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マッチョな先輩と恋人同士になった件(サルファールート)
賑やかな三人組
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タトゥーの男が、ピアスの男に向かって非難するような眼差しを向ける。
「だから言ったじゃないですかぁ……このこ一途そうだから無理だって」
「彼氏さんとラブラブでしたもんねー」
「お前らだって、声かけるまでは分からないって言ってただろ!」
責任をなすりつけるように、言い合いを始めた三人。すっかり俺は蚊帳の外になっていた。
呆気にとられたままことの成り行きを見つめていると、坊主頭の男と目が合う。途端に申し訳無さそうに眉を八の字にして、俺に頭を下げてきた。
「さっきはごめんね……大切な彼氏さんのこと……悪く言っちゃって……腕、大丈夫? 痛くない?」
「……え? あ、大丈夫です。俺もムキになっちゃってごめんなさい」
「いいよ、謝んなくて。俺らが全面的に悪いんだし。実は……俺ら絶賛連敗中でさ、君でめでたく八連敗目なんだけど」
八連敗……成る程。それじゃあ、俺に声をかけてきたのも納得だ。どうにかして成果を上げたかったんだろう。
だったら、もう解放してもらえるかな……と安心したのも束の間だった。
「良かったら、彼氏さんのどういう所に惚れたとか教えてもらってもいい? 彼氏さんが戻ってきたら、すぐに退散するからさ」
「え?」
「真似したら、君みたいな可愛い恋人出来るかもだし……どうか俺達を救うと思ってお願いします!」
「へ?」
「お願いします!!」
深々と頭を下げられ、拝み倒されて。さらには、今にも泣いてしまいそうな眼差しを向けられて。
「……じゃあ……ちょっとだけなら……」
俺は押し負けてしまった。ガッツポーズをして、歓喜に湧く男達に、サルファー先輩を意識するようになった切っ掛けを、かいつまんで話すことにした。
元々、憧れの先輩であったこと。三年生との合同行事でペアで登山をすることになったこと。その道中で魔獣に遭遇し、命懸けで俺のことを守ってくれたこと。
そこまで話し終えたところで、俺が座っているベンチをヤンキー座りで囲んでいる彼らが、次々に口を開いた。
「命の恩人かー……そりゃ惚れるわ」
「身を挺して魔獣から君を守るなんて、彼氏さん格好いいなぁ!」
「ぐすっ……二人とも、無事で、良かったねぇ……」
坊主頭の男が納得したようにうんうんと頷く横で、ピアスの男が無邪気に瞳を輝かせる。タトゥーの男が鼻水を垂らしながら涙ぐんでいる。
「……あ、ありがとうございます……」
照れくさいやら、嬉しいやら。
聞き上手で、リアクションの良い彼らに、つい放課後の決闘の件まで話しそうになっていた時だ。
「おい貴様ら……俺のシュンに何をしている……」
地を這うような低い声に、並々ならぬ怒りを滲ませて。カッコいい顔にいくつものシワが出来るほど、額に血管が浮かび上がるほどの険しい表情で、鋭く睨みをきかせた先輩が戻ってきたのは。
骨ばってゴツゴツした両手に持った、プラスチックの容器がギチギチと悲鳴を上げている。
今にも潰れてしまいそう。なんなら、刺さっているストローからレモネードが噴き出してきそう。
お怒りは、ごもっともだ。なんせ俺は今、いかにもな、ヤンチャな格好をした方達に囲まれているのだ。
事情を知らない先輩からしたら、俺が脅されているようにしか見えないだろう。早く誤解を解かなければ。
「ま、待って下さいサルファー先輩っ、この人達は」
「彼氏さん! 近くで見ると凄い筋肉ですね!」
「どう鍛えたら、そんな風にカッコよくなれるんですか!?」
「俺達でも、彼氏さんみたいに強くなれますか!?」
事情を説明するよりも早く立ち上がった男達が、怒りを露にする先輩に臆することなく群がっていく。
「は……? な、っ……しゅ、シュン?」
眩しい笑顔と尊敬の眼差しを向ける彼等に困惑した先輩が、助けを求めるような目で俺を見つめてくる。俺は苦笑しながら彼らを宥めつつ、先輩にこれまでの経緯を話した。
「デートの邪魔してごめんね」
「ありがとう、参考になったよ」
「彼氏さんと末永くお幸せにねぇ」
手を振りながら笑顔で去っていく男達に手を振り返していると、先輩が重いため息を吐いた。
「何というか、賑やかな連中だったな……」
「ですね」
「すまない……俺の不注意で、君を危険な目に合わせるところだった……」
先輩は形の良い眉を下げながら、少し凹んだレモネードを俺に手渡してくれた。空いた分厚い手のひらが俺の頬を労るように撫でてくれる。
「最初はビックリしましたけど、いい人達でしたよ?」
「彼らのような人ばかりではないだろう? これからは、絶対に君を一人にしないから」
不意に先輩は、その大きな背を曲げたかと思えば跪き、俺の手を取った。まるで誓うように手の甲に唇を寄せて、ニコリと微笑む。
大きく跳ねた心臓が飛び出てしまいそう。頬がだらしなく緩んでしまいそう。
「はい……ありがとう、ございます……よろしくお願いします……」
