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細マッチョな先輩と恋人同士になった件(ソレイユルート)
オレ達にとってのお返しは、そうじゃないでしょ?
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頭の後ろに手を当て、緩やかなウェーブのかかっている髪をわしゃわしゃかき混ぜている先輩の顔はほんのり赤い。何かを堪えるように形の良い唇を引き結び、息を呑んだ。
「っ、ホント、シュンちゃんってば……」
「えっと……何ですか?」
「何でもないっ、何でもないでーすっ」
「えぇ……?」
気になるんだけれども。明らかに何か俺に対して言おうとしたところで、止められちゃったらさ。
とはいえ、聞き出すことは難しそうだ。先輩は拗ねたように唇を尖らせて、その中性的なキレイな顔を俺からふいっと背けてしまっている。
どうすれば、ご機嫌をなおしてもらえるだろうか。
ほかほかといい香りの湯気を立ち上らせている親子丼を前にして、考え込んでしまっていると肩をちょんちょんとつつかれた。
「そんなことよりも、冷めない内に食べてよね? 折角上手く出来たのに、美味しさが逃げていっちゃうでしょ?」
「は、はいっ、いただかせていただきますっ」
どうやら、機嫌を損ねてしまった訳ではなかったみたい。慌てて俺が親子丼を頬張ると、嬉しそうにタレ目の瞳を細めて微笑んでくれた。
よしよし、と満足そうに頷いて、俺の頭をひと撫でしてから台所の方へ背を向ける。自分の分の丼ぶりを手に戻ってきて、俺の向かいへと腰掛けた。
「いただきまーす」
手を合わせてから先輩も親子丼を大きな一口で頬張った。
白い頬をもくもくと動かしながら最初の一口を食べ終えてから、はたと長い睫毛を瞬かせる。
「あ、なんだ、結構上手く出来てんじゃん」
「だから、すっごく美味しいって言ってるじゃないですか」
「んふふ、ありがとう」
どうやら俺の想いはまだまだ伝わってはいなかったようだ。もっと、もっと伝えていかなければ。
とはいっても、語彙力が残念な俺だ。レパートリーが少な過ぎる。美味しいとか、嬉しいとか、幸せだとか、月並みな言葉しか思いつかないんだけれども。
……どうせ質に期待出来ないんだったら、量で頑張るしか。あ、やっぱ、この親子丼めっちゃ美味しい。好き。
これからのことを考えようとしていたものの、ど真ん中に好みな味付けの親子丼を口にしていては。どんどんと頭の中も心の中も美味しいで満たされていた頃、先輩がぽつりと話しかけてきた。
「今度はさ……別の、作ってあげるね」
「っ、良いんですか?」
「フフ、うん。もっとシュンちゃんの喜ぶ顔が見たいからね」
そう言って、はにかむように微笑む笑顔に俺はもう心を鷲掴みにされていた。けれども先輩は、更に嬉しい宣言をしてくれる。
「あー……ほら、さっき言った他のアレンジ以外にもさ。カレーとか、ナポリタンとか……他にも色々。シュンちゃんの胃袋、バッチリ掴んじゃうから、覚悟しててよね?」
「は、はいっ、ありがとうございます……っ」
「あぁ、でも、その前に……お返しが欲しいなぁ」
「何ですか? 俺が出来ることなら何で、も」
遮られた。唇にちょこんと触れてきた人差し指によって。
大きく跳ねた心音が駆け足になっていく。先輩は、そっと俺の口から指を離してから問いかけてきた。
「オレ達にとってのお返しは、そうじゃないでしょ? お互いに同じことを返すのが、お返しでしょ?」
「あ……じゃあ、次は俺が先輩に料理をってこと、ですか……?」
正解だったらしい。先輩の笑顔が、ますますぱぁっと明るくなっていく。大きく頷いてから大きな手を俺の手に重ねてきた。
「うんっ、シュンちゃんの手料理、食べたいなぁ」
「う、良いです、けど……俺、先輩みたいに凝ったのはちょっと……チャーハンとかしか、作れないですよ?」
それも、自分の為にしか作ってきたことないから、味の保証は出来ないし。
「いいじゃんチャーハンっ、最高だよ!」
