりと彼が前に屈んできたせいで、互いの距離までぐっと近くなってしまう。
あの瞳に帯びる熱のせいだ。思わず身を捩りたくなるほどに、気持ちがそわそわしてしまうのは。
俺の頬に添えられた大きな手のせいだ。妖しく微笑む口元から目が離せないのは。
「では、今後の参考にさせて頂きたいので、どう不味いのか……この老骨めに、ご教示頂けますでしょうか?」
そんなご丁寧に、教えてくれと頼まれたって。恥ずかし過ぎて言える訳がない。
「あ、ぅ…………なっちゃう、から……」
ハズなのに……一度、彼の前で洗いざらい情けない自分を晒け出してしまったせいなんだろうか。
まるで操られているみたいに、自然と俺の口は動き始めていた。
「もっと、バアルさんに…………甘えたく、なっちゃうから…………です」
ちゃんと彼から目を逸らすこともなく、思っていたことを、まるっとそのまま白状してしまっていた。
案の定、静まり返ってしまった。聞こえるのは、俺の乱れた息と、バカでかい心音しか。
熱くなっていた全身が一気に寒気を覚え、背中に変な汗が伝い出す。
なんで、こう、彼に引かれてしまうようなことばかり言ってしまうんだろう。膝枕してもらっただけで甘えたくなるとか、意味が分からないだろ。普通。
空回ってばかりの自分に、溜め息どころか涙まで出そうになっていた。
「……でしたら、何も問題はございませんね」
「へ?」
大きな手が、俺の頬をゆるりと撫でる。見開いていたはずの瞳は、何故か嬉しそうに細められていた。
だんだんと、スローモーションみたいに、彫りの深い顔が近づいてくる。額に何か柔らかいものが、優しく触れてから離れていく。
「どうぞ存分に、私めにお甘えなさって下さい」
困惑しまくっている俺の頭では、バアルさんからキスしてもらえたことですら、いまだにきちんと処理することが出来ていない。
そんな俺の状態なんてお構いなしに、畳み掛けてくる。
「心配はご無用です。私、愛する御方には尽くしたい性質でして」
艶やかな笑みを浮かべた唇が、俺に向かってドカドカと言葉の爆弾を落としてくる。
そのせいだ、絶対に。何度も、何度も、胸の奥が、きゅっと締めつけられてしまったのは。
「ですから、アオイ様との相性が大変良いかと存じます」
バアルさんが俺の手を、両手で包み込むようにぎゅっと強く握ってくれる。宝石のような瞳を、キラキラ輝かせている。
「ひゃい…………そう、ですね?」
応えるだけで精一杯だった。期待に満ちあふれている彼の手を、握り返すなんて。そんな余裕、俺にある訳がなかった。
「早速ですが、アオイ様。私めに、どのようなことをお望みでしょう?」
「えっと……じゃあ…………このまま、頭を撫でてくれませんか?」
「畏まりました」
ニコリと微笑みかけてくれたバアルさんは、ご機嫌そう。背中の透き通った羽を、小さくパタパタとはためかせている。
だから、つい、俺も調子に乗ってしまった。少し骨ばった手のひらの温もりを、思う存分堪能してしまった。
彼の優しさに溺れてしまっていたんだ。晩ごはんを知らせにコルテが、ぽんっと俺達の目の前に現れるまで、ずっと。
朝ごはん兼昼ごはんだった、スープと豪華な仲間達。それらを、バアルさんと一緒にいただいた時に比べ、俺の胃の状態は良くなっていた。
綺麗に平らげたお皿によって、おそらく調理場の方々にも伝わったんだろう。バージョンアップされていた。
メインは消化に良さそうな、卵たっぷりの小ぶりな土鍋でくつくつと煮られたお粥。
けれども、少し果物の種類が増えていたり、スープの野菜が大きめに切られていたり。大根おろしが乗った白いハンバーグ。多分豆腐のが、あったりと。
そして、これまた着替えの手伝い同様、いつの間にかな恒例行事。食べさせ合いという名の、バアルさんから俺への餌付けだが、滞りなく、二人で美味しくいただくことが出来た。
理由は多分、事前に彼とのスキンシップを過剰に摂取していたこと。お昼よりも、俺が落ち着いていたことの二つだろう。今回は、ちゃんと最初から料理を味わう余裕もあったしな。
