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マッチョな先輩と恋人同士になった件(サルファールート)

押し倒し作戦、一応成功?

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 天井を背景に、サルファー先輩が俺を見下ろしている。俺の顔の横に片手をついて、俺の身体を膝立ちで跨いで、俺に覆い被さっている。

 ああ、ホントに俺、押し倒されたんだ。好きな人から。

「っ…………」

 こういうことをされるのは嫌かって? 嫌じゃないに決まっている!

 だって、俺のことを押し倒してくれたってことはさ、先輩も俺とキス以上のこと……したいって思ってくれてるってことだろう? ことだよな?

 目も眩むような喜びに、喉が詰まって言葉が出ない。身体も小刻みに震わせてしまったからだろうか。俺の言葉を待つ先輩の、鼻筋の通った顔に心配の色が滲んでいく。

 俺が何とか声を振り絞ろうと、嫌じゃないですと伝えようとした矢先、先輩は思い出したかのように瞳を瞬かせた。

 押し倒してくれた際に支えてくれていた手を、いまだに俺の背中とカーペットに挟まれている手を、ゆっくり抜き取る。そっと俺を抱き起こし、膝の上に抱えてくれる。

 優しく手を握ってくれた。少し固い親指の腹が、俺の手の甲を撫でてくれる。

「すまない……驚かせてしまったよな? 俺は、どうも衝動的に行動しやすいようでな、特に……その、君相手だと、な……」

 気恥ずかしそうに先輩は瞳を伏せた。真っ赤っ赤だ。頬どころか、耳の先まで。いや、引き締まった首にまで到達しそう。

 それでも先輩は、胸の内を教えてくれる。俺の手を握ってくれながら。俺の頭を撫でてくれながら。

「先程も……君が、あんまりにも嬉しいことを言ってくれたから……改めて、強く思ったんだ……君が好きだと、君を欲しいと……」

 俺も応えたいのに、また喉が詰まってしまう。真っ直ぐで、熱い言葉に貫かれて。

 震える俺に何を思ったのか、先輩は慌てたように言葉を重ねる。

「っあ、だ、だが……その前から、ずっと嬉しくて、浮かれてはいたんだぞ? ……君が、俺に……可愛いこと、ばかり……お願いしてくれたから……」

「……じゃあ、いいんですか?」

 反射的に俺は尋ねていた。

「イヤじゃないんですか? 先輩にずっとくっついても、手を握っていても」

 どうしても知りたかったのだ。ちゃんと言葉で聞きたかったのだ。俺の精一杯のアプローチに、先輩は喜んでくれていたのかを。

「っ……」

 繋いでいる手に力がこもる。黄色の瞳が、真っ直ぐに俺を見つめた。

「ああ、嫌じゃない。むしろ、ずっと側に居て欲しい。出来ることならば、片時も君と離れたくないんだ」

「先輩……」

 俺も伝えないと。俺の好きなことを、先輩にしてもらえて嬉しかったことを。

「俺も、さっきのイヤじゃなかったです。先輩にキスしてもらえて、俺のこと……お、押し倒してくれて……スゴく、嬉しかったです……」

「ほ、本当か?」

 俺を見つめる瞳が見開いて、輝いて、細められる。形の良い唇から、小さな吐息と共に「……良かった」と小さな呟きが漏れた。

「だから……もう一つ、お願いしてもいいですか?」

「ああ、一つと言わずにいくらでも構わないぞ。可愛い君のお願いなんだからな」

「先輩……ありがとうございます」

 軽く息を吸って、吐いて。震える拳を握り締める。

 柔らかく微笑んで俺を見下ろす先輩。その眼差しから逃げずに見つめて、口を開いた。

「……俺のこと、先輩の……好きに、してくれませんか?」

 瞬間、先輩の顔がますます真っ赤になったかと思うと掻き抱かれるように、俺は再びカーペットに背を押さえつけられた。

 また、先輩が押し倒してくれている。ってことは、オッケーってことで良いんだよな?

 頭の中がふわふわする。顔がだらしなく緩んでしまうのを抑えられない。

 俺にのしかかったまま動かない、筋肉質な長身。その頼もしく、広い背中に腕を回そうとしてようやくだった。俺が事の異常に気がついたのは。

「……先輩? 先輩!?」

 顔を覗き込めば、先輩は固く目を閉じ、表情を歪め、ぐったりとしていた。

 息はしている。けれども、何度声をかけようが、頬を撫で擦ろうが、軽く肩を叩こうが、返事はない。目も覚まさない。

 押し倒してくれたんじゃない。倒れたんだ。多分、俺のせいで。



 氷の詰まったビニール袋を額に当てながら、申し訳なさそうに肩を落とす先輩に、冷たい水の入ったグラスを手渡す。

「大丈夫ですか? 先輩」

「すまない、本当にすまない……決して嫌じゃなかった、嬉しかったんだ……むしろ嬉し過ぎて……」

「ふふ、分かってますよ……だから、もう気にしないで下さい」

 目を覚ましてから先輩はずっとこの調子。俺に謝り続けている。俺に言われて嬉しかったんだと何度も伝えてくれている。

 俺の力では、先輩をベッドへ運ぶことは出来なかった。せめて仰向けに寝かせることしか。

 冷やした方がいいだろうかと、水や氷を準備している内に、無事先輩は目を覚ましてくれた。今度は安心した俺の方が、うっかり倒れそうになっちゃったけど。

 一気に水を飲み干した先輩にお代わりを尋ねる。先輩は「ありがとう、もう大丈夫だ」と微笑みかけてくれたが、すぐにまた大きな溜め息を吐きながら肩を落としてしまった。

 俺は、出来るだけ優しい声で先輩に話しかけた。

「俺の方こそすみません、びっくりさせちゃって……慌てずに俺達のペースで、ゆっくりやっていきましょう?」

「……そうだな、よろしく頼む」

 へにゃりと頬を緩める先輩が、愛おしくて堪らない。気がつけば俺は、ゴツゴツとしたカッコいい手に手を伸ばしていた。

 先輩は気づいてくれた。伸ばしていた手を握ってくれただけじゃない。俺の肩を抱き寄せてくれたんだ。
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