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マッチョな先輩と恋人同士になった件(サルファールート)

★ 言わせたくせに、照れるなんて

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 二人して全速力で走った後のような。

 冷たく新鮮な空気を求めて繰り返す荒い呼吸、ちょっぴり心配になるくらいに全身に響き続けている鼓動。それらが平常運転に戻るまで、さほど時間はかからなかった。

 ただ、他は色々と残ってしまっているけど。

 熱を持った全身に広がっている甘い感覚だったり、気怠さだったり……背中や腹周りに纏わりついている、汗やら何やらの気持ち悪さだったり。

「……先輩」

「……どうした?」

「……シャワー、浴びません?」

「……賛成だ」

 先輩は、俺の提案に頷いてから善は急げと言わんばかりに身体を起こした。俺が巻いていて、今はベッドの隅でくしゃくしゃになっていたバスタオルで、俺の身体を拭ってくれる。

「ありがとうございます」

「ああ」

 短く答えて、微笑んで。続いて自身の身体も、タオルを裏返してから手早く拭っていく。

 先輩の隆起した腹筋を汚していた、汗以外のねっとりとした液体。混ざり合った俺達のものを一瞬見てしまい、何だか複雑な気分になる。

 気恥ずかしいのは勿論だ。でも、それ以上に嬉しいというか、幸せというか。前者はまだしも後者は、とてもじゃないが自分が放った欲の残滓に対して抱くような感情ではない。

 ……先輩とだから、だろうな……初めて、先輩と一緒にイけたから……

「シュン……?」

「ひゃいっ」

 また頭の中が先輩一色になっていたからだ。そのご本人様に名前を呼ばれて、声がひっくり返ってしまった。

 もしかして、ずっと呼びかけてくれていたんだろうか。先輩は、凛々しい眉を下げて心配そうに俺の手を握ってくれた。

「大丈夫か? ぼうっとして……やはり君に無理をさせて……」

「ち、違うんですっ、思い出しちゃってて……あっ」

 先輩に寂しい思いをさせてはならない。その思いが過ったからだ。うっかり口を滑らせてしまっていた。

 流石の先輩も勘づいたんだろう。沈みかけていた表情にたちまち喜びが滲んでいく。

「……何を思い出していたんだ?」

 鍛え上げられた筋肉で盛り上がった腕が俺の腰に回された。

 抱き寄せられて、頬に添えられた手によって俯きかけていた顔も合わされて、俺は完全に逃げ場をなくしてしまった。こうなりゃヤケだ。

「……嬉しいなって……まだ抱いてもらえた訳じゃないけど……初めて先輩と一緒に出来たから……」

 言わせたくせに、先輩は照れたらしかった。

 顔を真っ赤にして、瞳を忙しなく泳がせて。勢いよく俺の肩口に額を押しつけてきたかと思えば、ぎゅうぎゅう抱き締めてくれたのだ。

 たちまち俺の胸もきゅっと締めつけられた。込み上げてきたのだ。小刻みに震えている頼もしい肩を見てしまって、触れ合っている体温から早い鼓動が伝わってしまって。

 こういうところなんだよな……どんなワンシーンを切り取ってもカッコいいしか見当たらないのにさ。

「……先輩は、どうだったんですか? どう思ってくれました?」

 おずおずと見せてくれた顔は真っ赤っ赤で、重なった額は熱かった。

「……嬉しかったよ……とても、満ち足りた気分だった……さっきも……今も……」

 蕩けるような微笑みに近づこうとして阻まれた。擦り寄ろうとしていた口が、分厚い手のひらに触れる。

 ……寂しい。本気で嫌がってるんじゃないって分かってはいるけれど。

 酷く慌てたように先輩は、俺の手を取った。宥めるように指の腹で手の甲を撫でてくれた。

「す、済まない……俺も君とキスしたいのは山々なんだが、今してしまうと……その、シャワーを浴びれなくなるだろう?」

 理由は分かるが拒まれたのは事実だ。これくらい聞いてもいいだろう。

「……また、俺に触りたいって思ってくれるからですか?」

 少し拗ねた気持ちだった。モヤモヤしていた。でも返ってきた先輩の反応が、それらを容易く消し去ってしまった。

「…………ああ」

 これ以上はないってくらいに首まで朱に染めて、消え入りそうな声で小さく頷く。

 でも、俺をちらりと見つめた瞳には、確かな熱が宿っていた。俺を求めてくれるあの熱が。

 じゃあ、いいか。仕方がないな。あっさりそういうスイッチが入っちゃうくらいに、先輩が俺のことを思ってくれているのなら。

「ふふ、じゃあ……ベッドに戻ってからならいいですか? キス、いっぱいしても」

「……俺の理性がもつ程度なら」

「善処します」

 キスはダメでも、抱っこは大丈夫らしい。ベッドから降りようとしたら「まだ身体がキツいだろう? 遠慮しないでくれ」と浴室までの運び役を買って出てくれた。

 因みに、お風呂には一緒に入ってくれるのに、あんなに見ただろう全裸もNGらしく、俺の下半身にはしっかりとタオルが巻かれた。曰く「つい、手を出したくなりそうでな……」とのこと。

 俺は、出してもいいですよ、と喉まで出かかっていたが我慢した。
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