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マッチョな先輩と恋人同士になった件(サルファールート)
そうか、先輩も、だったな
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家路を急ぐ俺達の間に会話はなかった。
観覧車を降りてからも、帰りの電車の中でも。今現在歩みを進めている、駅から寮までの道のりでも。
だって、何を話したらいいのか分からない。そもそも、どんな顔をして先輩に接したら。俺にしては大胆なことを言ってしまった後だってのに。
隣を歩く彼も多分、同じ気持ちなんだと思う。繋いだままの手が熱いから。ずっと力が込められているから。
……着いちゃったな。
見慣れた建物が見えた途端、ため息が出そうになってしまった。
待ち侘びていたハズなのに。出来ることなら一目散に飛んで帰りたかったくらいに、早く早くと願っていたハズなのに。
いざ、これからなんだって。先輩に抱いてもらえるんだって実感すると、気持ちが後ずさりしそうになってしまう。
嬉しいのにな……幸せなのにな。
先輩から触れてもらえるのも、先輩に触らせてもらうのも……気持ちがいいことも。
…………好き、なのにな。
「……シュン、大丈夫か?」
何だか、久しぶりに聞いたような。弾かれるように顔を上げれば、心配そうに細められた眼差しとかち合った。
マズい……ちゃんと俺の気持ちを伝えないと。また先輩に勘違いされてしまう。優しい先輩のことを傷つけてしまう。
「だ、大丈夫ですっ……その、緊張、しちゃってて……ビビリ、なんですかね? 俺……スゴく嬉しいのに……ずっと先輩に、して欲しいって……思って、っ」
気がつけば、繋いでくれていた大きな手が俺の背中に添えられていて。全身を筋肉質な太い腕が包みこんでくれていた。
「さ、サルファー、先輩?」
「俺もだ」
「え……?」
「俺も、緊張している……それから怖さも、あるんだ……もし、君に優しく出来なかったらと……自分勝手な衝動のままに、君を……傷つけてしまったらと……」
「先輩……」
頬に触れている、分厚い胸板から伝わってくる心音。駆け足になっている音は、彼の言葉を裏づけるには十分で。
……ああ、そうか。先輩も、だったな。
好きにして欲しいとお願い出来た瞬間、顔を真っ赤にして目を回してしまった先輩。少しでも俺が嫌な思いをしないように、痛い思いをしないようにと丁寧にことを進めてくれていた先輩。
全部、ちゃんと見てきていたのに。なのに俺は自分のことばっかりで。
「……大丈夫ですよ。先輩は、ずっと優しくしてくれていましたから……時々、申し訳ないなって思っちゃうくらい……」
広い背中を抱き締めていると太い腕の力が緩んだ。そっと肩を掴まれて、再び合うことが出来た瞳が期待に揺れていて。だから、ついこぼれてしまっていた。
「それに、その……たまに見せてくれる、ちょっと強引な先輩も好きっていうか……もっと、先輩の好きなように俺のこと……触って欲しいっていうか……んっ」
噛みつかれるように口づけられた、形の良い唇に吐息ごと飲み込まれていた。
ついばむように交わしてもらえる度に、思考がふわふわと蕩けていく。伝える予定だった言葉なんか、もうとっくに吹き飛んでいた。
もう頭の中も、感じることも、全部が全部先輩だけ。だったんだけど。
突如吹きつけてきた冷たい風と、耳をつんざくような甲高いクラクション。強烈なそれらによって引き戻された。気づかさせてもらった。
先輩もだろう。幅広の肩が大きく跳ねたんだから。してくれた時よりも速く、勢いよく、顔を離したんだから。
沈黙が重い。帰ってくる道中のなんて、可愛く思えるくらいに。とはいえ、いつまでも向かい合っている訳には。
「あの……」
「あ、ああ……」
「入りましょうか……」
「ああ……」