「ああ、任せてくれ」
俺の隣に座り直した先輩と一緒にレモネードに口をつける。甘酸っぱい味が口に広がった。
「だから言ったじゃないですかぁ……このこ一途そうだから無理だって」
「彼氏さんとラブラブでしたもんねー」
「お前らだって、声かけるまでは分からないって言ってただろ!」
責任をなすりつけるように、言い合いを始めた三人。すっかり俺は蚊帳の外になっていた。
呆気にとられたままことの成り行きを見つめていると、坊主頭の男と目が合う。途端に申し訳無さそうに眉を八の字にして、俺に頭を下げてきた。
「さっきはごめんね……大切な彼氏さんのこと……悪く言っちゃって……腕、大丈夫? 痛くない?」
「……え? あ、大丈夫です。俺もムキになっちゃってごめんなさい」
「いいよ、謝んなくて。俺らが全面的に悪いんだし。実は……俺ら絶賛連敗中でさ、君でめでたく八連敗目なんだけど」
八連敗……成る程。それじゃあ、俺に声をかけてきたのも納得だ。どうにかして成果を上げたかったんだろう。
だったら、もう解放してもらえるかな……と安心したのも束の間だった。
「良かったら、彼氏さんのどういう所に惚れたとか教えてもらってもいい? 彼氏さんが戻ってきたら、すぐに退散するからさ」
「え?」
「真似したら、君みたいな可愛い恋人出来るかもだし……どうか俺達を救うと思ってお願いします!」
「へ?」
「お願いします!!」
深々と頭を下げられ、拝み倒されて。さらには、今にも泣いてしまいそうな眼差しを向けられて。
「……じゃあ……ちょっとだけなら……」
俺は押し負けてしまった。ガッツポーズをして、歓喜に湧く男達に、サルファー先輩を意識するようになった切っ掛けを、かいつまんで話すことにした。
元々、憧れの先輩であったこと。三年生との合同行事でペアで登山をすることになったこと。その道中で魔獣に遭遇し、命懸けで俺のことを守ってくれたこと。
そこまで話し終えたところで、俺が座っているベンチをヤンキー座りで囲んでいる彼らが、次々に口を開いた。
「命の恩人かー……そりゃ惚れるわ」
「身を挺して魔獣から君を守るなんて、彼氏さん格好いいなぁ!」
「ぐすっ……二人とも、無事で、良かったねぇ……」
坊主頭の男が納得したようにうんうんと頷く横で、ピアスの男が無邪気に瞳を輝かせる。タトゥーの男が鼻水を垂らしながら涙ぐんでいる。
「……あ、ありがとうございます……」
照れくさいやら、嬉しいやら。
聞き上手で、リアクションの良い彼らに、つい放課後の決闘の件まで話しそうになっていた時だ。
「おい貴様ら……俺のシュンに何をしている……」
地を這うような低い声に、並々ならぬ怒りを滲ませて。カッコいい顔にいくつものシワが出来るほど、額に血管が浮かび上がるほどの険しい表情で、鋭く睨みをきかせた先輩が戻ってきたのは。
骨ばってゴツゴツした両手に持った、プラスチックの容器がギチギチと悲鳴を上げている。
今にも潰れてしまいそう。なんなら、刺さっているストローからレモネードが噴き出してきそう。
お怒りは、ごもっともだ。なんせ俺は今、いかにもな、ヤンチャな格好をした方達に囲まれているのだ。
事情を知らない先輩からしたら、俺が脅されているようにしか見えないだろう。早く誤解を解かなければ。
「ま、待って下さいサルファー先輩っ、この人達は」
「彼氏さん! 近くで見ると凄い筋肉ですね!」
「どう鍛えたら、そんな風にカッコよくなれるんですか!?」
「俺達でも、彼氏さんみたいに強くなれますか!?」
事情を説明するよりも早く立ち上がった男達が、怒りを露にする先輩に臆することなく群がっていく。
「は……? な、っ……しゅ、シュン?」
眩しい笑顔と尊敬の眼差しを向ける彼等に困惑した先輩が、助けを求めるような目で俺を見つめてくる。俺は苦笑しながら彼らを宥めつつ、先輩にこれまでの経緯を話した。
「デートの邪魔してごめんね」
「ありがとう、参考になったよ」
「彼氏さんと末永くお幸せにねぇ」
手を振りながら笑顔で去っていく男達に手を振り返していると、先輩が重いため息を吐いた。
「何というか、賑やかな連中だったな……」
「ですね」
「すまない……俺の不注意で、君を危険な目に合わせるところだった……」
先輩は形の良い眉を下げながら、少し凹んだレモネードを俺に手渡してくれた。空いた分厚い手のひらが俺の頬を労るように撫でてくれる。
「最初はビックリしましたけど、いい人達でしたよ?」
「彼らのような人ばかりではないだろう? これからは、絶対に君を一人にしないから」
不意に先輩は、その大きな背を曲げたかと思えば跪き、俺の手を取った。まるで誓うように手の甲に唇を寄せて、ニコリと微笑む。
大きく跳ねた心臓が飛び出てしまいそう。頬がだらしなく緩んでしまいそう。
「はい……ありがとう、ございます……よろしくお願いします……」
「ああ、任せてくれ」
俺の隣に座り直した先輩と一緒にレモネードに口をつける。甘酸っぱい味が口に広がった。
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