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細マッチョな先輩と恋人同士になった件(ソレイユルート)

もう怖がるのは止めにしよう

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 オレが袖で目元を拭おうが、鼻水を啜ろうが、サルフは何も言わなかった。ただオレが落ち着くのを、オレが話すのを待ってくれていた。

 遠くで剣を激しく打ち合う金属音が聞こえている。少し温い空気を吸い込んで、吐き出して。ようやく俺は心の隅に隠していた、見て見ぬフリをしていた不安をこぼすことが出来た。

「……いつか、シュンちゃんに幻滅されちゃいそうでさ」

「……どうしてそう思うんだ? 俺から見ても……シュンはソルのことを、とても好いているように見えるが」

 不思議そうな顔をしたサルフが、続きを促すように俺を見つめてくる。この先が言い辛くて黙っていたんだけど。

「なんか……さ、シュンちゃんの中のオレって、すっごくキレイで……カッコいいことになってるみたいでさ……」

 意を決して伝えたものの顔の中心には熱が集まってしまう。声も勝手に震えてしまう。

 反応に困るのは分かるんだけどさ。せめて笑うなりなんなりリアクションの一つでもして欲しいんだけど。

 八つ当たりでしかない恨めしげな気持ちを持ちながら、そっと窺ったサルフの顔は真剣そのものだった。僅かに細められた眼差しに、変わらず心配の色を宿している。

 ずっとオレの中に居座り続けていた気恥ずかしさが、あっさりと姿を消した。

「それで、ふとした時にうっかりカッコよくないオレが出てきそうでさ……嫌われないかなってビビりまくってるってワケ」

 一旦こぼしてしまえば後はスラスラと。どこか自嘲気味な笑みと共にオレの口は、誰にも言わずに抱えていくつもりだった不安を勝手に吐き出していた。

「まぁ、自業自得なんだけどさ。実際、そう思ってくれたらいいなって振る舞ってたんだ。でもカッコつけ過ぎちゃった。ホンとのオレはシュンちゃんが想ってくれているような理想ヤツじゃない。もっとずっと独りよがりで、醜くて……」

 気がつかない内に縮こまっていた背を、分厚いサルフの手のひらがそっと叩いた。ぐずる幼子をあやすように一定のリズムで。

 こういうのって落ち着くもんなんだなぁ……安心したからか、また目元が滲んできて。

「……誰だって好きな相手の前では見栄の一つや二つは張るだろう。カッコいいと思われたい、もっと好きになって欲しい……そう欲するのは自然なことじゃないか?」

 ゆらりと顔を上げれば、包み込むような笑顔に迎えられた。

「俺も、大分カッコつけていたぞ」

 珍しくちょっとおちゃらけた調子で口角を持ち上げる。誰相手にだったかなんて、問うまでもないだろう。

「それに、シュンだったら受け止めてくれると思うぞ? カッコつけていたソルのことも、本当のソルのことも」

 サルフの言う通りだ。

 信じたい。いや、信じなければ。どんなオレでも大好きだと言ってくれたシュンちゃんの気持ちを。

「……ホントの俺、目茶苦茶重いし情けないけど?」

「だとしても、シュンが嫌がることは絶対にしないだろう?」

「そりゃあ」

「だったら大丈夫だ。シュンのことを一番に考えているソルにだったら」

 頼もしい笑顔が、手のひらが、弱虫なオレを吹き飛ばしてくれる。温かなそれらに支えられて、ようやくオレの中で決意が固まった。

 もう怖がるのは止めにしよう。ホントの俺を見てもらおう。オレのことを知りたいって、大好きだって言ってくれるあのコの為に。
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