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細マッチョな先輩と恋人同士になった件(ソレイユルート)

何処だって楽しめるけれども、その前に

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 最後のあーんを口にしている内に、ついついぼーっとしてしまっている内に、大きな手から手元の紙くずを取られてしまっていた。

「ほい、ごちそうさまでしたー」

 先輩は、食べ終えた二つのクレープの包み紙を丁寧に折り畳んでから、直ぐ側に設置されているゴミ箱へと。戻ってくるとベンチに座ったままの俺に手を差し出してくれた。

「シュンちゃん」

 見上げた先にある笑顔が眩しい。緩いウェーブのかかったオレンジの髪がふわりと揺れている。

「……はい、ソレイユ先輩」

 温かい手のひらに指先を乗せれば、しっかりと指を絡めて手を繋がれた。優しく腕を引かれながら、腰に手を回されて立ち上がらされて、頭を優しく撫でてもらえた。

「この後は、どうしよっか? どこか、シュンちゃんが行きたいところ、ある? それとも適当にぶらぶら回って、気になるお店を探してみる?」

「えっと……」

 行きたいところ、か。先輩となら何処へでも。何処だって楽しめる自信がある。でも、その前に。

「もう一度、さっきの雑貨屋さんに行ってもいいですか?」

「うんっ、勿論。何か気になるものあった?」

「気になる、というか……心残りがありまして……」

「ふーん?」

 どこかおだけたような相槌を打ちながら、先輩はそのモデルのようにすらりと伸びている背筋を軽く屈めた。俺の歩幅に合わせてくれている歩みを緩めて、整った顔を寄せてくる。

 香ってきた爽やかなボディーソープの香りに、また胸の辺りが騒がしくなった。声がひっくり返りそうになってしまう。

「や、やっぱり、俺も先輩に……今日、贈り物、したいなって……あのヘアピン、スゴく似合ってたから……」

「そっか。そういうことなら、行こう! 今すぐ行こう!」

「え、わっ」

 軽やかに、スキップするかのように先輩は俺の手を引きながら、真っ白な光沢のある通りを進んでいく。

 雑貨屋さんに着くなり迷うことなくヘアピンがあったコーナーへと。俺がずっと気になっていた黒のピンを整えられた指先で摘み上げると、俺の手を取り手のひらへと乗せた。

「もう一回、シュンちゃんの手でつけてみてくれない?」

「は、はい」

 先輩は、もう待っていてくれている。俺がつけやすいように真っ直ぐに伸びた背を軽く曲げて、期待に満ちた眼差しで見つめている。

 白くて小さな額にサラリとかかっているオレンジ。緩やかなウェーブのかかった前髪に、そっと触れる。見た目からしてもふわふわしていそうな髪はやっぱり柔らかい。ずっと触れていたいと、後ろ髪を引かれてしまうほどに魅力的だ。

 とはいえ、今はそんな場合じゃ。誘惑を振り切って、髪の束を優しく耳の方へと流していく。キレイに整えられたところで、艷やかな光沢を帯びた黒を差し入れた。キレイなオレンジの中で艶めく黒は、やっぱり。

「カッコいい……」

 ずっとご機嫌な笑顔だった先輩の顔に、驚きが滲んでいく。もしかして、つけ方をミスってしまったんだろうか? 髪の毛が痛かったり?

「すみませ」

「フフ、先に褒めてもらえちゃった」

「へ?」

「カッコいい? って聞くつもりだったからさ。シュンちゃんに、そう褒めてもらえるまで」

 頬をほんのりと染めながら先輩はクスクスと笑みをこぼしている。俺がつけたヘアピンを、しなやかな指先で撫でている。まるで、宝物に触れているみたいに大事そうに、優しい手つきで。

 目が離せない。目を離したくない。ずっと思い出せるように、焼けつけてしまいたい。ホントに嬉しそうに笑っている好きな人の笑顔を。その笑顔を引き出しているのが、俺からのプレゼントだっていう事実を。

「ねー、ねー、シュンちゃん」

「は、はいっ」

「このままさ、つけていきたいんだけど……いい? それとも、やっぱり……ちゃんとラッピングしてから渡したい?」

 こんな時でも先輩は俺に気を使ってくれている。お願いするような瞳で見つめながらも、俺のことを一番に考えてくれている。

「つけていて、欲しいです……その方が俺も、嬉しいですから……」

「ん……そっか、フフ……」

 また先輩はクスクス微笑みながら、俺の手を引いた。レジへと向かってからも、このままつけていってもいいか店員さんへと尋ねている間も、ずっとご機嫌。

 それどころか俺の肩を抱きながら、やれ「自慢の恋人なんです」とか、やれ「プレゼントしてもらうんです」とか。言わなくてもいいことを自慢気に話すもんだから、余計に顔が熱を持ってしまった。

 店員さんは良い人だった。微笑ましそうに微笑みながら頷いてくれていた。
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