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マッチョな先輩と恋人同士になった件(サルファールート)

お食事デートの顛末

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 茶色い板に頬ずりをするかのごとく、ローテーブルに力なく突っ伏している俺の頭の上から、高めの声が降ってくる。

「……で、二人仲良くラーメンを食べて、部屋の前まで送ってもらって、さよならしちゃったと」

 昨日のお食事デートの顛末。サルファー先輩と恋人同士にはなれたものの、一切進展がなかったという結果を、オウム返しした声には、明らかな苦笑が滲んでいた。

「はい……ラーメン美味しかったです」

「そっか、良かったね……とはならないよね、シュン的には」

「うん……」

「だよね……よし、よし」

 頭の上に手が乗せられた。そのまま、ぽん、ぽん、と優しく撫でられる。

 彼らしい慰め方に、沈んでいた胸が温かくなっていく。両肩にのしかかっていた暗い重みが、軽くなっていく。ようやくテーブルとお別れ出来そうだ。

「ありがとう……ライ。元気出たよ」

 顔を上げ、かち合った茶色の瞳。俺を見つめるライが、どこか安心したように笑う。

「ふふ、良かった。これくらいなら、いくらでもしてあげるよ」

 有言実行。ライは、本当にずっと撫で続けてくれた。俺が「もう大丈夫だよ」と言っても「まだまだいけるから、遠慮しないで」とめいいっぱい撫でてくれたのだ。

 そうして、すっかり俺の心がほっこり癒やされた頃。

「……でさ、シュンからは誘わなかったの? 泊まって欲しいって」

 ライは改めて切り出してきた。柔らかい声に対して、彼の言葉は鋭かった。今の俺にとっては。

「うぅっ……だって、部屋に来てもらえた時は、いい雰囲気だったし、帰り道でもさ……だから、そのまま帰っちゃうとは思わなかったんだよ……」

 俺の方から抱きついても……先輩、嫌がらなかったし。むしろ、喜んでくれたし。それに……キスも、してもらえたし。

 いっぱいは、してもらえなかったけどさ……でも、期待しちゃうじゃないか。もう少し一緒に……なんてさ。誘ってくれたりするのかなって、期待しちゃうだろ? するよな?

 まあ、現実は甘くなかったんですけど。滅茶苦茶あっさりだったんですけど。



 街灯を頼りに、暗い帰路を先輩と歩く。

 店を出てすぐに、ごく自然に繋いでもらえた手が温かい。ずっと触れていたいけれど、俺の目はすでに捉えてしまっていた。見慣れた寮を、お食事デートの終着点を。

 俺の部屋の前まで来ても、先輩は黙ったままだった。頬を染めて、俺の手をしっかり握って離さない。

 ……もしかして、先輩も思ってくれてるのかな? もう少し一緒に居たいって……

「あの……先輩……」

「……美味しかっただろうか?」

 勇気を出そうとして遮られた。出鼻をくじかれたからだろう。端的な質問が、中々頭に入ってこない。

「……へ? あ、ラーメン、ですか?」

 コクコクと先輩が頷く。顔の赤さも相まって、首が揺れるおもちゃみたいだ。赤ベコだったっけ。

「……はい、スゴく。俺好みの味でした。コクがあるのにあっさりしてて、いくらでも入っちゃいそうで……」

 先輩お気に入りのラーメンは、シンプルな醤油ラーメンだった。毎日食べても飽きないような、優しい味。先輩が通い詰めるのも納得な美味しさだった。

「そうか! じゃ、じゃあ……また、一緒にどう……だろうか? いや、やはりもっとお洒落な店の方が……」

「先輩と一緒なら、俺、どこでも嬉しいですよ。それに俺、あのお店気に入りました。また、連れて行って欲しいです」

「そ、そうか! じゃあ、また行こう! 約束だ!」

「はいっ」

 指切り一つで、無邪気な笑顔で喜ぶ先輩が可愛くて、交わした約束が嬉しくて、気がつけば俺は笑顔で見送ってしまっていたのだ。

 お誘いするチャンスを、逃してしまっていたのだ。



 まあ、誘えたところで、来てくれてたのかって話だけど。


「因みに、今日はお休みだけど……先輩から連絡は?」

 更に追い討ちをかけられて、俺はぐうの音も出せずにノックアウトする。

「あー……ごめん、ごめん。あったら、此処には居ないよね」

 再び俺は、テーブルと仲良しになってしまっていた。ライの小さな手が、俺の頭を優しく撫でてくれた。
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