後ろ向きな考えが過ったものの、弾んだ声でそう言われてしまえば。期待に満ちた眼差しで見つめられてしまえば。
「じゃ、じゃあ……頑張りますね」
みるみる内にやる気が漲っていく。先輩に喜んでもらえるならって、前向きになれるんだ。
「っ、ホント、シュンちゃんってば……」
「えっと……何ですか?」
「何でもないっ、何でもないでーすっ」
「えぇ……?」
気になるんだけれども。明らかに何か俺に対して言おうとしたところで、止められちゃったらさ。
とはいえ、聞き出すことは難しそうだ。先輩は拗ねたように唇を尖らせて、その中性的なキレイな顔を俺からふいっと背けてしまっている。
どうすれば、ご機嫌をなおしてもらえるだろうか。
ほかほかといい香りの湯気を立ち上らせている親子丼を前にして、考え込んでしまっていると肩をちょんちょんとつつかれた。
「そんなことよりも、冷めない内に食べてよね? 折角上手く出来たのに、美味しさが逃げていっちゃうでしょ?」
「は、はいっ、いただかせていただきますっ」
どうやら、機嫌を損ねてしまった訳ではなかったみたい。慌てて俺が親子丼を頬張ると、嬉しそうにタレ目の瞳を細めて微笑んでくれた。
よしよし、と満足そうに頷いて、俺の頭をひと撫でしてから台所の方へ背を向ける。自分の分の丼ぶりを手に戻ってきて、俺の向かいへと腰掛けた。
「いただきまーす」
手を合わせてから先輩も親子丼を大きな一口で頬張った。
白い頬をもくもくと動かしながら最初の一口を食べ終えてから、はたと長い睫毛を瞬かせる。
「あ、なんだ、結構上手く出来てんじゃん」
「だから、すっごく美味しいって言ってるじゃないですか」
「んふふ、ありがとう」
どうやら俺の想いはまだまだ伝わってはいなかったようだ。もっと、もっと伝えていかなければ。
とはいっても、語彙力が残念な俺だ。レパートリーが少な過ぎる。美味しいとか、嬉しいとか、幸せだとか、月並みな言葉しか思いつかないんだけれども。
……どうせ質に期待出来ないんだったら、量で頑張るしか。あ、やっぱ、この親子丼めっちゃ美味しい。好き。
これからのことを考えようとしていたものの、ど真ん中に好みな味付けの親子丼を口にしていては。どんどんと頭の中も心の中も美味しいで満たされていた頃、先輩がぽつりと話しかけてきた。
「今度はさ……別の、作ってあげるね」
「っ、良いんですか?」
「フフ、うん。もっとシュンちゃんの喜ぶ顔が見たいからね」
そう言って、はにかむように微笑む笑顔に俺はもう心を鷲掴みにされていた。けれども先輩は、更に嬉しい宣言をしてくれる。
「あー……ほら、さっき言った他のアレンジ以外にもさ。カレーとか、ナポリタンとか……他にも色々。シュンちゃんの胃袋、バッチリ掴んじゃうから、覚悟しててよね?」
「は、はいっ、ありがとうございます……っ」
「あぁ、でも、その前に……お返しが欲しいなぁ」
「何ですか? 俺が出来ることなら何で、も」
遮られた。唇にちょこんと触れてきた人差し指によって。
大きく跳ねた心音が駆け足になっていく。先輩は、そっと俺の口から指を離してから問いかけてきた。
「オレ達にとってのお返しは、そうじゃないでしょ? お互いに同じことを返すのが、お返しでしょ?」
「あ……じゃあ、次は俺が先輩に料理をってこと、ですか……?」
正解だったらしい。先輩の笑顔が、ますますぱぁっと明るくなっていく。大きく頷いてから大きな手を俺の手に重ねてきた。
「うんっ、シュンちゃんの手料理、食べたいなぁ」
「う、良いです、けど……俺、先輩みたいに凝ったのはちょっと……チャーハンとかしか、作れないですよ?」
それも、自分の為にしか作ってきたことないから、味の保証は出来ないし。
「いいじゃんチャーハンっ、最高だよ!」
後ろ向きな考えが過ったものの、弾んだ声でそう言われてしまえば。期待に満ちた眼差しで見つめられてしまえば。
「じゃ、じゃあ……頑張りますね」
みるみる内にやる気が漲っていく。先輩に喜んでもらえるならって、前向きになれるんだ。
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