幸いなことに目撃者はいないようだった。だからといって、部屋の扉の前でってのは。うん……これからは気をつけよう。
観覧車を降りてからも、帰りの電車の中でも。今現在歩みを進めている、駅から寮までの道のりでも。
だって、何を話したらいいのか分からない。そもそも、どんな顔をして先輩に接したら。俺にしては大胆なことを言ってしまった後だってのに。
隣を歩く彼も多分、同じ気持ちなんだと思う。繋いだままの手が熱いから。ずっと力が込められているから。
……着いちゃったな。
見慣れた建物が見えた途端、ため息が出そうになってしまった。
待ち侘びていたハズなのに。出来ることなら一目散に飛んで帰りたかったくらいに、早く早くと願っていたハズなのに。
いざ、これからなんだって。先輩に抱いてもらえるんだって実感すると、気持ちが後ずさりしそうになってしまう。
嬉しいのにな……幸せなのにな。
先輩から触れてもらえるのも、先輩に触らせてもらうのも……気持ちがいいことも。
…………好き、なのにな。
「……シュン、大丈夫か?」
何だか、久しぶりに聞いたような。弾かれるように顔を上げれば、心配そうに細められた眼差しとかち合った。
マズい……ちゃんと俺の気持ちを伝えないと。また先輩に勘違いされてしまう。優しい先輩のことを傷つけてしまう。
「だ、大丈夫ですっ……その、緊張、しちゃってて……ビビリ、なんですかね? 俺……スゴく嬉しいのに……ずっと先輩に、して欲しいって……思って、っ」
気がつけば、繋いでくれていた大きな手が俺の背中に添えられていて。全身を筋肉質な太い腕が包みこんでくれていた。
「さ、サルファー、先輩?」
「俺もだ」
「え……?」
「俺も、緊張している……それから怖さも、あるんだ……もし、君に優しく出来なかったらと……自分勝手な衝動のままに、君を……傷つけてしまったらと……」
「先輩……」
頬に触れている、分厚い胸板から伝わってくる心音。駆け足になっている音は、彼の言葉を裏づけるには十分で。
……ああ、そうか。先輩も、だったな。
好きにして欲しいとお願い出来た瞬間、顔を真っ赤にして目を回してしまった先輩。少しでも俺が嫌な思いをしないように、痛い思いをしないようにと丁寧にことを進めてくれていた先輩。
全部、ちゃんと見てきていたのに。なのに俺は自分のことばっかりで。
「……大丈夫ですよ。先輩は、ずっと優しくしてくれていましたから……時々、申し訳ないなって思っちゃうくらい……」
広い背中を抱き締めていると太い腕の力が緩んだ。そっと肩を掴まれて、再び合うことが出来た瞳が期待に揺れていて。だから、ついこぼれてしまっていた。
「それに、その……たまに見せてくれる、ちょっと強引な先輩も好きっていうか……もっと、先輩の好きなように俺のこと……触って欲しいっていうか……んっ」
噛みつかれるように口づけられた、形の良い唇に吐息ごと飲み込まれていた。
ついばむように交わしてもらえる度に、思考がふわふわと蕩けていく。伝える予定だった言葉なんか、もうとっくに吹き飛んでいた。
もう頭の中も、感じることも、全部が全部先輩だけ。だったんだけど。
突如吹きつけてきた冷たい風と、耳をつんざくような甲高いクラクション。強烈なそれらによって引き戻された。気づかさせてもらった。
先輩もだろう。幅広の肩が大きく跳ねたんだから。してくれた時よりも速く、勢いよく、顔を離したんだから。
沈黙が重い。帰ってくる道中のなんて、可愛く思えるくらいに。とはいえ、いつまでも向かい合っている訳には。
「あの……」
「あ、ああ……」
「入りましょうか……」
「ああ……」
幸いなことに目撃者はいないようだった。だからといって、部屋の扉の前でってのは。うん……これからは気をつけよう。
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