室内を照らす明かりは、茜色の夕日から、淡く光る青い石のシャンデリアのみに。更には、丁度よくお腹が満たされれば当然眠気が、待っていましたと言わんばかりにやってくる訳で。
俺は、ソファーで船を漕ぎかけてしまっていた。
食べ終えたお皿や、空になったグラスを配膳ワゴンへと片付けてくれていたバアルさん。心配そうな顔をした彼が隣に腰掛け、顔色を窺うようにそっと覗き込んでくる。
「些か早うございますが、御休みになりますか?」
「……はい、そうします」
重たくなってきた瞼を、トレーナーの裾でこすりながら応えると、鼻先をハーブの香りが擽った。
俺の身体を包み込む温もりと、突然襲ってきた浮遊感。眠気でぼんやりとしていた頭でも、流石に気づく。バアルさんから、抱き抱えられているのだと。
「失礼、しっかり掴まっていて下さいね」
「は、はい……」
いやはや、条件反射というのは恐ろしいものだ。
彼の腕の中に居るのだと脳が認識した途端にだ。さっきまで一定のリズムを刻んでいた心臓が、アホになったみたいにドキドキはしゃぎ始めてしまう。
それでも迷惑をかけてはいけないと、引き締まった首に腕を回せば、俺のことを子供扱いしてくる彼が、「いい子ですね」と囁いてくる。胸の奥がきゅっとするような、優しい響きを持った低音で。
その上、よしよしと頭を撫で回してくるもんだから、困ってしまう。
すっかり熱くなってしまった俺の顔から、湯気が出かかっていた頃。俺の身体が、ゆっくり降ろされた。広々とした部屋の奥でどっしり構えている、キングサイズよりも大きそうなベッドへと。
優しく全身を包み込む、お日様の匂いがするフカフカの掛け布団。その心地よさに思わず俺は、いそいそと潜り込み、肌触りのいいシーツに頬を擦り寄せてしまっていた。
よっぽどだらしのない顔をしていたのだろう。クスクスと声を抑え、静かに笑う声が聞こえる。
そちらへ視線を向ければ、微笑ましそう瞳を細めたバアルさんと目が合った。
彼も、お休みするんだろう。すでにスーツのジャケットを脱ぎ、ネクタイを外し、襟元も緩めている。白いカッターシャツに黒のベスト姿になった彼が、カッコいい髭を蓄えた口元に手を当て、俺を見下ろしていた。
「申し訳ございません……貴方様の仕草があまりにも愛らしかったものですから」
「いえ……大丈夫ですよ……全然、気にしてませんから」
嘘だ。ちょっとは気にしてる。恥ずかしいもんは恥ずかしいからな。
特にバアルさんには、男として情けないところやカッコ悪いところは見られたくない。前者はもう、今更な気もするが。
「ご慈悲に感謝致します」
そんな、大げさに謝るようなことじゃないのに。律儀な彼は、俺に向かって角度のついた綺麗なお辞儀を披露した。
胸に手を当て、軽く息を吐いてから頬を綻ばせる。その優しさがこぼれんばかりの唇に、落ち着きかけていた心臓が、またもや大きく跳ねてしまっていた。
「いっ、いえ……それじゃあ、お休みなさいっ」
これ以上彼に微笑みかけられてしまったら、あの宝石のような瞳に見つめられてしまったら。眠気なんて、あっという間に吹き飛んでしまう。それはマズい。
だから、背を向けたっていうのに。布団を頭の上まで被ったっていうのに。
「お休みなさいませ」
何かの重みを受け、ギシリと音を立ててベッドが沈んだ。直後、すぐ側で「失礼致します」と彼の柔らかい低音が聞こえてくる。
俺の頭が持ち上げられ、素早く弾力のあるものが頭の下に差し込まれる。
背中にじんわり感じる温もり、お腹の辺りにするりと回された覚えのある感触。もう、解ってしまっていた。解らないハズがなかった。
なのに、思いもよらない事態にとっ散らかってしまった頭は、身に起きているであろう事実を受け入れられなかった。
そんな訳がないと、身体の向きを変えてしまっていたのだ。
もし、10秒前に戻ることが出来るのならば、俺に言ってやりたい。
何をやっているんだと、さっさと目をつぶって寝てしまえと。そう言ってやりたい。言ってやりたかった。
おまけに、ゆっくりと彼が前に屈んできたせいで、互いの距離までぐっと近くなってしまう。
