34 / 1,047
キスして欲しいって意味での好きです!
しおりを挟む
一体、これの何が大丈夫だって言うんだ。
上手い具合にフォローも出来ていないどころか、言わなくていいことまで口走ってるじゃないか。
徐々に熱くなっていく俺の顔を、じっと映し続けている瞳から逃げるように目を逸らす。
俺にとっては非常に居たたまれない、ほんの少しの沈黙の後に、押し殺すように小さく笑う声が耳に届いた。
当たり前だけど、声の主はバアルさんだ。俺と目が合うと「申し訳ございません」と謝りつつも、ツボにでも入ったのか、クスクスと堪えることなく笑い続けている。
これは、ある意味結果オーライかもしれない。彼の瞳に宿っていた影を、消し去ることが出来たんだから。
「重ね重ね申し訳ございませんでした」
スイッチが切り替わったみたいに突然、平静さを取り戻したバアルさん。すくっと立ち上がり、すらりと伸びた体躯を傾け、綺麗な角度のついたお辞儀を披露する。
「いえ、良かったです。その、元気になられたみたいで……」
さっきまでの落ち込み具合が嘘のよう。触覚を揺らし、半透明の羽をパタパタとはためかせている。
その姿に内心ホッとしていると、彼が流れるような動作で隣に腰掛けてきた。長く筋肉質の腕を俺の背に回し、優しく抱き寄せてくれた。
細長い指がするりと絡んで、ぎゅっと握り締められる。
ごく自然に繋がれた手に、俺の心臓は持ち主の意思に関係なく、ウキウキでスキップを踏み始めていた。
そっと見上げた先にある、あふれんばかりの喜びが浮かんだ唇が、俺と視線がぶつかった途端にますます笑みを深めたせいだ。火が出そうなくらいに顔が熱くなっていく。
「ええ、とても。恐れ多くも貴方様から愛の告白をしてい頂けたばかりか、ありのままの私を受け入れて下さったので」
「あ、あいっ?!」
「……違うのですか? ようやく私の想いが、貴方様に届いたものとばかり思っていたのですが」
俺を覗き込むように見つめる彼の、鼻筋の通った顔が寂しそうにくしゃりと歪む。
「あっ、ぅ……その……」
多分、出会ったその日から。突然一人ぼっちになってしまった俺の側に居てくれるって、彼に言ってもらえた時から。
ずっと惹かれていたんだろうに、自分の中に芽生えた初めての気持ちに戸惑っていた。自分自身を誤魔化し、気づかないふりをし続けていた。
そんな意気地無しの俺には、彼みたいに堂々と素直な気持ちを声に乗せることが出来なくて。伝えたい言葉が、伝えなくちゃいけない言葉が、喉の奥に詰まってしまっていた。
「私を好きだと、そう仰っていただけたのは……私めに好意を抱いて頂けたいうことではなく、親愛や友情での意味だったのですか?」
彼の表情をまた、曇らせてしまった。
「アオイ様……」
「ち、違わない、です……ちゃんと、そういう意味での……す、好き、です……」
いやいや、ちゃんとってなんだよ。いちいち言葉をぼかすなよ。
彼のすがるような弱々しい声を聞いてもなお、はっきりとしない、することが出来ない自分に、呆れを通り越しかけていた時だった。
「ふむ……では、そういう意味とはどういう意味なのか……この老骨めにも解るように、お教え頂けませんでしょうか?」
寂しそうに揺れていた緑が、妖しい熱を帯びていく。切なく胸を締めつけていた低音が、背筋がぞくぞくするような甘い響きを持つ。
「ひぇ……ば、バアルさん?」
まるで、わざと演技をしていたかのような彼の変わりように、情けない悲鳴が漏れ、声が上擦ってしまっていた。
呼び掛けても彼は口を閉ざしたまま、射抜くような熱い眼差しを向け続けている。
それどころか、いつの間にか、鼻先が触れ合うほどに距離を詰められていた。
瞬間、ふっとまた、あの妄想の中の彼が。穏やかに微笑み、俺に優しく口付けてくれる彼の姿が、過ってしまったせいだろう。
「…………して欲しい、です……」
「もう一度……仰って頂けませんか?」
「……き、キスして欲しいって意味の好きですっ」
普通に好意を伝える以上に大胆なことを、声を大にして言ってしまっていたのは。
「……まさか、貴方様から求めて頂けけるとは、思ってもみませんでした」
目の前にある彼の頬がほんのりと染まり、口元が嬉しそうに綻ぶ。
花が咲いたような微笑みに、思わずぽーっと見惚れてしまっていたものの。頭の底からぽこりと遅れて浮かび上がってきた、顔を覆いたくなるような自分の発言に。
「あっ、今のはちが……」
つい往生際悪く、否定しかけたのを、すんでのところで踏みとどまった。
「わないんですけど……その」
額がそっと合わさり、熱い吐息を唇に感じる。俺を捉えて離さない、宝石みたいに輝く緑に吸い込まれてしまいそうだ。
反射的に固く瞼を閉じてしまった俺の頬に、柔らかいものが優しく触れて、離れていった。
上手い具合にフォローも出来ていないどころか、言わなくていいことまで口走ってるじゃないか。
徐々に熱くなっていく俺の顔を、じっと映し続けている瞳から逃げるように目を逸らす。
俺にとっては非常に居たたまれない、ほんの少しの沈黙の後に、押し殺すように小さく笑う声が耳に届いた。
当たり前だけど、声の主はバアルさんだ。俺と目が合うと「申し訳ございません」と謝りつつも、ツボにでも入ったのか、クスクスと堪えることなく笑い続けている。
