上 下
328 / 460
細マッチョな先輩と恋人同士になった件(ソレイユルート)

申し訳ないやら、情けないやら……嬉しいやら

しおりを挟む
 ふと開いた視界。寝惚けているからか、まだぼんやりとボヤけたそこに映ったのは、俺を見下ろすように眺めている先輩の姿だった。

 タレ目の瞳と目が合うと柔らかい微笑みがますます蕩けていく。俺の頭を撫でてくれながら先輩が声をかけてきた。

「おはよう、シュンちゃん。っていっても、まだ夜なんだけどさ」

 どうやら俺が眠ってしまっていた間、ずっと膝の上で抱き抱えてくれていたらしい。どうりで身体がぬくぬくしている訳だ。

 きっと重かっただろうに、先輩は何ともなさそう。やっぱり俺とは鍛え方が違うんだろう。なかなか声が出てこない俺に気にすることなく「こういう時って、何て挨拶するのがいいんだろうね」と小首を傾げている。

「おはよう、ございます……」

 ようやく出せた声は少し掠れていた。まるで長時間歌った後みたいな。そんなに、俺、大きな声を出すようなことを?

 そこまで考えたところで、やっとこさ思い出してきた。眠ってしまう前に先輩にしてもらえていた数々を。そして、俺のやらかしを。

 また俺ばっかり気持ちよくしてもらったどころか眠っちゃうなんて。せっかくのお部屋デートなのに、初めて泊りに来てもらえたのに、先輩のこと放ったらかしにして。

「……あ、あのっ、先輩……俺……」

「ゴメンね、シュンちゃん」

「ごめんなさいっ」

 とにもかくにもと俺が口にした謝罪とほとんど同時だった。眉を八の字にした先輩が俺に向かって頭を下げたのは。

「って、え? 何で先輩が謝るんですか?」

「あ……いや、勝手に着替えさせちゃったから……それに、その……必要に駆られたとはいえさ、許可も取らずに恋人のタンスを開けちゃったからさ……」

「えっ……あっ、ホントだ」

 はたと自分の身体へと目を向ければ、確かに昨日洗ったばかりの部屋着を着ていた。いくらなんでも気がつくのが遅過ぎる。

 よくよく見れば、先輩の私服も変わっていた。前のものは、先輩のスタイルの良さが分かるような、シルエットのカッコいいものだった。今着ているものは少しゆったりめだけれども、こっちはこっちで似合っている。

「ありがとうございます、着替えさせてくれて」

 今更なんだけどさ。裸以上に恥ずかしいところなんて、いっぱい見られちゃってるし。情けのないところも散々。でも、気がついて早々に自分が汚してしまった惨状を見なくて済んだのは、ホントに助かった。

「……大丈夫? ムリしてない? イヤじゃなかった? だって、オレ……替えを探す為とはいえ、シュンちゃんの下着……」

「大丈夫ですよ、むしろ助かりました。先輩には、その……色々見られちゃっても大丈夫なんですけど……汚しちゃったのをずっと見られちゃうのは、やっぱり恥ずかしいから……」

「そっか、良かった……あ、後ね、勝手にタオルも借りちゃった。流石にあのまま着替えさせる訳にはいかなかったからさ。洗面所で濡らしてから拭かせてもらったんだけど……大丈夫?」

 これまたどうりでスッキリしている訳だ。致してもらっていた近くのカーペットを横目で見ても、目立ったシミは一つもない。もしかして。

「ありがとうございます、大丈夫ですよ。それよりも、掃除までしてもらっちゃってたりします?」

「ああ、うん。オレが調子に乗っちゃったせいで汚しちゃったからね。使わせてもらったタオルと前の服とか下着は洗濯中だよ。汚れが酷かった下着はちゃんと洗ってから洗濯機に入れたから」

「ひぇ……何から何まですみません……ありがとうございます……」

 申し訳ないやら、情けないやら。どんどん熱くなっていく顔を覆い隠そうとしていたところで手を握られた。絡めてきた長い指は、しっかりとしているのに上品な美しさも感じる。

「気にしないで……オレ、スゴく嬉しかったんだからさ……シュンちゃんのこと、好きなだけ愛させてもらえたから」

「あ、い……っ」

 熱烈な言葉だけでも心を鷲掴みにされるには十分だった。なのに、間近にある微笑みからあふれんばかりの好きが伝わってきて、胸の奥が甘く締め付けられてしまう。

 ほのかに漂ってきたそういう雰囲気に、性懲りもなく俺はそわそわしてしまっていた。けれども密かに抱いていた期待は外れることになる。

「ところでさ、お腹空いてない?」

「うぇ?」

 慈しむような微笑みから一転して無邪気な笑顔。コロリと変わった先輩の様子に声がひっくり返ってしまう。でも、言われてみれば。

「あー……空いて、ますね……かなり」

 お腹の具合を気にしたからだろう。さっきまで全く気配のなかった空腹が急に訴え始めた。このままじゃあ、先輩の前だってのに盛大に腹の虫を鳴らしてしまいそう。

「じゃあ、お弁当温めて食べよっか? それでさ、その後、一緒にお風呂に入ろう?」

「は、はいっ、ご一緒させていただきます」

「フフ、楽しみ。交代で背中流し合いっこしようね」

「はいっ」

 先輩とのお風呂の約束に舞い上がった結果、またしても俺は忘れてしまっていた。肝心要な自分がしたかったことを。先輩にいっぱいの好きを伝えるということを。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

俺の義兄弟が凄いんだが

kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・ 初投稿です。感想などお待ちしています。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

処理中です...