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キスして欲しいって意味での好きです!
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一体、これの何が大丈夫だって言うんだ。
上手い具合にフォローも出来ていないどころか、言わなくていいことまで口走ってるじゃないか。
徐々に熱くなっていく俺の顔を、じっと映し続けている瞳から逃げるように目を逸らす。
俺にとっては非常に居たたまれない、ほんの少しの沈黙の後に、押し殺すように小さく笑う声が耳に届いた。
当たり前だけど、声の主はバアルさんだ。俺と目が合うと「申し訳ございません」と謝りつつも、ツボにでも入ったのか、クスクスと堪えることなく笑い続けている。
これは、ある意味結果オーライかもしれない。彼の瞳に宿っていた影を、消し去ることが出来たんだから。
「重ね重ね申し訳ございませんでした」
スイッチが切り替わったみたいに突然、平静さを取り戻したバアルさん。すくっと立ち上がり、すらりと伸びた体躯を傾け、綺麗な角度のついたお辞儀を披露する。
「いえ、良かったです。その、元気になられたみたいで……」
さっきまでの落ち込み具合が嘘のよう。触覚を揺らし、半透明の羽をパタパタとはためかせている。
その姿に内心ホッとしていると、彼が流れるような動作で隣に腰掛けてきた。長く筋肉質の腕を俺の背に回し、優しく抱き寄せてくれた。
細長い指がするりと絡んで、ぎゅっと握り締められる。
ごく自然に繋がれた手に、俺の心臓は持ち主の意思に関係なく、ウキウキでスキップを踏み始めていた。
そっと見上げた先にある、あふれんばかりの喜びが浮かんだ唇が、俺と視線がぶつかった途端にますます笑みを深めたせいだ。火が出そうなくらいに顔が熱くなっていく。
「ええ、とても。恐れ多くも貴方様から愛の告白をしてい頂けたばかりか、ありのままの私を受け入れて下さったので」
「あ、あいっ?!」
「……違うのですか? ようやく私の想いが、貴方様に届いたものとばかり思っていたのですが」
俺を覗き込むように見つめる彼の、鼻筋の通った顔が寂しそうにくしゃりと歪む。
「あっ、ぅ……その……」
多分、出会ったその日から。突然一人ぼっちになってしまった俺の側に居てくれるって、彼に言ってもらえた時から。
ずっと惹かれていたんだろうに、自分の中に芽生えた初めての気持ちに戸惑っていた。自分自身を誤魔化し、気づかないふりをし続けていた。
そんな意気地無しの俺には、彼みたいに堂々と素直な気持ちを声に乗せることが出来なくて。伝えたい言葉が、伝えなくちゃいけない言葉が、喉の奥に詰まってしまっていた。
「私を好きだと、そう仰っていただけたのは……私めに好意を抱いて頂けたいうことではなく、親愛や友情での意味だったのですか?」
彼の表情をまた、曇らせてしまった。
「アオイ様……」
「ち、違わない、です……ちゃんと、そういう意味での……す、好き、です……」
いやいや、ちゃんとってなんだよ。いちいち言葉をぼかすなよ。
彼のすがるような弱々しい声を聞いてもなお、はっきりとしない、することが出来ない自分に、呆れを通り越しかけていた時だった。
「ふむ……では、そういう意味とはどういう意味なのか……この老骨めにも解るように、お教え頂けませんでしょうか?」
寂しそうに揺れていた緑が、妖しい熱を帯びていく。切なく胸を締めつけていた低音が、背筋がぞくぞくするような甘い響きを持つ。
「ひぇ……ば、バアルさん?」
まるで、わざと演技をしていたかのような彼の変わりように、情けない悲鳴が漏れ、声が上擦ってしまっていた。
呼び掛けても彼は口を閉ざしたまま、射抜くような熱い眼差しを向け続けている。
それどころか、いつの間にか、鼻先が触れ合うほどに距離を詰められていた。
瞬間、ふっとまた、あの妄想の中の彼が。穏やかに微笑み、俺に優しく口付けてくれる彼の姿が、過ってしまったせいだろう。
「…………して欲しい、です……」
「もう一度……仰って頂けませんか?」
「……き、キスして欲しいって意味の好きですっ」
普通に好意を伝える以上に大胆なことを、声を大にして言ってしまっていたのは。
「……まさか、貴方様から求めて頂けけるとは、思ってもみませんでした」
目の前にある彼の頬がほんのりと染まり、口元が嬉しそうに綻ぶ。
花が咲いたような微笑みに、思わずぽーっと見惚れてしまっていたものの。頭の底からぽこりと遅れて浮かび上がってきた、顔を覆いたくなるような自分の発言に。
「あっ、今のはちが……」
つい往生際悪く、否定しかけたのを、すんでのところで踏みとどまった。
「わないんですけど……その」
額がそっと合わさり、熱い吐息を唇に感じる。俺を捉えて離さない、宝石みたいに輝く緑に吸い込まれてしまいそうだ。
