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細マッチョな先輩と恋人同士になった件(ソレイユルート)
食べさせて、食べさせられて、最後の最後まで
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やっぱり豪快な一口に、つい目を奪われてしまう。ゆるりと目尻を下げた美味しそうな笑顔に、俺まで口元が緩みそうになる。
「あー美味しい! 元々、このクレープが好きってのもあるけど」
言葉を切ってから先輩がまた頬を寄せてきてくれる。
「シュンちゃんに食べさせてもらえたから、余計に美味しく感じたよ……」
一瞬、心臓がおかしくなるかと。
ただでさえ高鳴ってしまっていたってのに、俺だけにしか聞こえない声で囁いてくるもんだから。それも、殺し文句じみたことを。
「よ、良かった……です……喜んで、もらえて……」
お返しに俺も何か言えれば良かったんだけれども、これが精一杯。
元々、恋人に囁く系の語彙力なんぞからっきし。無理矢理絞り出そうにも、今にもくらくらしてしまいそうな思考回路が働く訳もなかった。固まってしまわなかっただけでも良しとしなければ。
モヤモヤしてしまいそうな胸の内を誤魔化すように、クレープに口をつけようとしたけれども、それも出来なかった。
「あっ、ちょっと待って」
「なん、ですか? 先ぱ」
「今度はオレの番でしょ?」
食い気味に尋ねてきてから、先輩がいそいそとスプーンを取り出す。
どうやら拒否権はないらしい。紙ナプキンとセットだったピンクのスプーンで器用に、薄く切られたバナナとチョコレートソースのかかったクリームを盛ってから、俺の口元へと差し出してきた。
「はーい、シュンちゃん、あーん」
「……いただきます」
何でスプーンでなのか。そう思ったものの、無邪気な笑顔の先輩を待たせる訳には。促されるがままに俺は、蛍光色なプラスチックのスプーンを口に含んだ。
瞬間、期待に満ちていたオレンジの瞳とかち合って、また心臓が大きく跳ねたけれども気づいていないフリをした。
口の中にもったりとしたクリームの甘さと、チョコレートソースのほどよい甘さが広がっていく。少し噛むと、さっきまで風味だけだったバナナの甘さも加わってきた。
どれも甘いんだけれども、三つ合わさっても不思議なことにしつこくない。引き立て合っているっていうか、調和しているっていうか。とにかく美味しい。
ただ、クレープがクレープであるがゆえの生地を、一緒に口にしていないからだろう。なんだか、パフェを食べさせてもらっているような気分になっていた。
甘い一口を食べ終えた頃、見計らっていたように先輩が俺の顔を覗き込むように尋ねてきた。
「どう?」
「美味しいです」
「フフ、良かった」
途端にふにゃりと下がっていったタレ目の瞳は、自分のことのように嬉しそうで。胸の奥を掴まれたような気分になる。柔らかな笑顔を眩しく感じてしまう。
「じゃあ、はいっ」
頭がふわふわしてきたところで、まさかのお代わり。今度はクレープそのものを、俺の口元へと差し出してきた。
「へ?」
「いや、だって、さっきはトッピングだけだったでしょ?」
「それは……そう、でしたけど……」
「だから、はい、あーん」
いやまぁ、分かるけれども。言わんとせんことは。
「でも、さっきので十分美味し」
「釣り合ってないでしょ? 全然」
「はい?」
「オレの一口と」
「あっ……あー……」
いやまぁ、確かに。一口の大きさでいったら、釣り合いは取れてはいないけれども。
でも、先輩からのあーんっていう価値的には、ちゃんと釣り合ってるっていうか。むしろ、俺にとっては滅茶苦茶プラスっていうか。
「シュンちゃん」
ぐるぐると一人思考の渦に囚われていた俺を、柔らかな声が引っ張り上げる。
「はい、あーん」
何故だか逆らえなかった。吸い寄せられるように俺は、先輩が差し出すクレープを食んでいた。心臓の音が頭にまで響いてきて煩い。
「美味しい?」
「……うん」
甘いってことしか……いや、甘いかどうかも分からなくなってきているけれども。
「そっか……でも、まだ足りないね。シュンちゃんの一口、ちっちゃくて可愛いから」
「え」
「だーかーらー……はい、あーん」
「っ……」
結局、釣り合えたのは、先輩がオッケーとみなしてくれたのは4口目を食べ終えてから。
