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マッチョな先輩と恋人同士になった件(サルファールート)

思わぬお返し

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 恋人つなぎのまま、部屋を後にした俺達は、先輩の部屋がある三年生の寮へと向かった。

 程なくして辿り着いた建物も、お邪魔させてもらった部屋の間取りも、俺が住んでいるものとさほど変わりはない。

 先輩の部屋はシンプルだった。

 普段からトレーニングを欠かさないのだろう。ダンベルや腹筋ローラーにヨガマットなど、筋トレ用のグッズが、広めに取られたスペースの隅に並べられている。

 窓際の棚には、いくつものトロフィーや盾、メダルも飾られていた。多分、剣術の大会でソレイユ先輩と共に、または一人で勝ち取ったものだろう。

 きっと大事にしているに違いない。なんせ金や銀の光沢を帯びたそれらは、どれもピカピカ。くすんでもなければ、傷一つありはしない。手入れを欠かしていないことが窺える。

 でも、特筆すべきところはそれくらい。他に目が止まるようなものはない。後は生活に必要な家電やベッドくらいなのだ。

 彼のストイックさが垣間見えるというか。寝て起きて、鍛える為だけの部屋というか。

 ……サルファー先輩にとっては……趣味とか生きがいが、剣術なんだろうな。

「適当に座っていてくれ。俺は、向こうで着替えてくるから……」

「あ、はい」

 俺が興味津々で室内を眺めている内に、先輩はお目当ての服をクローゼットから取り出していたらしかった。俺に一言告げてから、そそくさと洗面所の方へと向かってしまった。

 急にぽつんと残されて、ようやく気づく。

 ……そう言えば、先輩の部屋に来たのって……初めてじゃないか?

 そう。先輩に服を褒められて、ほんのさっきまでずっと手を繋いでもらっていて。あまりにも浮かれていたからだ。どこか緊張気味だった先輩から「片付いてはいるんだが……」と招かれるまま、普通にお邪魔してしまっていたのだ。

 自覚した途端、胸の鼓動が煩くなる。落ち着かない。

 ……なんか、色んなところから先輩を感じる気が……

「……シュン? どうしたんだ? ぼうっと突っ立って……」

「どわっ」

 意識しまくっていた人の声が聞こえて、反射的に俺は飛び退きながら振り向いていた。

 そんなもんだから、視界に飛び込んできた先輩の姿に対して浮かんだ感想が、口をついて出てしまっていた。

「……カッコいい……好き……」

 驚いたように見開かれていた黄色の瞳が、照れくさそうに細められる。下ろしていた前髪を後ろに緩く撫でつけた先輩の格好は、やはり爽やかという単語が一番似合っている気がした。

 鍛え抜かれた筋肉によって盛り上がった豊満な谷間が、Vネックの白いシャツからチラリと覗いている。その上に、濃いデニム生地のジャケットを羽織り、ベージュのパンツを合わせている。

 俺には、お洒落のセンスはない。類まれなる語彙力もない。その結果がさっきの単純過ぎる感想だった。それでも、先輩は喜んでくれたらしい。

「そ、そうか……気に入ってもらえて嬉しいよ……」

 太い指でほんのり染まった頬を掻きながら、形の良い唇をふにゃりと綻ばせている。

「はいっ! 目茶苦茶カッコいいです!」

「ははっ、とても嬉しいけれど……照れるなぁ……」

 困ったように片眉を下げて笑いながらも、先輩は通常運転だ。

 引き締まった首も赤く染めて「可愛い顔を真っ赤にしていた君の気持ちが分かったよ」と言ってきたのだから。

「っ……自分ばっかり照れるのはイヤだからって、俺まで照れさせようってつもりですか?」

「……ん? 照れてるのか? シュンはいつも可愛くて魅力的だから、そう言っただけなんだが……」

 しまった。どうやら先程のお返しをされていたらしい。

 楽しそうに瞳を細める先輩は、上手くいったと言わんばかり。ますます顔に熱が集まった俺の手を取り、反対の手で可愛がるように手の甲を撫でてくる。

「うー……もう、出かけましょう? 遅くなっちゃいますから……」

 このままじゃあダメだ。楽しみにしていたハズのデートをそっちのけにして、先輩とただただのんびり、くっついて過ごしたくなってしまう。

 はたと瞬かせていた瞳を細め、先輩が微笑む。

「そうだな。このままだと、君を抱き締めたまま離したくなくなってしまう。せっかくの君とのデートなのにな」

 ……ホントにこの人は。

「……そういうこと、平然と言わないで下さい」

 照れを隠そうとしたばかりに、拗ねたような言い方をしてしまった。けれども先輩は、俺の態度に何か言うでもなく、優しい眼差しを向けてくれる。

 穏やかな声色で言葉を紡ぎながら、俺の手を撫でてくれる。

「すまないが……無理だな。俺が君にはっきりと気持ちを伝えなかったせいで、君を傷つけてしまった……もう、愛しい君に悲しい思いをさせたくはないんだ……」

「……もー……そんな嬉しいこと言われちゃったら……何も言えないじゃないですか……」

 大きな手を握り返した俺を見て、また先輩は嬉しそうに唇を綻ばせた。さらには額にキスまで送ってくれたのだ。
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