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細マッチョな先輩と恋人同士になった件(ソレイユルート)

ソレイユ先輩と一緒だってことが、そのこと自体が俺にとってはとびきりで

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 突拍子もない伝え方をしてしまったからだろう。長い睫毛を瞬かせている先輩は、まだ俺の言葉を飲み込めてはいないようだ。珍しくポカンと開いた口からも困惑の言葉が漏れていた。

「へ……? えっ、幸せって……」

 しかし、自分の口で改めて、俺が一番に伝えたかった言葉を繰り返したからか、白い頬に徐々に赤みが差し始めた。

 みるみる内に耳まで真っ赤に染めてしまった熱を誤魔化すように人差し指で髪を弄りながら、先輩が片手をひらひらと胸の辺りで振る。

「そっ、そんな……これくらいで大げさだよー」

 わざとらしいくらいに明るい調子でそう応えた彼の望み通りに流されてしまえば良かったのかもしれない。

 でも、俺はそれで終わりにしたくはなかった。

「大げさじゃないです。だって、大好きな先輩の手料理を食べられるんですから」

 どんなに些細なことだとしても、取るに足らない日常の一コマだとしても、ソレイユ先輩と一緒だってことが、そのこと自体がとびきりなんだって。少なくとも俺はそう思っているって、先輩に分かって欲しかったんだ。

「……そっか」

 小さく頷いた彼の表情は腑に落ちたような。

「……そう、だね……そうだよっ」

 自分に問いかけているような声が本来の明るさを取り戻した頃には、自然な笑みがこぼれていた。自信に満ちあふれた、とてもキレイな笑顔だった。

「愛するシュンちゃんの為にオレが頑張って作ったんだから、いっぱい食べてよね?」

「はいっ、いただきます!」

 用意してもらえていたスプーンを手に、いざとろっとろの親子丼へ。鶏肉がいくつかかたまってある部分を狙ってご飯も一緒に深めに掬えば、タレをいっぱい吸い込んで薄茶色になった玉ねぎもたっぷりとついてきた。

 だいぶ欲張ってモリモリになってしまった一口を、大きく口を開けて頬張る。

「美味ひい……美味ひいでふっ」

 思わず伝えていた間にも、アツアツの甘じょっぱさが幸せをくれていた。向かいの席から身を乗り出して俺を見つめていたオレンジの瞳に、ぱぁっと喜びが満ちていく。

「ん……良かった」

 ホッとしたように小さな吐息を漏らし、席に座り直した先輩に改めて感想を伝えた。

「卵の加減とか玉ねぎのシャキシャキ具合とか……それから、ちょっと濃い目の味付けも俺好みなんですけど、とにかくこの鶏肉が柔らかくって……」

 スプーンで鶏肉を掬ってから気付く。

「って、あれ? でも、俺、鶏肉なんて買ってなかったですけど……?」

「ふっふっふっ、よくぞ気付いてくれました」

 待っていましたと言わんばかり。いつもの調子を取り戻していた先輩が、片方の口端だけをゆるりと持ち上げながら焦らすように正解を俺に教えてくれる。

「こちらの鶏肉。正体は、なんと……」

「……しょ、正体は?」

 静かに席を立った先輩が向かったのは直ぐ側にある冷蔵庫。扉を開けて、取り出した何かをササッと背中に隠してしまう。

 楽しそうにクスクスと笑ってから、俺の前に突きつけるように差し出してきたのは。

「コレですっ!」

「えっ、サラダチキンなんですか? これ」

 いつもお世話になっているコンビニのサラダチキンだった。味付けがシンプルなプレーンのヤツ。言われてみれば半熟卵の海を泳いでいる鶏肉は、サラダチキンを一口サイズに切ったようにも見える。

「うん。親子丼の他にもグラタンにしてみたり、揚げてナゲットにしてみたりとか、結構簡単にアレンジ出来るんだよ?」

「グラタンにナゲットかぁ……スゴいですねぇ……そんなの俺、思いつかないですよ」

「フフ、だよねぇ。オレもネットのレシピからの受け売りだからさ」

「そんな、アレンジしてみようって思いつくこと自体がスゴいですよっ! 美味しいですし!」

   素直な気持ちだった。なんせ俺の中での料理ってのは、取り敢えず切って焼いてみるっていうシンプル過ぎるもの。それと比べてしまうこと自体が申し訳ないが、こんなにも手が込んでいるのだ。

 例え他の人のレシピだとしても、その通りに美味しく作れるということが、俺からしたら大尊敬でしかないのだ。
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