その後も、なんやかんやと。上手い具合に言いくるめられて、不思議な雰囲気に流されて、最後の最後まで食べさせ合いっこを続けてしまっていた。お互いのクレープを取り替えながら、二つの味を楽しみながら。
「あー美味しい! 元々、このクレープが好きってのもあるけど」
言葉を切ってから先輩がまた頬を寄せてきてくれる。
「シュンちゃんに食べさせてもらえたから、余計に美味しく感じたよ……」
一瞬、心臓がおかしくなるかと。
ただでさえ高鳴ってしまっていたってのに、俺だけにしか聞こえない声で囁いてくるもんだから。それも、殺し文句じみたことを。
「よ、良かった……です……喜んで、もらえて……」
お返しに俺も何か言えれば良かったんだけれども、これが精一杯。
元々、恋人に囁く系の語彙力なんぞからっきし。無理矢理絞り出そうにも、今にもくらくらしてしまいそうな思考回路が働く訳もなかった。固まってしまわなかっただけでも良しとしなければ。
モヤモヤしてしまいそうな胸の内を誤魔化すように、クレープに口をつけようとしたけれども、それも出来なかった。
「あっ、ちょっと待って」
「なん、ですか? 先ぱ」
「今度はオレの番でしょ?」
食い気味に尋ねてきてから、先輩がいそいそとスプーンを取り出す。
どうやら拒否権はないらしい。紙ナプキンとセットだったピンクのスプーンで器用に、薄く切られたバナナとチョコレートソースのかかったクリームを盛ってから、俺の口元へと差し出してきた。
「はーい、シュンちゃん、あーん」
「……いただきます」
何でスプーンでなのか。そう思ったものの、無邪気な笑顔の先輩を待たせる訳には。促されるがままに俺は、蛍光色なプラスチックのスプーンを口に含んだ。
瞬間、期待に満ちていたオレンジの瞳とかち合って、また心臓が大きく跳ねたけれども気づいていないフリをした。
口の中にもったりとしたクリームの甘さと、チョコレートソースのほどよい甘さが広がっていく。少し噛むと、さっきまで風味だけだったバナナの甘さも加わってきた。
どれも甘いんだけれども、三つ合わさっても不思議なことにしつこくない。引き立て合っているっていうか、調和しているっていうか。とにかく美味しい。
ただ、クレープがクレープであるがゆえの生地を、一緒に口にしていないからだろう。なんだか、パフェを食べさせてもらっているような気分になっていた。
甘い一口を食べ終えた頃、見計らっていたように先輩が俺の顔を覗き込むように尋ねてきた。
「どう?」
「美味しいです」
「フフ、良かった」
途端にふにゃりと下がっていったタレ目の瞳は、自分のことのように嬉しそうで。胸の奥を掴まれたような気分になる。柔らかな笑顔を眩しく感じてしまう。
「じゃあ、はいっ」
頭がふわふわしてきたところで、まさかのお代わり。今度はクレープそのものを、俺の口元へと差し出してきた。
「へ?」
「いや、だって、さっきはトッピングだけだったでしょ?」
「それは……そう、でしたけど……」
「だから、はい、あーん」
いやまぁ、分かるけれども。言わんとせんことは。
「でも、さっきので十分美味し」
「釣り合ってないでしょ? 全然」
「はい?」
「オレの一口と」
「あっ……あー……」
いやまぁ、確かに。一口の大きさでいったら、釣り合いは取れてはいないけれども。
でも、先輩からのあーんっていう価値的には、ちゃんと釣り合ってるっていうか。むしろ、俺にとっては滅茶苦茶プラスっていうか。
「シュンちゃん」
ぐるぐると一人思考の渦に囚われていた俺を、柔らかな声が引っ張り上げる。
「はい、あーん」
何故だか逆らえなかった。吸い寄せられるように俺は、先輩が差し出すクレープを食んでいた。心臓の音が頭にまで響いてきて煩い。
「美味しい?」
「……うん」
甘いってことしか……いや、甘いかどうかも分からなくなってきているけれども。
「そっか……でも、まだ足りないね。シュンちゃんの一口、ちっちゃくて可愛いから」
「え」
「だーかーらー……はい、あーん」
「っ……」
結局、釣り合えたのは、先輩がオッケーとみなしてくれたのは4口目を食べ終えてから。
その後も、なんやかんやと。上手い具合に言いくるめられて、不思議な雰囲気に流されて、最後の最後まで食べさせ合いっこを続けてしまっていた。お互いのクレープを取り替えながら、二つの味を楽しみながら。
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