あの瞳に帯びる熱のせいだ。思わず身を捩りたくなるほどに、気持ちがそわそわしてしまうのは。
俺の頬に添えられた大きな手のせいだ。妖しく微笑む口元から目が離せないのは。
「では、今後の参考にさせて頂きたいので、どう不味いのか……この老骨めに、ご教示頂けますでしょうか?」
そんなご丁寧に、教えてくれと頼まれたって。恥ずかし過ぎて言える訳がない。
「あ、ぅ…………なっちゃう、から……」
ハズなのに……一度、彼の前で洗いざらい情けない自分を晒け出してしまったせいなんだろうか。
まるで操られているみたいに、自然と俺の口は動き始めていた。
「もっと、バアルさんに…………甘えたく、なっちゃうから…………です」
ちゃんと彼から目を逸らすこともなく、思っていたことを、まるっとそのまま白状してしまっていた。
案の定、静まり返ってしまった。聞こえるのは、俺の乱れた息と、バカでかい心音しか。
熱くなっていた全身が一気に寒気を覚え、背中に変な汗が伝い出す。
なんで、こう、彼に引かれてしまうようなことばかり言ってしまうんだろう。膝枕してもらっただけで甘えたくなるとか、意味が分からないだろ。普通。
空回ってばかりの自分に、溜め息どころか涙まで出そうになっていた。
「……でしたら、何も問題はございませんね」
「へ?」
大きな手が、俺の頬をゆるりと撫でる。見開いていたはずの瞳は、何故か嬉しそうに細められていた。
だんだんと、スローモーションみたいに、彫りの深い顔が近づいてくる。額に何か柔らかいものが、優しく触れてから離れていく。
「どうぞ存分に、私めにお甘えなさって下さい」
困惑しまくっている俺の頭では、バアルさんからキスしてもらえたことですら、いまだにきちんと処理することが出来ていない。
そんな俺の状態なんてお構いなしに、畳み掛けてくる。
「心配はご無用です。私、愛する御方には尽くしたい性質でして」
艶やかな笑みを浮かべた唇が、俺に向かってドカドカと言葉の爆弾を落としてくる。
そのせいだ、絶対に。何度も、何度も、胸の奥が、きゅっと締めつけられてしまったのは。
「ですから、アオイ様との相性が大変良いかと存じます」
バアルさんが俺の手を、両手で包み込むようにぎゅっと強く握ってくれる。宝石のような瞳を、キラキラ輝かせている。
「ひゃい…………そう、ですね?」
応えるだけで精一杯だった。期待に満ちあふれている彼の手を、握り返すなんて。そんな余裕、俺にある訳がなかった。
「早速ですが、アオイ様。私めに、どのようなことをお望みでしょう?」
「えっと……じゃあ…………このまま、頭を撫でてくれませんか?」
「畏まりました」
ニコリと微笑みかけてくれたバアルさんは、ご機嫌そう。背中の透き通った羽を、小さくパタパタとはためかせている。
だから、つい、俺も調子に乗ってしまった。少し骨ばった手のひらの温もりを、思う存分堪能してしまった。
彼の優しさに溺れてしまっていたんだ。晩ごはんを知らせにコルテが、ぽんっと俺達の目の前に現れるまで、ずっと。
朝ごはん兼昼ごはんだった、スープと豪華な仲間達。それらを、バアルさんと一緒にいただいた時に比べ、俺の胃の状態は良くなっていた。
綺麗に平らげたお皿によって、おそらく調理場の方々にも伝わったんだろう。バージョンアップされていた。
メインは消化に良さそうな、卵たっぷりの小ぶりな土鍋でくつくつと煮られたお粥。
けれども、少し果物の種類が増えていたり、スープの野菜が大きめに切られていたり。大根おろしが乗った白いハンバーグ。多分豆腐のが、あったりと。
そして、これまた着替えの手伝い同様、いつの間にかな恒例行事。食べさせ合いという名の、バアルさんから俺への餌付けだが、滞りなく、二人で美味しくいただくことが出来た。
理由は多分、事前に彼とのスキンシップを過剰に摂取していたこと。お昼よりも、俺が落ち着いていたことの二つだろう。今回は、ちゃんと最初から料理を味わう余裕もあったしな。
室内を照らす明かりは、茜色の夕日から、淡く光る青い石のシャンデリアのみに。更には、丁度よくお腹が満たされれば当然眠気が、待っていましたと言わんばかりにやってくる訳で。
