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とある兵士達の雑談、二色のカップケーキを添えて
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ヤツの腕っぷしの強さには昔から、兵士になってからは特に助けられているし、頼りにもしている。
多少……いや大分、がさつなところはあれど、俺にはない思い切りの良さや常に前向きな性格にも。
「いやーなんとかなったな。お前の足を凍らされた時はマジで焦ったわ」
大きく股を開いてどっしりと向かいの席に腰掛けている、ヤツの黒い鱗に覆われた太い指が、丁寧にラッピングされている緑のリボンを無造作に解く。
「でもよ、いくら溶かす為とはいえ……自分の身体を燃やして特攻するなんてよ……相変わらず無茶するよな、お前……」
少しは俺の心臓も労ってくれ、と鋭い牙が生え揃った口から大げさなため息を吐く。
「まぁ、お陰で不意をつけたし……初っ端から負けてたら、アオイ様の親衛隊なんて夢のまた夢だけどなぁ……」
ぶつぶつぼやきながら、解いたリボンをテーブルの上へと無造作に。そして透明な袋の中に綺麗に四つ収まっている、黄色と薄茶のカップケーキを一つずつ取り出した。
「よりにもよって、総当たり戦だしよ……」
眉間にシワを寄せ、また溜め息を一つ。カップケーキの底についている紙を、それぞれ粗雑に剥がしていく。そして二色のカップケーキを、あろうことか二つまとめて、大きな口へと放り込んでしまった。
……俺には考えられない。思いついたとしても、絶対に実行出来ない愚行だ。羨ましい。
「お、うめぇ。紅茶のケーキってのもアリだな」
黄色の目を細め、誰に言うでもなく呟いたヤツの長い尻尾が左右に大きく揺れる。触り心地のよさそうなすべすべの鱗が、室内の明かりに照らされ黒々と光る。
……確か、バアル様が淹れる紅茶は絶品だと聞いたことがあるな。
まさか、あのカップケーキにも、その茶葉が使われているんじゃないか?
ということは……バアル様が普段愛用している茶葉で、アオイ様がカップケーキをお作りに?
……なんか…………いいな。
「……まぁ、全員と戦って、一番勝った三組をってなら……そりゃあ皆、文句はないだろうが……って聞いてんのか?」
「ん、ああ……聞いてるよ」
「だったら、相槌くらい打てよ。大丈夫か? ぼーっとして……」
胸を満たす温かいものを、一人噛み締めていた俺の頭にぽん、ぽんと、鋭い爪が生えたヤツの黒い手がのり、無遠慮にわしゃわしゃかき混ぜてくる。
「ごめんごめん、大丈夫だよ」
「そうか? ならいいけどよ…………あっ、そうだ。お前、糖分足りてないんじゃないか? ほら食えよ、うめぇぞっ」
さっきの試合は大変だったからな、と残りのカップケーキの内の一つ。紅茶の方を摘んでから、俺の口元へと差し出してきた。
「…………いや、それ……お前のだろ」
鼻先にふわりと漂う花のような甘い香りに、思わずかぶりつきたくなる衝動を、こっちは必死に堪えているってのに。
「頑張ったご褒美だよ、俺からの。まだ温かいからうまいぜ?」
ヤツはあっけらかんとした笑顔を浮かべ、差し出しているケーキを俺の前でゆらゆら揺らしながら誘惑してくる。
危うく、ヤツの指まで噛んでしまいそうになるところだった。そのくらいに俺は、勢いよく薄茶色のケーキに食らいついてしまっていた。
口いっぱいに広がる甘さと同じくらい、優しい魔力のこもったカップケーキに、じんわりと心が満たされていく。頬が緩んで、勝手に尻尾が揺れてしまう。
「…………美味しいな」
「だろ?」
自分が作った訳でもないのに、ヤツは得意げだ。分厚い胸板を張って、笑っている。
おまけに「プレーンもうまかったぜ?」とにやにや口の端を持ち上げながら、再び俺を誘惑してくる。
そんなことを言われてしまったら、一度カップケーキの味を知ってしまったら、我慢なんて出来る訳がない。
手早く、でも出来るだけ丁寧に、手元の袋を飾るリボンを解く。
そうして、口にした黄色いケーキの味は、少しずつゆっくり食べようと思っていたのに、一気に頬張ってしまったほどに美味しくて。
ついもう一個と、今度は紅茶味を取り出していた俺を見て、ますます笑みを深めたヤツに。
こうでもされなきゃ、またアオイ様からのご厚意をムダにしかねなかった俺を、焚きつけてくれたヤツに。