反射的に固く瞼を閉じてしまった俺の頬に、柔らかいものが優しく触れて、離れていった。
上手い具合にフォローも出来ていないどころか、言わなくていいことまで口走ってるじゃないか。
徐々に熱くなっていく俺の顔を、じっと映し続けている瞳から逃げるように目を逸らす。
俺にとっては非常に居たたまれない、ほんの少しの沈黙の後に、押し殺すように小さく笑う声が耳に届いた。
当たり前だけど、声の主はバアルさんだ。俺と目が合うと「申し訳ございません」と謝りつつも、ツボにでも入ったのか、クスクスと堪えることなく笑い続けている。
これは、ある意味結果オーライかもしれない。彼の瞳に宿っていた影を、消し去ることが出来たんだから。
「重ね重ね申し訳ございませんでした」
スイッチが切り替わったみたいに突然、平静さを取り戻したバアルさん。すくっと立ち上がり、すらりと伸びた体躯を傾け、綺麗な角度のついたお辞儀を披露する。
「いえ、良かったです。その、元気になられたみたいで……」
さっきまでの落ち込み具合が嘘のよう。触覚を揺らし、半透明の羽をパタパタとはためかせている。
その姿に内心ホッとしていると、彼が流れるような動作で隣に腰掛けてきた。長く筋肉質の腕を俺の背に回し、優しく抱き寄せてくれた。
細長い指がするりと絡んで、ぎゅっと握り締められる。
ごく自然に繋がれた手に、俺の心臓は持ち主の意思に関係なく、ウキウキでスキップを踏み始めていた。
そっと見上げた先にある、あふれんばかりの喜びが浮かんだ唇が、俺と視線がぶつかった途端にますます笑みを深めたせいだ。火が出そうなくらいに顔が熱くなっていく。
「ええ、とても。恐れ多くも貴方様から愛の告白をしてい頂けたばかりか、ありのままの私を受け入れて下さったので」
「あ、あいっ?!」
「……違うのですか? ようやく私の想いが、貴方様に届いたものとばかり思っていたのですが」
俺を覗き込むように見つめる彼の、鼻筋の通った顔が寂しそうにくしゃりと歪む。
「あっ、ぅ……その……」
多分、出会ったその日から。突然一人ぼっちになってしまった俺の側に居てくれるって、彼に言ってもらえた時から。
ずっと惹かれていたんだろうに、自分の中に芽生えた初めての気持ちに戸惑っていた。自分自身を誤魔化し、気づかないふりをし続けていた。
そんな意気地無しの俺には、彼みたいに堂々と素直な気持ちを声に乗せることが出来なくて。伝えたい言葉が、伝えなくちゃいけない言葉が、喉の奥に詰まってしまっていた。
「私を好きだと、そう仰っていただけたのは……私めに好意を抱いて頂けたいうことではなく、親愛や友情での意味だったのですか?」
彼の表情をまた、曇らせてしまった。
「アオイ様……」
「ち、違わない、です……ちゃんと、そういう意味での……す、好き、です……」
いやいや、ちゃんとってなんだよ。いちいち言葉をぼかすなよ。
彼のすがるような弱々しい声を聞いてもなお、はっきりとしない、することが出来ない自分に、呆れを通り越しかけていた時だった。
「ふむ……では、そういう意味とはどういう意味なのか……この老骨めにも解るように、お教え頂けませんでしょうか?」
寂しそうに揺れていた緑が、妖しい熱を帯びていく。切なく胸を締めつけていた低音が、背筋がぞくぞくするような甘い響きを持つ。
「ひぇ……ば、バアルさん?」
まるで、わざと演技をしていたかのような彼の変わりように、情けない悲鳴が漏れ、声が上擦ってしまっていた。
呼び掛けても彼は口を閉ざしたまま、射抜くような熱い眼差しを向け続けている。
それどころか、いつの間にか、鼻先が触れ合うほどに距離を詰められていた。
瞬間、ふっとまた、あの妄想の中の彼が。穏やかに微笑み、俺に優しく口付けてくれる彼の姿が、過ってしまったせいだろう。
「…………して欲しい、です……」
「もう一度……仰って頂けませんか?」
「……き、キスして欲しいって意味の好きですっ」
普通に好意を伝える以上に大胆なことを、声を大にして言ってしまっていたのは。
「……まさか、貴方様から求めて頂けけるとは、思ってもみませんでした」
目の前にある彼の頬がほんのりと染まり、口元が嬉しそうに綻ぶ。
花が咲いたような微笑みに、思わずぽーっと見惚れてしまっていたものの。頭の底からぽこりと遅れて浮かび上がってきた、顔を覆いたくなるような自分の発言に。
「あっ、今のはちが……」
つい往生際悪く、否定しかけたのを、すんでのところで踏みとどまった。
「わないんですけど……その」
額がそっと合わさり、熱い吐息を唇に感じる。俺を捉えて離さない、宝石みたいに輝く緑に吸い込まれてしまいそうだ。
反射的に固く瞼を閉じてしまった俺の頬に、柔らかいものが優しく触れて、離れていった。
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