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細マッチョな先輩と恋人同士になった件(ソレイユルート)
俺の知らない先輩と俺が知っている先輩
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その後も先輩の剣技は冴え渡っていた。
いや、冴え渡るどころか絶好調。あまりの無双っぷりは、ゲームのジャンルが無双ゲーへと変わったのかと思ったほど。彼が剣を振るう度に、モンスター達がふっ飛ばされていく光景は爽快感抜群で、見惚れてしまわない方がムリって話だった。
相変わらず俺はといえば、彼の頼もしい背中の後ろに隠れながら、ただ一人の為に応援歌を歌うだけ。とはいえ、今回はあまり役には。なんせ、こっちがワンコーラス歌い切る前には、巨大なボスですらサックリと斬り伏せてしまっていたんだからな。
わざとらしいくらいに賑やかなファンファーレが鳴り響いた後、先輩が振り返る。
「あ……」
まだ戦いの余韻が残っているんだろうか。真っ直ぐに俺を見つめる眼差しは鋭く、冷静な光を持ちながらも燃えるように熱い。妙な錯覚を覚えてしまう。
ただ見つめられているだけなのに、鈍く光る剣の切っ先を突きつけられているような。もう、とっくに剣はしまっているってのに。優しい先輩が、守ってくれるって約束してくれた先輩が、俺に向かってそんなことをするハズがないってのに。
言葉を失ってしまっていると、大きな手のひらがゆらりと上がった。少しずつ俺の方へと迫ってくる。
心音が妙に煩い。頭の奥まで響いてくる。後少しで、骨ばった剣士の手が俺に届いて。
「しゅーんちゃんっ」
俺の頬を左右からむにっと包みこんだ。
「ぴぇ……っ」
先輩は、俺が知っている先輩に戻っていた。
見つめられただけで身体が震え、怖気づいてしまいそうな眼差しは人懐っこい犬のように愛らしく微笑んでいる。感情を削ぎ落としたような表情は柔らかく綻んでいて、周囲にふわふわと花を振り撒いているような。
ギャップがスゴい。少し怖さはあれどカッコよくてキレイな先輩から、あざといくらいに可愛らしい先輩へと。あまりの落差に全身の力が抜けてしまいそうだ。変な声まで上げちゃったしさ。
「ねーねー、オレ、カッコよかったでしょ?」
「は、はい、それはもう……スゴかったですっ! 素早いのも、ビルみたいに大きなボスも、あっという間に倒しちゃって、て……」
何か、やらかしてしまったんだろうか。
先輩は何やら不満気だ。最初こそ、ご機嫌そうに微笑んで、うんうんと頷いていた。けれども、今は拗ねたように唇を尖らせてしまっている。俺の頬をむにむにと撫でながら、訴えるようにじっと見つめてくる。
思っていた答えと違うって感じ、だろうか? ……先輩は何を。
「っ……め、滅茶苦茶カッコよかったです! 見惚れちゃってました!!」
「でしょ? やっぱりオレ、カッコよかったよね?」
どうやら、こちらが正解だったらしい。途端に満面の笑顔を見せてくれる。
喜びがあふれてしまっている。ふにゃりと微笑んでいる口元からも、目尻が下がるほどに細められたタレ目の瞳からも。
俺の頬を撫で撫でしながら今にも擦り寄ってきそうなくらいに前のめりな姿勢は、やっぱり懐っこいわんこみたい。あまりの可愛さに口元がだらしなく腑抜けそうになってしまう。
「フフ、シュンちゃんが見てくれてるから、カッコつけたくて頑張っちゃった。ちょっと熱が入っちゃってたかも。ゲームって分かってたのに、模擬戦やってる時の感覚になっちゃってたし」
「ああ、それで……目にスゴい気迫が……あっ」
思わず俺は、手のひらで口を覆っていた。もう遅いにも関わらず。
どうやら先輩は気付いていなかったようだ。うっかり俺が口にしてしまったことで、気が付いたらしい。一度きょとんと目を丸くしてから、何やら合点がいったように頷きながら細い眉を気不味そうに下げている。