代わりに一杯奢ってくれ、と持っていたカップケーキを渡すと何故か「律儀だなぁお前」と笑われてしまった。
多少……いや大分、がさつなところはあれど、俺にはない思い切りの良さや常に前向きな性格にも。
「いやーなんとかなったな。お前の足を凍らされた時はマジで焦ったわ」
大きく股を開いてどっしりと向かいの席に腰掛けている、ヤツの黒い鱗に覆われた太い指が、丁寧にラッピングされている緑のリボンを無造作に解く。
「でもよ、いくら溶かす為とはいえ……自分の身体を燃やして特攻するなんてよ……相変わらず無茶するよな、お前……」
少しは俺の心臓も労ってくれ、と鋭い牙が生え揃った口から大げさなため息を吐く。
「まぁ、お陰で不意をつけたし……初っ端から負けてたら、アオイ様の親衛隊なんて夢のまた夢だけどなぁ……」
ぶつぶつぼやきながら、解いたリボンをテーブルの上へと無造作に。そして透明な袋の中に綺麗に四つ収まっている、黄色と薄茶のカップケーキを一つずつ取り出した。
「よりにもよって、総当たり戦だしよ……」
眉間にシワを寄せ、また溜め息を一つ。カップケーキの底についている紙を、それぞれ粗雑に剥がしていく。そして二色のカップケーキを、あろうことか二つまとめて、大きな口へと放り込んでしまった。
……俺には考えられない。思いついたとしても、絶対に実行出来ない愚行だ。羨ましい。
「お、うめぇ。紅茶のケーキってのもアリだな」
黄色の目を細め、誰に言うでもなく呟いたヤツの長い尻尾が左右に大きく揺れる。触り心地のよさそうなすべすべの鱗が、室内の明かりに照らされ黒々と光る。
……確か、バアル様が淹れる紅茶は絶品だと聞いたことがあるな。
まさか、あのカップケーキにも、その茶葉が使われているんじゃないか?
ということは……バアル様が普段愛用している茶葉で、アオイ様がカップケーキをお作りに?
……なんか…………いいな。
「……まぁ、全員と戦って、一番勝った三組をってなら……そりゃあ皆、文句はないだろうが……って聞いてんのか?」
「ん、ああ……聞いてるよ」
「だったら、相槌くらい打てよ。大丈夫か? ぼーっとして……」
胸を満たす温かいものを、一人噛み締めていた俺の頭にぽん、ぽんと、鋭い爪が生えたヤツの黒い手がのり、無遠慮にわしゃわしゃかき混ぜてくる。
「ごめんごめん、大丈夫だよ」
「そうか? ならいいけどよ…………あっ、そうだ。お前、糖分足りてないんじゃないか? ほら食えよ、うめぇぞっ」
さっきの試合は大変だったからな、と残りのカップケーキの内の一つ。紅茶の方を摘んでから、俺の口元へと差し出してきた。
「…………いや、それ……お前のだろ」
鼻先にふわりと漂う花のような甘い香りに、思わずかぶりつきたくなる衝動を、こっちは必死に堪えているってのに。
「頑張ったご褒美だよ、俺からの。まだ温かいからうまいぜ?」
ヤツはあっけらかんとした笑顔を浮かべ、差し出しているケーキを俺の前でゆらゆら揺らしながら誘惑してくる。
危うく、ヤツの指まで噛んでしまいそうになるところだった。そのくらいに俺は、勢いよく薄茶色のケーキに食らいついてしまっていた。
口いっぱいに広がる甘さと同じくらい、優しい魔力のこもったカップケーキに、じんわりと心が満たされていく。頬が緩んで、勝手に尻尾が揺れてしまう。
「…………美味しいな」
「だろ?」
自分が作った訳でもないのに、ヤツは得意げだ。分厚い胸板を張って、笑っている。
おまけに「プレーンもうまかったぜ?」とにやにや口の端を持ち上げながら、再び俺を誘惑してくる。
そんなことを言われてしまったら、一度カップケーキの味を知ってしまったら、我慢なんて出来る訳がない。
手早く、でも出来るだけ丁寧に、手元の袋を飾るリボンを解く。
そうして、口にした黄色いケーキの味は、少しずつゆっくり食べようと思っていたのに、一気に頬張ってしまったほどに美味しくて。
ついもう一個と、今度は紅茶味を取り出していた俺を見て、ますます笑みを深めたヤツに。
こうでもされなきゃ、またアオイ様からのご厚意をムダにしかねなかった俺を、焚きつけてくれたヤツに。
代わりに一杯奢ってくれ、と持っていたカップケーキを渡すと何故か「律儀だなぁお前」と笑われてしまった。
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