上 下
192 / 442
マッチョな先輩と恋人同士になった件(サルファールート)

賑やかな三人組

しおりを挟む
 タトゥーの男が、ピアスの男に向かって非難するような眼差しを向ける。

「だから言ったじゃないですかぁ……このこ一途そうだから無理だって」

「彼氏さんとラブラブでしたもんねー」

「お前らだって、声かけるまでは分からないって言ってただろ!」

 責任をなすりつけるように、言い合いを始めた三人。すっかり俺は蚊帳の外になっていた。

 呆気にとられたままことの成り行きを見つめていると、坊主頭の男と目が合う。途端に申し訳無さそうに眉を八の字にして、俺に頭を下げてきた。

「さっきはごめんね……大切な彼氏さんのこと……悪く言っちゃって……腕、大丈夫? 痛くない?」

「……え? あ、大丈夫です。俺もムキになっちゃってごめんなさい」

「いいよ、謝んなくて。俺らが全面的に悪いんだし。実は……俺ら絶賛連敗中でさ、君でめでたく八連敗目なんだけど」

 八連敗……成る程。それじゃあ、俺に声をかけてきたのも納得だ。どうにかして成果を上げたかったんだろう。

 だったら、もう解放してもらえるかな……と安心したのも束の間だった。

「良かったら、彼氏さんのどういう所に惚れたとか教えてもらってもいい? 彼氏さんが戻ってきたら、すぐに退散するからさ」

「え?」

「真似したら、君みたいな可愛い恋人出来るかもだし……どうか俺達を救うと思ってお願いします!」

「へ?」

「お願いします!!」

 深々と頭を下げられ、拝み倒されて。さらには、今にも泣いてしまいそうな眼差しを向けられて。

「……じゃあ……ちょっとだけなら……」

 俺は押し負けてしまった。ガッツポーズをして、歓喜に湧く男達に、サルファー先輩を意識するようになった切っ掛けを、かいつまんで話すことにした。



 元々、憧れの先輩であったこと。三年生との合同行事でペアで登山をすることになったこと。その道中で魔獣に遭遇し、命懸けで俺のことを守ってくれたこと。

 そこまで話し終えたところで、俺が座っているベンチをヤンキー座りで囲んでいる彼らが、次々に口を開いた。

「命の恩人かー……そりゃ惚れるわ」

「身を挺して魔獣から君を守るなんて、彼氏さん格好いいなぁ!」

「ぐすっ……二人とも、無事で、良かったねぇ……」

 坊主頭の男が納得したようにうんうんと頷く横で、ピアスの男が無邪気に瞳を輝かせる。タトゥーの男が鼻水を垂らしながら涙ぐんでいる。

「……あ、ありがとうございます……」

 照れくさいやら、嬉しいやら。

 聞き上手で、リアクションの良い彼らに、つい放課後の決闘の件まで話しそうになっていた時だ。

「おい貴様ら……俺のシュンに何をしている……」

 地を這うような低い声に、並々ならぬ怒りを滲ませて。カッコいい顔にいくつものシワが出来るほど、額に血管が浮かび上がるほどの険しい表情で、鋭く睨みをきかせた先輩が戻ってきたのは。

