間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

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俺は色ボケしてしまっているらしい、救いようがないレベルで

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 青い石で出来たシャンデリアに照らされ、淡く光る透明な石。手のひらサイズの小さな箱の中心に収まっている石に、白い手袋に覆われた指先が触れた途端だった。

 石全体がぼんやりと輝き始める。石の色が、グラデーションのように徐々に、下から紫色へと変わっていく。

「スゴい……綺麗ですね」

「此方の魔宝石は、その名の通り、宝石として装飾品に用いられます」

 長い指が小箱から石を摘む。俺の手を取り、そっと乗せた。

 手のひらの上で輝く石は、元からそうだったかのように完全に、濃い紫色になってしまっていた。

「こちらは、魔力調整の練習用に作られた物ですから透明ですが、多種多様な色の石がございますよ」

 例えば以前、貴方様がお召になられたループタイにあしらわれていたものも魔宝石ですよと。

 柔らかい笑みを湛えながらバアルさんは、今度は俺の首元を、なぞるようにするりと撫でた。

 それだけのスキンシップで俺は、一気に体温が上昇し、ドキドキと胸を高鳴らせてしまう。

 おまけに魔術の鍛錬中だというのに、もっと触って欲しい、撫でてもらいたいなどという、烏滸がましい欲求が湧いてきてしまうんだ。

 本当に、救いようがないレベルで色ボケしてしまっているんだと思う。

「あ……ぅ……い、今、石の色は紫だから……魔力の量は安定してるってこと、でしたよね?」

 いつもと変わらず、平然とした顔をしている彼にバレないように、自分の太ももを思いっきりつねる。

 そうすることで、なんとか身体の奥の方から込み上げてくる、そわそわした感覚を押し込め、尋ねた。

「ええ、付与する魔力が不十分ですと、このように青く」

 再び彼が触れた石が、今度はゆっくりと紫から青色に染まっていく。

「逆に多すぎれば……赤くなります」

 ふっと軽く息を吐いた彼の指先が、突然強く輝いたかと思えば、呼応するように石が激しく真っ赤に光った。

「魔宝石ですから、このように強く光るだけです。が、もし此方のポットやティーカップに、同様の魔力を付与してしまった場合……」

「魔力の強さに耐えられず、ヒビが入ったり割れたりしちゃうんですね」

「ええ、左様でございます」

 バアルさん曰く、物に対して魔術を行使する時には、自分の中で練り上げた魔力を付与する必要があるという。

 ただ、その量の調整を誤れば、彼が例に挙げたように操ろうとした物を壊してしまうらしい。

 だから、まずは練習用の魔宝石を用いて、付与する上で適切な量を、身体で覚えていくんだと。

 俺は毎日地道にバアルさんと練習を重ね、自分だけでも魔力を練り上げられるようになった。そうして今回、次のステップである、魔力を調整する練習へと進めることになったんだ。

 よく出来ましたね、と大きな手がよしよしと俺の頭を撫でてくれる。

「えっと……じゃあ、とりあえず……この石に魔力を込めてみればいいんですよね?」

 バアルさんに……す、好きな人に褒めてもらい、またしても、だらしなく緩みそうになっていた頬を、俺は必死に引き締めようとしていた。

「……ええ、上手に出来ましたら、ご褒美を差し上げますね」

 なのに、突然甘ったるい雰囲気を漂わせた低音で、胸のときめきが止まらなくなるようなことを囁いてくれるもんだから、うっかり石を落っことしそうになってしまう。

 それだけじゃない。全身の力が抜けてずるずると、背もたれに銀の装飾が施された、座り心地抜群のソファーから落ちそうになってしまった。
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