上 下
393 / 460
細マッチョな先輩と恋人同士になった件(ソレイユルート)

食べさせて、食べさせられて、最後の最後まで

しおりを挟む
 やっぱり豪快な一口に、つい目を奪われてしまう。ゆるりと目尻を下げた美味しそうな笑顔に、俺まで口元が緩みそうになる。

「あー美味しい! 元々、このクレープが好きってのもあるけど」

 言葉を切ってから先輩がまた頬を寄せてきてくれる。

「シュンちゃんに食べさせてもらえたから、余計に美味しく感じたよ……」

 一瞬、心臓がおかしくなるかと。

 ただでさえ高鳴ってしまっていたってのに、俺だけにしか聞こえない声で囁いてくるもんだから。それも、殺し文句じみたことを。

「よ、良かった……です……喜んで、もらえて……」

 お返しに俺も何か言えれば良かったんだけれども、これが精一杯。

 元々、恋人に囁く系の語彙力なんぞからっきし。無理矢理絞り出そうにも、今にもくらくらしてしまいそうな思考回路が働く訳もなかった。固まってしまわなかっただけでも良しとしなければ。

 モヤモヤしてしまいそうな胸の内を誤魔化すように、クレープに口をつけようとしたけれども、それも出来なかった。

「あっ、ちょっと待って」

「なん、ですか? 先ぱ」

「今度はオレの番でしょ?」

 食い気味に尋ねてきてから、先輩がいそいそとスプーンを取り出す。

 どうやら拒否権はないらしい。紙ナプキンとセットだったピンクのスプーンで器用に、薄く切られたバナナとチョコレートソースのかかったクリームを盛ってから、俺の口元へと差し出してきた。

「はーい、シュンちゃん、あーん」

「……いただきます」

 何でスプーンでなのか。そう思ったものの、無邪気な笑顔の先輩を待たせる訳には。促されるがままに俺は、蛍光色なプラスチックのスプーンを口に含んだ。

 瞬間、期待に満ちていたオレンジの瞳とかち合って、また心臓が大きく跳ねたけれども気づいていないフリをした。

 口の中にもったりとしたクリームの甘さと、チョコレートソースのほどよい甘さが広がっていく。少し噛むと、さっきまで風味だけだったバナナの甘さも加わってきた。

 どれも甘いんだけれども、三つ合わさっても不思議なことにしつこくない。引き立て合っているっていうか、調和しているっていうか。とにかく美味しい。

 ただ、クレープがクレープであるがゆえの生地を、一緒に口にしていないからだろう。なんだか、パフェを食べさせてもらっているような気分になっていた。

 甘い一口を食べ終えた頃、見計らっていたように先輩が俺の顔を覗き込むように尋ねてきた。

「どう?」

「美味しいです」

「フフ、良かった」

 途端にふにゃりと下がっていったタレ目の瞳は、自分のことのように嬉しそうで。胸の奥を掴まれたような気分になる。柔らかな笑顔を眩しく感じてしまう。

「じゃあ、はいっ」

 頭がふわふわしてきたところで、まさかのお代わり。今度はクレープそのものを、俺の口元へと差し出してきた。

「へ?」

「いや、だって、さっきはトッピングだけだったでしょ?」

「それは……そう、でしたけど……」

「だから、はい、あーん」

 いやまぁ、分かるけれども。言わんとせんことは。

「でも、さっきので十分美味し」

「釣り合ってないでしょ? 全然」

「はい?」

「オレの一口と」

「あっ……あー……」

 いやまぁ、確かに。一口の大きさでいったら、釣り合いは取れてはいないけれども。

 でも、先輩からのあーんっていう価値的には、ちゃんと釣り合ってるっていうか。むしろ、俺にとっては滅茶苦茶プラスっていうか。

「シュンちゃん」

 ぐるぐると一人思考の渦に囚われていた俺を、柔らかな声が引っ張り上げる。

「はい、あーん」

 何故だか逆らえなかった。吸い寄せられるように俺は、先輩が差し出すクレープを食んでいた。心臓の音が頭にまで響いてきて煩い。

「美味しい?」

「……うん」

 甘いってことしか……いや、甘いかどうかも分からなくなってきているけれども。

「そっか……でも、まだ足りないね。シュンちゃんの一口、ちっちゃくて可愛いから」

「え」

「だーかーらー……はい、あーん」

「っ……」

 結局、釣り合えたのは、先輩がオッケーとみなしてくれたのは4口目を食べ終えてから。

 その後も、なんやかんやと。上手い具合に言いくるめられて、不思議な雰囲気に流されて、最後の最後まで食べさせ合いっこを続けてしまっていた。お互いのクレープを取り替えながら、二つの味を楽しみながら。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

俺の義兄弟が凄いんだが

kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・ 初投稿です。感想などお待ちしています。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

処理中です...