気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件～恋人ルート～

マッチョな先輩と恋人同士になった件（サルファールート）

★ 怖いし、恥ずかしい……けれども、それ以上に

　軽く顔を上げた先輩は意外そうな顔をしていた。乳首の方を強請られるとは思わなかったんだろう。金糸のようにキレイな睫毛を瞬かせ、俺を見つめている。

　胸元に顔を寄せてくれているせいで、自然と上目遣いになっている視線に鼓動が跳ねた。複雑な気分だ。

　でも、先輩が動きを止めていたのはほんの少し。すぐに嬉しそうに目尻を下げてから、俺のお願いを叶えてくれた。

「ん……分かった……」

　柔らかい笑みを形作っている唇が食んだ。

　先輩から与えてもらっている心地よさによって色づき、固くなっている全体を戸惑いなく。そうして、口に含むと同時に舌を這わせてきた。

　優しく吸ってくれながら、舌の上で転がされるように舐められて、また甘い感覚に溺れていってしまう。胸が切なくなってしまう。

　安心したかったんだろうか。気がつけば俺は、先輩の頭を掻き抱いてしまっていた。

「は、ぁ……んっ、あっ、先ぱ……あっ、あ……」

　とはいえ、俺の腕力くらいで先輩がどうこうなる訳もないようで。後頭部を押さえるように俺が抱き締め続けていても、変わらず俺の快感を引き出そうとしてくれていた。口だけじゃない。指先で、反対の乳首も引き続き触れてくれたんだ。

　そんな、先輩の優しさも引き金になったのかもしれない。

「ひ、ぁ……？　んっ……ま、待って……なんか、んん……きちゃ……あ、ふぁ……」

　急に込み上げてきたのだ。まだ、全然触れてもらっていないあそこから重たい熱が。

　胸元から広がっていく心地よさがつのる度に迫ってくる、切羽詰まった感覚。俺はこれを知っている。知っているのに、あり得ないと焦っていた。だって。

「あっ、やだ……ほんと、待って……あっ、あ、サルファー……んぅ……いっちゃう、から……っ」

　だって、乳首だけで……イっちゃう、なんて……

　そりゃあ、男でも気持ちよくなれるって教えてもらったし……実際、気持ちよくなれてるんだけど……でも……

「……怖いか？」

「っ……」

「……そうか。じゃあ、止めよう」

　微笑んで、頭を撫でてくれて、手を繋いでもらって。あんまりにもあっさりで、呆気なかったもんだから……焦りなんて、戸惑いなんて、どこかへいってしまっていた。

　モヤモヤしている胸の内に残っているのは後悔だけ。

「ぁ……待って……」

　自分でも驚くくらいに悲しそうな声が出ていた。だからだろう。心配そうに眉を下げて先輩は、再び俺の頭を撫でてくれた。言葉を待ってくれた。

　俺は、思っているそのままを先輩に伝えることにした。

「……こういう、イき方……初めて、だから……ちょっとだけ……怖いし……めちゃくちゃ、恥ずかしい……でも」

　言葉を重ねるごとに声が勝手に萎んでいってしまう。いつも自然と目で追ってしまっているのに、今ばかりは先輩の顔を見てられない。

　……でも、伝えないと。せめて。

「してもらいたいなって……気持ちは、すごくあるから……先輩の好きなように……だから……その……」

「シュン」

「は、はい……？」

　通りの良い声に呼ばれ、俺は思わず目を合わせていた。

　瞬間、鼓動が大きく高鳴った。だって、先輩が必死に堪えていたのだ。

　ふーっ、ふーっ……と荒い息を漏らしながら、鋭く細めた瞳をギラつかせながら。獣だったら今にも食らいついてきそうなのに。

「これは……最終確認だ……もし君が、いいと言ったら……俺は止めてやれない……だが、まだ今なら」

「いい……ですよ……」

　俺は、彼を縛っている唯一の手綱を手放した。