俺は、ソファーで船を漕ぎかけてしまっていた。
食べ終えたお皿や、空になったグラスを配膳ワゴンへと片付けてくれていたバアルさん。心配そうな顔をした彼が隣に腰掛け、顔色を窺うようにそっと覗き込んでくる。
「些か早うございますが、御休みになりますか?」
「……はい、そうします」
重たくなってきた瞼を、トレーナーの裾でこすりながら応えると、鼻先をハーブの香りが擽った。
俺の身体を包み込む温もりと、突然襲ってきた浮遊感。眠気でぼんやりとしていた頭でも、流石に気づく。バアルさんから、抱き抱えられているのだと。
「失礼、しっかり掴まっていて下さいね」
「は、はい……」
いやはや、条件反射というのは恐ろしいものだ。
彼の腕の中に居るのだと脳が認識した途端にだ。さっきまで一定のリズムを刻んでいた心臓が、アホになったみたいにドキドキはしゃぎ始めてしまう。
それでも迷惑をかけてはいけないと、引き締まった首に腕を回せば、俺のことを子供扱いしてくる彼が、「いい子ですね」と囁いてくる。胸の奥がきゅっとするような、優しい響きを持った低音で。
その上、よしよしと頭を撫で回してくるもんだから、困ってしまう。
すっかり熱くなってしまった俺の顔から、湯気が出かかっていた頃。俺の身体が、ゆっくり降ろされた。広々とした部屋の奥でどっしり構えている、キングサイズよりも大きそうなベッドへと。
優しく全身を包み込む、お日様の匂いがするフカフカの掛け布団。その心地よさに思わず俺は、いそいそと潜り込み、肌触りのいいシーツに頬を擦り寄せてしまっていた。
よっぽどだらしのない顔をしていたのだろう。クスクスと声を抑え、静かに笑う声が聞こえる。
そちらへ視線を向ければ、微笑ましそう瞳を細めたバアルさんと目が合った。
彼も、お休みするんだろう。すでにスーツのジャケットを脱ぎ、ネクタイを外し、襟元も緩めている。白いカッターシャツに黒のベスト姿になった彼が、カッコいい髭を蓄えた口元に手を当て、俺を見下ろしていた。
「申し訳ございません……貴方様の仕草があまりにも愛らしかったものですから」
「いえ……大丈夫ですよ……全然、気にしてませんから」
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特にバアルさんには、男として情けないところやカッコ悪いところは見られたくない。前者はもう、今更な気もするが。
「ご慈悲に感謝致します」
そんな、大げさに謝るようなことじゃないのに。律儀な彼は、俺に向かって角度のついた綺麗なお辞儀を披露した。
胸に手を当て、軽く息を吐いてから頬を綻ばせる。その優しさがこぼれんばかりの唇に、落ち着きかけていた心臓が、またもや大きく跳ねてしまっていた。
「いっ、いえ……それじゃあ、お休みなさいっ」
これ以上彼に微笑みかけられてしまったら、あの宝石のような瞳に見つめられてしまったら。眠気なんて、あっという間に吹き飛んでしまう。それはマズい。
だから、背を向けたっていうのに。布団を頭の上まで被ったっていうのに。
「お休みなさいませ」
何かの重みを受け、ギシリと音を立ててベッドが沈んだ。直後、すぐ側で「失礼致します」と彼の柔らかい低音が聞こえてくる。
俺の頭が持ち上げられ、素早く弾力のあるものが頭の下に差し込まれる。
背中にじんわり感じる温もり、お腹の辺りにするりと回された覚えのある感触。もう、解ってしまっていた。解らないハズがなかった。
なのに、思いもよらない事態にとっ散らかってしまった頭は、身に起きているであろう事実を受け入れられなかった。
そんな訳がないと、身体の向きを変えてしまっていたのだ。
もし、10秒前に戻ることが出来るのならば、俺に言ってやりたい。
何をやっているんだと、さっさと目をつぶって寝てしまえと。そう言ってやりたい。言ってやりたかった。
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