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細マッチョな先輩と恋人同士になった件(ソレイユルート)

これくらいなら

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 クリーム溶けちゃうよ? とちゃっかりブーメランまで。慌てて頬張ったせいか、自分の限界を見誤ってしまった。欲張りすぎた。

「んむ……っ」

 瑞々しいみかんの果肉と滑らかなホイップクリーム、表面はパリッと香ばしいのにもっちりとした生地。それら甘酸っぱい美味しさが口の中いっぱいになだれ込む。

 先輩みたいに豪快でカッコよく、かつスマートに一口で収めることなど出来る訳もなく。入りきれなかったクリームを口元につけてしまっていた。

「フハ、大丈夫? ゴメンゴメン、焦らせちゃったね」

 笑いのツボにハマったのか、先輩はクスクスと笑い続けている。こんな情けのない状態でなければ、無邪気で明るい笑顔をのんびり見ていられるんだけれども。

 とにかく何か拭くものは。救世主はすぐに見つかった。クレープと一緒に手渡されていた、プラスチックスプーン。透明な袋に入っている小さくて、鮮やかな蛍光色のピンクと一緒に紙ナプキンが添えられていた。

 こういうことを見越してか、それとも手元が汚れてしまった時ようにか。どっちにせよ助かった。早速、取り出して口元を。

 袋へと指をかけた時だった。顎をそっと掬い上げられたかと思えば、目の前がカッコいい笑顔でいっぱいになっていた。

「せ、先輩……っ」

 見惚れていると鳴った軽やかなリップ音。けれども唇には柔らかな感触は、どちらかといえば口の端ギリギリに。

「ん、大丈夫だよ。ちゃんとキレイになったよ?」

 何が大丈夫だって言うんだ! いや、クリームを取ってくれたってのは分かったけれども!

「っ……それに関しては、ありがとうございます」

「どういたしましてー」

 返ってきた返事は、なんてことのないような。お陰様で余計に顔が熱を持ってしまう。やっぱり、俺ばっかりじゃないか? 色々と意識しちゃってるの。

「っ……た、ただ、こういうのは……嬉しいですけど、誰が見ているか分からな」

「見せつけも兼ねてたから問題ないよ」

「へ?」

 間の抜けた声を出してしまっていた。遮るようにさらりと、とんでもないことを言い放ってきたもんだから。

 ただただ見つめてしまっていても、先輩は柔らかく微笑んだまま。そればかりか、ますます胸の音が騒がしくなるようなことを言ってくれる。

「可愛いオレのシュンちゃんが、また可愛いことしてくれちゃってたからさ。悪い虫が寄ってこないように、今のうちに牽制しとかないとね」

「け、牽制って……」

「シュンはオレのものなんだって、分からせておかないといけないでしょ?」

 シュンはオレのもの。

 緩やかな笑みを浮かべた唇から紡がれた言葉が、頭の中で木霊する。クリームよりも甘ったるい喜びが、胸いっぱいにあふれてくる。

「そ、そんなこと、しなくても……周りに分からせなくても……とっくに俺は、先輩のもの、ですよ……?」

 珍しく俺は素直になれていた。真っ直ぐな言葉に浮かされたからだろうか。思っていたことを、誤魔化すことなく、照れ隠しをすることもなく、伝えることが出来ていた。

「…………」

 先輩が何やら呟いた気がした。聞き取れなかったし、尋ねることも出来なかった。

 すぐに悔しげに続けた言葉に、また俺は心を鷲掴みにされてしまっていたのだ。

「あー……ホント、二人っきりだったらなぁ……もっと、もっと、シュンちゃんのこと可愛がれるのになぁ……」

「っ……何言って」

 またしても、俺の声が聞こえていないんだろうか。何の躊躇もなく先輩は、その滑らかな頬を俺の頬へと擦り寄せてくる。

「わ、ちょ、先輩っ」

 やっぱり聞く耳を持つ気はないみたい。甘えてくれているような仕草を止めようとはしない。このままだと満足するまで続けそう。だったら。

「あー……もう……はい、どうぞ」

 いっそのこと、今出来る恋人同士っぽいことを。そう思って俺のクレープを差し出したものの、先輩は珍しく汲み取れなかったようだ。きょとんと目を丸くしている。

「あーんですよ、あーん。食べさせてあげます。これくらいなら、人の目があるところでしても大丈夫でしょう……?」

「ッ……うんっ」

 出し惜しみなく伝えたところで、先輩はぱあっと顔を輝かせた。笑顔の形で大きく開かれた口に、みかんホイップクレープの四分の一がぱくりとおさまった。
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