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細マッチョな先輩と恋人同士になった件(ソレイユルート)

……違うでしょ

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 どんなに美味しい味でも立て続けのときめきには勝てないらしい。だって、分かんなくなっちゃったからな。焼き肉弁当の味もだけど、唐揚げも。

 頭の中はすっかりソレイユ先輩一色。自然と目で追ってしまう。

 せっせと箸を使う長い指の動きを、わんぱくなくらいに大きく開けた口を、その際にチラリと見える意外と鋭い歯を、赤い舌を。ニコリと綻んでいく美味しそうな笑顔を、ほんのりと桜色に色づいた形の良い唇を。

 ドキドキしながらも、つい恨めしげに見てしまう。

 ……やっぱり、あれくらいのスキンシップは特別じゃないんだろうな、先輩にとっては。そりゃあ、それなりに致してもらっているけれどさ。さっきのキスが可愛く思えちゃうくらいには……でも、でもさ。

 高揚していた気分は薄れてしまい、打って変わって胸の内はどんより曇り空。自分でも上手く言語化出来ない感情によって、じわじわと胸が締め付けられていってしまう。

「……んー美味しいっ、やっぱ、ここのお肉もご飯も最高だよねー……って、シュンちゃん、大丈夫? もうお腹いっぱい?」

「……あ、いえ、まだまだいけますっ」

 止めてしまっていた箸で咄嗟に唐揚げを掴んで、口の中へと放り込んで。更には弁当を持ち上げ、かっこむようにご飯も頬張って。パンパンになった頬を動かしながら、先輩に微笑みかける。

「んっ、おいひいでふっ!」

 微笑みかけることが出来たたつもりでいたんだけど。

「…………」

「…………っ」

 思わず飲み込んだ食べ物達が、変なところに入りそうになってしまった。

 なんかオレに隠してない? そんなニュアンスな訴えが、じーっと見つめてくる眼差しから、訝しげに細められた眼差しから伝わってくる。

 やっぱり先輩相手じゃ誤魔化すことなんて出来やしないか。とはいえ、素直に全部白状するにしても、一体どう説明したらいいんだろう?

「……ね、オレもさ、シュンちゃんの唐揚げ欲しいな」

「へ、あ、はいっ、どうぞ!」

 不思議に思いつつも俺は自分の弁当を先輩に向かってすぐさま差し出していた。

 どうして先輩がそんなお願いをしてきたのかは分からない。けれども迷いに迷っていた俺にとっては渡りに船だった。これで、さっきを有耶無耶に出来ると、話題を変えられると。

 けれども先輩の反応は俺の想像の真逆だった。喜んでくれるどころか、寂しそうに眉を下げ、不満そうに唇を尖らせている。一体、どうして……

「……違うでしょ」

「……え?」

「……そこはさ、お返ししてくれるもんなんじゃないの? さっきはオレがしたんだからさ……シュンちゃんに、あーんって」

「あ……っ」

 そういうことか、そういうことだったか。

 ホントに俺はダメな男だ。鈍くて気に利かない男だ。そこまで言ってもらわないと気がつけないなんて。

「ごめんなさいっ……もう一回チャンスを、やり直しさせてもらってもいいですか?」

「仕方がないなぁ……いいよ」

「ありがとうございますっ」

 良かった。機嫌を直してもらえたみたいだ。先輩は白い頬をほんのりと染めながら俺を待っていてくれている。その瞳は期待に満ちていた。

 眩しくて嬉しいそれに応えたい。手早く唐揚げを箸で掴んで先輩の口元へと運んだ。

「はい、ソレイユ先輩……あーん」

「あーん……」

 残っていた唐揚げの内、つい大きな方を取ってしまっていたが、先輩は見事に一口で頬張ってくれた。もくもくと頬が動く様が、ヒマワリの種を頬袋いっぱいに詰め込んだハムスターみたいで可愛い。
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