「あー……戻りきれてなかったか……なるほどね~それで……」
「あ、あの、俺」
「ゴメンね、シュンちゃん……怖がらせちゃって」
いや、冴え渡るどころか絶好調。あまりの無双っぷりは、ゲームのジャンルが無双ゲーへと変わったのかと思ったほど。彼が剣を振るう度に、モンスター達がふっ飛ばされていく光景は爽快感抜群で、見惚れてしまわない方がムリって話だった。
相変わらず俺はといえば、彼の頼もしい背中の後ろに隠れながら、ただ一人の為に応援歌を歌うだけ。とはいえ、今回はあまり役には。なんせ、こっちがワンコーラス歌い切る前には、巨大なボスですらサックリと斬り伏せてしまっていたんだからな。
わざとらしいくらいに賑やかなファンファーレが鳴り響いた後、先輩が振り返る。
「あ……」
まだ戦いの余韻が残っているんだろうか。真っ直ぐに俺を見つめる眼差しは鋭く、冷静な光を持ちながらも燃えるように熱い。妙な錯覚を覚えてしまう。
ただ見つめられているだけなのに、鈍く光る剣の切っ先を突きつけられているような。もう、とっくに剣はしまっているってのに。優しい先輩が、守ってくれるって約束してくれた先輩が、俺に向かってそんなことをするハズがないってのに。
言葉を失ってしまっていると、大きな手のひらがゆらりと上がった。少しずつ俺の方へと迫ってくる。
心音が妙に煩い。頭の奥まで響いてくる。後少しで、骨ばった剣士の手が俺に届いて。
「しゅーんちゃんっ」
俺の頬を左右からむにっと包みこんだ。
「ぴぇ……っ」
先輩は、俺が知っている先輩に戻っていた。
見つめられただけで身体が震え、怖気づいてしまいそうな眼差しは人懐っこい犬のように愛らしく微笑んでいる。感情を削ぎ落としたような表情は柔らかく綻んでいて、周囲にふわふわと花を振り撒いているような。
ギャップがスゴい。少し怖さはあれどカッコよくてキレイな先輩から、あざといくらいに可愛らしい先輩へと。あまりの落差に全身の力が抜けてしまいそうだ。変な声まで上げちゃったしさ。
「ねーねー、オレ、カッコよかったでしょ?」
「は、はい、それはもう……スゴかったですっ! 素早いのも、ビルみたいに大きなボスも、あっという間に倒しちゃって、て……」
何か、やらかしてしまったんだろうか。
先輩は何やら不満気だ。最初こそ、ご機嫌そうに微笑んで、うんうんと頷いていた。けれども、今は拗ねたように唇を尖らせてしまっている。俺の頬をむにむにと撫でながら、訴えるようにじっと見つめてくる。
思っていた答えと違うって感じ、だろうか? ……先輩は何を。
「っ……め、滅茶苦茶カッコよかったです! 見惚れちゃってました!!」
「でしょ? やっぱりオレ、カッコよかったよね?」
どうやら、こちらが正解だったらしい。途端に満面の笑顔を見せてくれる。
喜びがあふれてしまっている。ふにゃりと微笑んでいる口元からも、目尻が下がるほどに細められたタレ目の瞳からも。
俺の頬を撫で撫でしながら今にも擦り寄ってきそうなくらいに前のめりな姿勢は、やっぱり懐っこいわんこみたい。あまりの可愛さに口元がだらしなく腑抜けそうになってしまう。
「フフ、シュンちゃんが見てくれてるから、カッコつけたくて頑張っちゃった。ちょっと熱が入っちゃってたかも。ゲームって分かってたのに、模擬戦やってる時の感覚になっちゃってたし」
「ああ、それで……目にスゴい気迫が……あっ」
思わず俺は、手のひらで口を覆っていた。もう遅いにも関わらず。
どうやら先輩は気付いていなかったようだ。うっかり俺が口にしてしまったことで、気が付いたらしい。一度きょとんと目を丸くしてから、何やら合点がいったように頷きながら細い眉を気不味そうに下げている。
「あー……戻りきれてなかったか……なるほどね~それで……」
「あ、あの、俺」
「ゴメンね、シュンちゃん……怖がらせちゃって」
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