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細マッチョな先輩と恋人同士になった件(ソレイユルート)

★ 放っておいていいのに

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 必死に酸素を取り込もうと足掻いている俺の息遣いが、何故だか遠くの方で聞こえている。

 多幸感と致し方ない気怠さが広がっている身体は聴覚以外の感覚も曖昧で、ベッドの上に寝転んでいるハズなのに身体が支えられている感覚も、シーツに触れている感覚もボヤケてしまっている。

 唯一、強く感じていたのは普段以上に敏感になってしまっている俺のものを包みこんでくれている手のひらの温かさ。先端ばかりを撫でてもらっていたせいで、盛大に汚してしまっていたソレイユの手だけ。

 けれども、それも離れていってしまう。ゆっくりと慎重に、下着の中から引き抜かれていく。

「は、ぁ……っ」

 何かを言おうとした気もする。けれども、はくはくと動き続けている口からは、やっぱり吐息しか出ない。それどころか、ほんのさっきまで浮かんでいた伝えたいと思っていたハズの言葉ですら、頭の中から忽然と消えていってしまっていた。

 俺は、一体、何をソレイユに伝えたかったんだっけ……?

 思い出そうと霞がかったようにぼんやりとした思考を回しかけていると頭を撫でてもらえた。俺が汚してしまっていた手を拭いていたんだろう。彼の側には、ベッドサイドに置いていたティッシュがあり、すでにいくつかの紙くずが丸められて、一箇所にまとめられていた。

「ゴメンね、下着の中に出させちゃって……お詫びに、またちゃんとオレがキレイに洗っておくからさ」

 出してしまったのは俺なのに、ソレイユは気持ちよくしてくれただけなのに。彼の細い眉は下がり、眉間にはシワが刻まれてしまっている。

 大丈夫だと、気にしないで欲しいと、口にしようとしてもやっぱり出てくるのは浅い呼吸だけ。出せないもんは仕方がないので、首を左右に振ってから微笑んでみる。上手く笑えていただろうか。

 大丈夫だったみたい。ソレイユも安心したように微笑みかけてくれた。ありがとう、とまた頭を撫でてくれた。

「……脱がすね?」

 俺を気遣って律儀に尋ねてきてくれる彼に了承の意味を込めて頷く。

 安心させようとしてくれているんだろうか。ソレイユは柔らかな笑みを浮かべてから、俺の額に口づけてくれてから、汗で張り付いてしまっているウェストゴムへと両の指をかけた。

 一気にしてくれて構わないんだけれども、ソレイユはここでも俺を気遣ってくれているのか、ゆっくり丁寧にシミのついたボクサーパンツを脱がせていく。次のステップへ進む為とはいえ、やっぱり気恥ずかしい。

 下着の内側と俺のものとの間で糸を引く。ねっとりとしたその感触に、思わず目を閉じてしまっていると優しく拭いてもらえた。

 するりと足から引き抜いてもらえてからも、そっとティッシュで触れるように。

「ん……」

 微かな感触なのに、まだ甘い余韻が残っているからだろうか、吐息に上擦った声が混じってしまう。俺のものではない、何か言葉を堪えるように飲み下す音が聞こえた気がした。

「……ちょっとだけ、待ってて……準備するから」

 少し慌てたような声に目を開ければ、丁度ソレイユがベッドから下りようとしているところだった。その手には、脱がせてもらったばかりの俺の下着と、いくつもの紙くずが握られている。

 放っておいていいのに。汚してしまった下着も紙くずも、後で片づければいいのに。

 俺は、彼が手にしていた物にばかりに目がいっていて、肝心な彼の言葉をちゃんと聞いていなかった。離れていってしまう温もりに、振り返ることなく遠のいていく広い背中に、ただただ寂しくなってしまっていた。
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