これは、ある意味結果オーライかもしれない。彼の瞳に宿っていた影を、消し去ることが出来たんだから。
「重ね重ね申し訳ございませんでした」
スイッチが切り替わったみたいに突然、平静さを取り戻したバアルさん。すくっと立ち上がり、すらりと伸びた体躯を傾け、綺麗な角度のついたお辞儀を披露する。
「いえ、良かったです。その、元気になられたみたいで……」
さっきまでの落ち込み具合が嘘のよう。触覚を揺らし、半透明の羽をパタパタとはためかせている。
その姿に内心ホッとしていると、彼が流れるような動作で隣に腰掛けてきた。長く筋肉質の腕を俺の背に回し、優しく抱き寄せてくれた。
細長い指がするりと絡んで、ぎゅっと握り締められる。
ごく自然に繋がれた手に、俺の心臓は持ち主の意思に関係なく、ウキウキでスキップを踏み始めていた。
そっと見上げた先にある、あふれんばかりの喜びが浮かんだ唇が、俺と視線がぶつかった途端にますます笑みを深めたせいだ。火が出そうなくらいに顔が熱くなっていく。
「ええ、とても。恐れ多くも貴方様から愛の告白をしてい頂けたばかりか、ありのままの私を受け入れて下さったので」
「あ、あいっ?!」
「……違うのですか? ようやく私の想いが、貴方様に届いたものとばかり思っていたのですが」
俺を覗き込むように見つめる彼の、鼻筋の通った顔が寂しそうにくしゃりと歪む。
「あっ、ぅ……その……」
多分、出会ったその日から。突然一人ぼっちになってしまった俺の側に居てくれるって、彼に言ってもらえた時から。
ずっと惹かれていたんだろうに、自分の中に芽生えた初めての気持ちに戸惑っていた。自分自身を誤魔化し、気づかないふりをし続けていた。
そんな意気地無しの俺には、彼みたいに堂々と素直な気持ちを声に乗せることが出来なくて。伝えたい言葉が、伝えなくちゃいけない言葉が、喉の奥に詰まってしまっていた。
「私を好きだと、そう仰っていただけたのは……私めに好意を抱いて頂けたいうことではなく、親愛や友情での意味だったのですか?」
彼の表情をまた、曇らせてしまった。
「アオイ様……」
「ち、違わない、です……ちゃんと、そういう意味での……す、好き、です……」
いやいや、ちゃんとってなんだよ。いちいち言葉をぼかすなよ。
彼のすがるような弱々しい声を聞いてもなお、はっきりとしない、することが出来ない自分に、呆れを通り越しかけていた時だった。
「ふむ……では、そういう意味とはどういう意味なのか……この老骨めにも解るように、お教え頂けませんでしょうか?」
寂しそうに揺れていた緑が、妖しい熱を帯びていく。切なく胸を締めつけていた低音が、背筋がぞくぞくするような甘い響きを持つ。
「ひぇ……ば、バアルさん?」
まるで、わざと演技をしていたかのような彼の変わりように、情けない悲鳴が漏れ、声が上擦ってしまっていた。
呼び掛けても彼は口を閉ざしたまま、射抜くような熱い眼差しを向け続けている。
それどころか、いつの間にか、鼻先が触れ合うほどに距離を詰められていた。
瞬間、ふっとまた、あの妄想の中の彼が。穏やかに微笑み、俺に優しく口付けてくれる彼の姿が、過ってしまったせいだろう。
「…………して欲しい、です……」
「もう一度……仰って頂けませんか?」
「……き、キスして欲しいって意味の好きですっ」
普通に好意を伝える以上に大胆なことを、声を大にして言ってしまっていたのは。
「……まさか、貴方様から求めて頂けけるとは、思ってもみませんでした」
目の前にある彼の頬がほんのりと染まり、口元が嬉しそうに綻ぶ。
花が咲いたような微笑みに、思わずぽーっと見惚れてしまっていたものの。頭の底からぽこりと遅れて浮かび上がってきた、顔を覆いたくなるような自分の発言に。
「あっ、今のはちが……」
つい往生際悪く、否定しかけたのを、すんでのところで踏みとどまった。
「わないんですけど……その」
額がそっと合わさり、熱い吐息を唇に感じる。俺を捉えて離さない、宝石みたいに輝く緑に吸い込まれてしまいそうだ。
反射的に固く瞼を閉じてしまった俺の頬に、柔らかいものが優しく触れて、離れていった。
92
お気に入りに追加
521
あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。
【BL】どうやら精霊術師として召喚されたようですが5分でクビになりましたので、最高級クラスの精霊獣と駆け落ちしようと思います。
riy
BL
風呂でまったりしている時に突如異世界へ召喚された千颯(ちはや)。
召喚されたのはいいが、本物の聖女が現れたからもう必要ないと5分も経たない内にお役御免になってしまう。
しかも元の世界へも帰れず、あろう事か風呂のお湯で流されてしまった魔法陣を描ける人物を探して直せと無茶振りされる始末。
別邸へと通されたのはいいが、いかにも出そうな趣のありすぎる館であまりの待遇の悪さに愕然とする。
そんな時に一匹のホワイトタイガーが現れ?
最高級クラスの精霊獣(人型にもなれる)×精霊術師(本人は凡人だと思ってる)
※コメディよりのラブコメ。時にシリアス。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる