気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件~恋人ルート~

白井のわ

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マッチョな先輩と恋人同士になった件(サルファールート)

いざ、作戦会議! リミットは一時間 サイドB

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 ソルが差し出してきた俺の端末。その画面に表示された、シュンからの『はいっ分かりました、待ってます』という好意的な返信に肩の力が抜けていく。

 だが、息をつく時間は俺にはなさそうだ。

「とにかく、一時間は稼いだから。今から作戦会議するよ」

「あ、ああ、よろしく頼む」

 無意識の内に背筋を伸ばし、正座をしていた俺に、ソルが真剣な眼差しを向ける。

「自分から部屋に誘ってくれたり、抱きついてくれたり……今までのシュンちゃんの態度的には好感触だとは思う」

「ああ」

「だから、キスした後に優しく押し倒しちゃいなよ」

「ああ…………はぁっ!?」

 押し倒す……だと? 俺が? シュンを? 

「勿論、ちゃんと怖がらせないようにフォローするんだよ?」

 ソルは「当たり前じゃない」みたいな顔をしているが、俺にとっての問題はソコではない。

 俺が口を開けたまま固まっている間も、親友は話を進めていく。

「手を握ってあげたり、頭を撫でたり、背中を撫でたりしてさ。んで、ちゃんと聞くこと。イヤじゃないかとか、どこを撫でられるのが好きかとか。先ずは、知っていくことが大事だからね。シュンちゃんがされてイヤなことと、好きなことを」

 ソルは最後に「押し倒した段階で微妙な反応されたら、すぐに抱き起こしてあげるんだよ」と付け加え、宥めるように俺の肩を軽く叩いた。

「ここまで大丈夫?」

「……見れば分かるだろう」

「うーん……大丈夫じゃないね」

 困ったような、楽しそうな、クスクス笑う親友を、俺は恨めしげに見つめてしまっていたんだろう。少し涙目になったソルが「ごめん、ごめん」と再び俺の肩を軽く叩いた。

「まぁ、ハードル高いのは分かるけどさ。今んところサルフ、衝動的にやっちゃってる時以外はさ、全部受け身じゃん」

「む……た、確かに……」

 つい腕を掴んでしまったり、キスをしてしまったり、彼に対しての気持ちがあふれた時、俺は自分の想いに正直に行動していた。

 しかし、他はどうだろうか。一緒に居たいと伝えることも出来ず、シュンからの誘いに渡りに船と乗っただけ。今回のデート兼お泊りだって、親友のお膳立てによるものだ。

「少しは積極的なところを見せた方が、シュンちゃんも安心出来ると思うよ」

「シュンが……?」

「うん。サルフが、シュンちゃんを大事にしたい気持ちは分かるよ。でもさ、言葉にして伝えてないと、シュンちゃんには消極的に映るじゃん。そしたらさ、自分だけが、こういうことしたいのかなって、サルフはイヤなのかなって、なっちゃうじゃん」

「あ……」

 言われた瞬間、頭に過った。

 心配そうな、寂しそうな、シュンの顔が。

 そうだ。俺は、また伝えていないのだ。また、俺は彼とちゃんと向き合えて……

「心当たり、あったみたいだね」

 オレンジ色の瞳が、どこか得意げに微笑む。ああ、やっぱり、ソルには何でもお見通しのようだ。

「……ソル」

「なーに?」

「もう一回、初めからいいだろうか?」

「オッケー! ちゃんと頭に叩き込みなよ?」

 ソルが俺の両肩をしっかと掴む。頷く俺を見て、親友は満足気に口の端を持ち上げた。



 必要な物をバッグに詰め込んでから、部屋を後にする。

 約束の時間の前に、俺達は近くのコンビニを訪れていた。急なお誘いだし、お泊りなのだから手土産は必要でしょ、とソルに提案されたからだ。

 普段俺はお菓子でも、高タンパク、低糖質を謳っているものしか買わない。なので、ソルにシュンが好きそうなものを選んでもらった。一応弁当も買っておいた。こちらもソルの意見を参考にした。

 親友には何から何までお世話になりっぱなしだ。そのままを感謝と共に伝えたら「何言ってんの? 今更でしょ? 気にすんなよ」と笑われた。

 面倒見の良い親友は、シュンの寮の側まで付き添ってくれた。俺の肩を叩きながら、心配そうに見つめている。

「いーい? オレの言った通りに、しっかりやるんだよ?」

「キスして押し倒す、キスして押し倒す、キスして……」

「……ホントに大丈夫?」

「あっ……あぁ、だ、大丈夫だ」

 シミュレーションは何度もした。万が一を備え、端末にも入力した。事前準備は完璧な筈だ。後は勇気だけ。

「……じゃあ、ほら早く行きなよ。いつまでも、恋人を待たせちゃいけないでしょ?」

 ぼうっと突っ立っている俺の背中に、気合を入れてくれるようにソルが叩く。試合前にしてくれるルーティンのお陰だろう。気持ちが落ち着いていく。勇気が湧いてくる。

「あぁ、すまんソル。ありがとう、助かった」

「いーのいーの。それより頑張れよ、サルフ」

 瞳を細めて、親友が拳を突き出してくる。俺も拳を当てて応えてから、シュンの元へと踏み出した。
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