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マッチョな先輩と恋人同士になった件(サルファールート)

俺の目には、先輩が好きっていうフィルターがかかっているらしい

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 何とかサルファー先輩を、俺の部屋に招き入れることには成功した。

 けれども、先輩は動かない。ローテーブルを挟んだ向かい側で、正座をして俯いたままピクリとも。

 ……失敗、だったかな。誘った時は、好印象に見えたんだけどな。

「あー……俺、お茶、取ってきますね」

 沈黙に耐えかねた俺は、台所に向かおうと腰を上げた。

 茶葉どころかパックもないので、温かい系は用意出来ない。でも、冷たい飲み物でひと息つけば、この重たい空気も少しはマシになるハズだ。

 しかし、俺の足は一歩も進むことはなかった。腕を掴まれたのだ。テーブルの上に大きく身を乗り出した先輩から。

「先輩?」

 呼びかけても黙ったままの先輩を不思議に思っていると、慌てた様子で離される。すかさず手の方を、告白の時のように恭しく握り直された。掴まれた部分を、太い指が労るように撫でてくれる。

「……す、すまない……痛くは、なかったか?」

「……へ? あ、はい。大丈夫、ですけど……」

 先輩……今、俺のこと引き止めようとしてくれたんだよな? ってことは、やっぱり好感触? むしろそれ以上だったり?

 ……側にいっても、いいのかな?

 テーブルを挟んでいるだけでも、微妙な感じ。だが、体勢はもっとキツい。俺は立ち上がりかけたまま、先輩は少し腰を浮かせて身を乗り出したままだからな。

 勇気を振り絞って尋ねてみる。

「あの……一旦、離してくれませんか? そっち、行くんで」

「あ……ああ、すまない……」

 頬を赤くし、手を離した先輩に、いつもの頼もしさはない。正座で座り直した先輩は、叱られた子供のように、しょんぼりと肩を落としてしまっている。

 けれども、すぐにはたと気づいた様子で顔を上げた。喜んでくれているんだろうか、今度は無邪気な子供のように目を輝かせている。側にいっても、大丈夫そう。

 それにしても、滅茶苦茶コロコロ変わるな、表情。意外、だけど……可愛いな、これはこれで。

 恋は盲目とは、よく言ったもんだ。好きってフィルターがかかっている俺の目には、どんな先輩の姿だろうが、表情だろうが魅力的に映るらしい。

 胸の内が不思議な高揚感に満たされていく。浮かれた熱で、頭がふわふわしてくる。

 今抱きついたら、どんな顔を見せてくれるのかな。

 ふと浮かんだ悪戯心。それは、恋が実ったばかりの俺にとっては、とても甘美な誘惑だった。

「っ……しゅ、シュン?」

 高鳴る衝動のまま、俺は実行に移していた。足早に先輩の元まで歩み寄って膝をつき、彼の胸元に飛び込んだ。

 反応は予想通り。驚き、慌てた声が頭の上から降ってきた。じゃあ、顔は? 一体どんな表情をして……

「……あ」
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