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マッチョな先輩と恋人同士になった件(サルファールート)
俺にとっての極上のひと時
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食い気味な俺の返事に先輩は笑顔で頷いた。
「分かった、ちょっと待っていてくれ」
先輩が手に取ったのはフィナンシェ。プラスチックの包装を手早く開けて、黄金色の長方形が丁度半分出るように包みをずらしていく。
そうして、俺の口元へと差し出してきた。甘さを含んだバターの匂いが、ふわりと鼻を擽ってくる。
「ほら、シュン」
まさか、食べさせてくれるなんて。てっきりその飛び出した部分を折るなりして、手渡してくれるもんかと。
思いがけない嬉しい展開に、また固まってしまっていたせいだ。微笑んでいた瞳が、不思議そうに瞬いた。
「……ん? どうしたんだ? 遠慮しないで、かぶりついていいんだぞ?」
「は、はい……いただきます……」
「ああ、どうぞ」
かぶりついてと言われたからか、先輩からのあーんに応えなければと焦っていたからか、俺は大口開けて食べてしまっていた。
あらかじめ先輩が出してくれていたから半分を少し過ぎただけで済んだものの、普通に丸ごと食べてしまえるほどの大きな一口だった。
「ん……ご、ごめんなひゃ」
「はは、気持ちの良い食べっぷりだな。美味しいか?」
「っ……お、美味しいでふ」
多分。だって、味なんか分かりやしない。
大きな手のひらに頭を撫でてもらいながら「可愛いな」って褒めてもらえて、身体の感覚が全部先輩の方へと集中してしまったんだから。
見惚れていた無邪気な笑顔が、照れくさそうな顔へと変わっていく。遠慮がちに俺に残りのフィナンシェを差し出しながら、先輩は長い睫毛を伏せた。
「そうか、良かった……じゃあ、今度は……その、君にしてもらってもいいだろうか?」
ギャップがズルい。さっきはあんなに自然にやってのけたくせに。
「っ……やらせていただきます」
「ありがとう」
胸の辺りがきゅんきゅん締めつけられながらも何とか応えれば、彫りの深い顔がぱぁっと明るくなっていく。
俺が差し出したフィナンシェを先輩は、それは美味しそうに、嬉しそうに完食した。続けてバームクーヘンも同じ流れで楽しんだのだが、やっぱり俺には甘いなってことくらいしか分からなかった。
焼き菓子を食べ終えてからは、のんびりと。先輩が、おいでと招いてくれた膝の上で俺は寛いでいた。
最近、定番になってきた寛ぎのひと時。特に何を話すでもないが、俺にとっては極上のひと時だ。だって、全身で先輩を感じることが出来るのだ。
後ろから俺の身体をすぽりと抱き締めてもらえて、相変わらず素晴らしい肉感の雄っぱいに頭を預けて。更には、頭や頬を撫でてもらえたり、手を繋いでくれたり。
これ以上の幸せな時間があるだろうか? いや、ないな。
爽やかなシャボンの香りと温もりに包まれながら、恋人の特権を噛み締めていた時、ふと先輩の手が止まった。
ズボンのポケットを探っているのだろうか。俺を乗せたまま、何やらもぞもぞと鍛え抜かれた身体を捩っている。
ほどなくして先輩が取り出したのは端末だった。太い指が、どこか覚束ない動きで画面をつついている。
誰からか、連絡でも入ったのだろうか。先輩、よく剣術部の顧問の先生と打ち合わせがあったりするし、それでなくても部員の皆からの相談にのってたりするもんなぁ。
恋人として誇らしくはあれど、折角の二人っきりの時間なのになと、我儘な寂しさが滲み出てきてしまう。
けれども俺の予想は全く外れていた。
「……なぁ、シュン……よかったら明日の休み、ここに出掛けないか?」
「分かった、ちょっと待っていてくれ」
先輩が手に取ったのはフィナンシェ。プラスチックの包装を手早く開けて、黄金色の長方形が丁度半分出るように包みをずらしていく。
そうして、俺の口元へと差し出してきた。甘さを含んだバターの匂いが、ふわりと鼻を擽ってくる。
「ほら、シュン」
まさか、食べさせてくれるなんて。てっきりその飛び出した部分を折るなりして、手渡してくれるもんかと。
思いがけない嬉しい展開に、また固まってしまっていたせいだ。微笑んでいた瞳が、不思議そうに瞬いた。
「……ん? どうしたんだ? 遠慮しないで、かぶりついていいんだぞ?」
「は、はい……いただきます……」
「ああ、どうぞ」
かぶりついてと言われたからか、先輩からのあーんに応えなければと焦っていたからか、俺は大口開けて食べてしまっていた。
あらかじめ先輩が出してくれていたから半分を少し過ぎただけで済んだものの、普通に丸ごと食べてしまえるほどの大きな一口だった。
「ん……ご、ごめんなひゃ」
「はは、気持ちの良い食べっぷりだな。美味しいか?」
「っ……お、美味しいでふ」
多分。だって、味なんか分かりやしない。
大きな手のひらに頭を撫でてもらいながら「可愛いな」って褒めてもらえて、身体の感覚が全部先輩の方へと集中してしまったんだから。
見惚れていた無邪気な笑顔が、照れくさそうな顔へと変わっていく。遠慮がちに俺に残りのフィナンシェを差し出しながら、先輩は長い睫毛を伏せた。
「そうか、良かった……じゃあ、今度は……その、君にしてもらってもいいだろうか?」
ギャップがズルい。さっきはあんなに自然にやってのけたくせに。
「っ……やらせていただきます」
「ありがとう」
胸の辺りがきゅんきゅん締めつけられながらも何とか応えれば、彫りの深い顔がぱぁっと明るくなっていく。
俺が差し出したフィナンシェを先輩は、それは美味しそうに、嬉しそうに完食した。続けてバームクーヘンも同じ流れで楽しんだのだが、やっぱり俺には甘いなってことくらいしか分からなかった。
焼き菓子を食べ終えてからは、のんびりと。先輩が、おいでと招いてくれた膝の上で俺は寛いでいた。
最近、定番になってきた寛ぎのひと時。特に何を話すでもないが、俺にとっては極上のひと時だ。だって、全身で先輩を感じることが出来るのだ。
後ろから俺の身体をすぽりと抱き締めてもらえて、相変わらず素晴らしい肉感の雄っぱいに頭を預けて。更には、頭や頬を撫でてもらえたり、手を繋いでくれたり。
これ以上の幸せな時間があるだろうか? いや、ないな。
爽やかなシャボンの香りと温もりに包まれながら、恋人の特権を噛み締めていた時、ふと先輩の手が止まった。
ズボンのポケットを探っているのだろうか。俺を乗せたまま、何やらもぞもぞと鍛え抜かれた身体を捩っている。
ほどなくして先輩が取り出したのは端末だった。太い指が、どこか覚束ない動きで画面をつついている。
誰からか、連絡でも入ったのだろうか。先輩、よく剣術部の顧問の先生と打ち合わせがあったりするし、それでなくても部員の皆からの相談にのってたりするもんなぁ。
恋人として誇らしくはあれど、折角の二人っきりの時間なのになと、我儘な寂しさが滲み出てきてしまう。
けれども俺の予想は全く外れていた。
「……なぁ、シュン……よかったら明日の休み、ここに出掛けないか?」
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