 骨ばってゴツゴツした両手に持った、プラスチックの容器がギチギチと悲鳴を上げている。

 今にも潰れてしまいそう。なんなら、刺さっているストローからレモネードが噴き出してきそう。

 お怒りは、ごもっともだ。なんせ俺は今、いかにもな、ヤンチャな格好をした方達に囲まれているのだ。

 事情を知らない先輩からしたら、俺が脅されているようにしか見えないだろう。早く誤解を解かなければ。

「ま、待って下さいサルファー先輩っ、この人達は」

「彼氏さん! 近くで見ると凄い筋肉ですね!」

「どう鍛えたら、そんな風にカッコよくなれるんですか!?」

「俺達でも、彼氏さんみたいに強くなれますか!?」

 事情を説明するよりも早く立ち上がった男達が、怒りを露にする先輩に臆することなく群がっていく。

「は……? な、っ……しゅ、シュン?」

 眩しい笑顔と尊敬の眼差しを向ける彼等に困惑した先輩が、助けを求めるような目で俺を見つめてくる。俺は苦笑しながら彼らを宥めつつ、先輩にこれまでの経緯を話した。



「デートの邪魔してごめんね」

「ありがとう、参考になったよ」

「彼氏さんと末永くお幸せにねぇ」

 手を振りながら笑顔で去っていく男達に手を振り返していると、先輩が重いため息を吐いた。

「何というか、賑やかな連中だったな……」

「ですね」

「すまない……俺の不注意で、君を危険な目に合わせるところだった……」

 先輩は形の良い眉を下げながら、少し凹んだレモネードを俺に手渡してくれた。空いた分厚い手のひらが俺の頬を労るように撫でてくれる。

「最初はビックリしましたけど、いい人達でしたよ?」

「彼らのような人ばかりではないだろう? これからは、絶対に君を一人にしないから」

 不意に先輩は、その大きな背を曲げたかと思えば跪き、俺の手を取った。まるで誓うように手の甲に唇を寄せて、ニコリと微笑む。

 大きく跳ねた心臓が飛び出てしまいそう。頬がだらしなく緩んでしまいそう。

「はい……ありがとう、ございます……よろしくお願いします……」

「ああ、任せてくれ」

 俺の隣に座り直した先輩と一緒にレモネードに口をつける。甘酸っぱい味が口に広がった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

少年野球で知り合ってやけに懐いてきた後輩のあえぎ声が頭から離れない

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
少年野球で知り合い、やたら懐いてきた後輩がいた。 ある日、彼にちょっとしたイタズラをした。何気なく出したちょっかいだった。 だがそのときに発せられたあえぎ声が頭から離れなくなり、俺の行為はどんどんエスカレートしていく。

おねしょ癖のせいで恋人のお泊まりを避け続けて不信感持たれて喧嘩しちゃう話

こじらせた処女
BL
 網谷凛(あみやりん)には付き合って半年の恋人がいるにもかかわらず、一度もお泊まりをしたことがない。それは彼自身の悩み、おねしょをしてしまうことだった。  ある日の会社帰り、急な大雨で網谷の乗る電車が止まり、帰れなくなってしまう。どうしようかと悩んでいたところに、彼氏である市川由希(いちかわゆき)に鉢合わせる。泊まって行くことを強く勧められてしまい…?

友達が僕の股間を枕にしてくるので困る

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
僕の股間枕、キンタマクラ。なんか人をダメにする枕で気持ちいいらしい。

バイト先のお客さんに電車で痴漢され続けてたDDの話

ルシーアンナ
BL
イケメンなのに痴漢常習な攻めと、戸惑いながらも無抵抗な受け。 大学生×大学生

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

反抗期真っ只中のヤンキー中学生君が、トイレのない課外授業でお漏らしするよ

こじらせた処女
BL
 3時間目のホームルームが学校外だということを聞いていなかった矢場健。2時間目の数学の延長で休み時間も爆睡をかまし、終わり側担任の斉藤に叩き起こされる形で公園に連れてこられてしまう。トイレに行きたかった(それもかなり)彼は、バックれるフリをして案内板に行き、トイレの場所を探すも、見つからず…?

エレベーターで一緒になった男の子がやけにモジモジしているので

こじらせた処女
BL
 大学生になり、一人暮らしを始めた荒井は、今日も今日とて買い物を済ませて、下宿先のエレベーターを待っていた。そこに偶然居合わせた中学生になりたての男の子。やけにソワソワしていて、我慢しているというのは明白だった。  とてつもなく短いエレベーターの移動時間に繰り広げられる、激しいおしっこダンス。果たして彼は間に合うのだろうか…

処理中です...