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マッチョな先輩と恋人同士になった件(サルファールート)

これから交わす俺達の永遠(終)

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 陽の光の明るさによってぼんやりと意識を引き戻された訳ではない。かといって、けたたましいアラームに無理矢理叩き起こされた訳でもない。

 けれども、俺は深い眠りから引っ張り上げられていた。

 後ろから抱き締めてくれているから、まだ俺が目を覚ましたとは気がついていないのだろう。温かくて柔らかな感触が首の辺りに何度も触れてくる。

 ひそかに触れている手のひらもだ。絶妙な力加減で、大した膨らみもない俺の胸板を撫で回している。乳首には触れずに。

 俺が、何の反応を示さないことをいいことに、太ももにまで手が伸びてきて。

「んん……ふ、ぅ……んっ……」

 思わず鼻にかかった声を上げてしまっていた。首筋を軽く吸われながら、少し硬い指先で内股を撫でられて、昨晩の淡い感覚を思い出させられてしまった。

 あからさまだったのに、俺の婚約者は手を止めようとはしない。それどころか、際どいところを攻めようとしている。さすがにマズい。

 そんなに内側を撫でられてしまうと当たってしまうのに。昨晩もたっぷり愛してもらっていたから、下着すら穿いていないってのに。

「あっ、も……サル、ファー……」

「ん……済まない、シュン……起こしてしまったな」

 口ではそう言いつつも、彼に悪びれた様子はなさそうだ。現に焦らすような手つきは止めないまま、耳たぶを甘く食んでくる。

 ベッドから、自分の腕の中から、俺を逃さないように抱き締めてくる。鍛え抜かれた彼の豊満な雄っぱいが、背中にムニッと押しつけられた。

 とはいえ、今の俺に弾力のある温もりを堪能する余裕なんて。股の間へと忍び寄ろうとしていた手は、抱き寄せる方に専念している。が、クスクスと笑う唇は、胸を揉む手は止まっていないんだからな。

「ひゃ、んっ、あっ……最初から、起こすつもりだったくせに……」

「……バレてしまっては、しょうがないな」

 開き直ったのか、サルファーは俺を向き合う形で抱き直した。蜂蜜色の瞳が、悪戯っぽく微笑んでいる。手を繋いでくれてから、形の良い唇が、額に、頬にと順々に優しいキスを送ってくれる。

 ……随分と変わったもんだ。以前は頼んでも、寝込みを襲ってはくれなかったのに。いや、まぁ、三年も経てば変わるか。

 初めての遊園地デートの時だった。サルファーが観覧車でプロポーズしてくれたのは。その後に、彼に俺の初めてをもらってもらえて。なぁなぁだったのが、ちゃんと一緒に暮らさないかって告白してもらえて。

 それからも色々あったっけ。ついこの間、俺が卒業するまで。

 ホントに結婚出来るんだよな……サルファーと。長かったような、楽しかったからあっという間だったような……

「んむっ」

 まるで、俺を構え、と抗議されたみたいだった。噛みつくように口づけられて、何度も唇を甘く食まれる。

「ふ、んふ……んっ、ん、はぁ……」

 解放してもらえたのは、すっかり視界がボヤけ始めてから。サルファーとのキスに夢中になってからだった。

 俺からも、と口を押し付けようとして、骨ばった指に阻まれる。ほんのりと頬を染めたサルファーの口は、拗ねたように歪んでいた。

「……何を考えていたんだ? 俺が目の前に居るのに……楽しそうに、幸せそうに微笑んで……」

 いつかの、何度目かのやり取りが頭を過った。あの時も、俺が考えていたのはサルファーのことだけだったのに。

「ふふ……」

「シュン……」

「ごめん、ごめん……そういうところは変わらないよね……変わらない方が、俺としては嬉しいけれど……」

「……どういう意味だ?」

「えっとね、その前に……考えていたのは、サルファーとのことだよ。三年間色々あったなって……サルファーと結婚出来るんだなって……改めて実感していたんだ」

 目の前の鼻筋の通った顔が、コロコロと変わっていく。何やら物申したいような表情、不思議そうな表情、そして、気恥ずかしそうで嬉しそうな。

「それから変わったなって……ほら、付き合い始めたばかりの時はさ、嬉しいから寝込みを襲ってもいいよ? って俺が提案しても、勘弁してくれって顔真っ赤にしてたでしょ? ……でも、今はお願いしなくても、普通に襲ってくれるようになったから……幸せだなって……」

「っ……」

「ふふ、顔真っ赤だね……可愛い……」

 手のひらで触れた彼の頬が熱い。耳まで真っ赤に染まった唇を奪おうとして、先を越された。

 頬に添えていた手を掴まれて、また首元に口づけられた。

「んひゃっ、擽った……は、ぁ……んっ……」

 証をつけるように強く肌へと吸い付きながら、サルファーが俺を押し倒した。

 何が切っ掛けかは分からない。でも、すっかりスイッチが入ったみたい。さっきのじゃれていた時とは違って、今回のはマジみたいだ。のしかかってきた愛しい重みが、妖しい手つきで俺を愛で始めた。

「あっ、あ……ね、今日は、朝から指輪買いに行くって……張り切ってたんじゃ、ないの?」

 指輪という単語に反応したんだろう。俺を貪ろうとしていた彼の広い肩が、ぴくりと跳ねた。

 胸元に寄せていた顔が離れていく。額をくっつけ、擦り寄せて、見つめてくる眼差しは、まるで甘えているようで。

「……昼からじゃ、駄目か?」

 つい、また吹き出してしまっていた。

「はは、仕方がないなぁ……いいよ。お昼まで俺のこと、サルファーの好きにして」

 今度は無事に俺からキスを送ることが出来た。腕を絡めようとした彼の引き締まった首。その逞しい首元で、黒いプレートが揺れている。

 お互いの名前を彫ったネックレス。特別なお揃いにあしらわれた黄色の天然石。彼の瞳とそっくりのペリドットが、朝の日差しを浴びて煌めいていた。
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