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マッチョな先輩と恋人同士になった件(サルファールート)
剣を取る理由
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一体、何を考えているんだろうか。ソルとは長い付き合いだが、今回ばかりは分からない。
彼とぶつかり合うのは、初めてではない。それどころか、日常茶飯事だ。
互いの主張が対立し、話し合いでは解決しない時は、いつも剣で、拳で決めていた。大きいことから些細なことまで、酷い時は、遊びにいく場所を決める為だけに、剣を取った時もある。
だが、今は理由がない。俺とソルがぶつかり合う理由が。
不意に、今にも泣いてしまいそうな彼の顔が浮かんだ。
「……シュン」
彼の名前を口にするだけで、胸の奥が痛んだ。俺には、傷つく資格なんてありはしないのに。彼を傷つけてしまったのは、俺なのに。
どうして、ソルは彼を此処に呼んだのだろうか。
シュンは、随分とソルに懐いているようだった。ソルを頼りにしているらしかった。彼の態度から見ても明らかだ。
現に先程も、その信頼を見せつけられた気がした。
泣きそうな顔をしていた彼は、ソルを見ただけで、彼と一言二言話しただけで、安心したように可愛らしい笑顔を見せていたのだから。
やはり、俺では……シュンを……
コツ、コツと軽やかな足取りが、ブーツの底が石畳を叩く音が、近づいてくる。
「……話は済んだのか」
「うん、バッチリ! 待たせちゃってごめんねー」
ソルの表情は、いつも通りだ。変わらず明るい。軽く上げた手をひらひらと振りながら、人の良さそうな笑みを浮かべている。
やっぱり分からない。
昨日の晩、急に部屋へ押しかけて来たかと思えば「決闘するから。明日の放課後、練習場で待ってる、逃げんなよ」と言いたいことだけ言って帰っていった、ソルの表情。
キレイに笑っているのに、目だけは笑っていない……一番怒っている時の顔をしていたのは、俺の見間違いだったんじゃないかと思ってしまう。
浮かんだ疑問は問いかけとして、自然と口から出てしまっていた。
「一応確認するが、本当にやるのか?」
瞬間、空気が変わった。
「……何? 今さら逃げるの?」
ソルの顔から笑顔が消える。だけなら、まだ良かった。
まるで鉄仮面のようだ。表情は抜け落ち、ただ刃の切っ先のように鋭くなった瞳だけが、ギラリと俺を見据えている。
ああ、やっぱり怒っているんだな、貴様は。本気で。
こういう時に驚きや心配よりも、血が騒いでしまうのが、いけないのだろう。
自覚は、反省はあれど、口角が上がっていくのが抑えられない。久しぶりに、本気の親友と剣を交えることに、仄かな喜びを感じてしまう。
手離しかけていた柄を握り直す。射殺すようなオレンジの瞳を、正面から受け止めた。
「悪かったなソル、今のは忘れてくれ。貴様の本気に、俺も全力で応えるとしよう」
「そうこなくっちゃ! じゃあ、行くよ」
彼とぶつかり合うのは、初めてではない。それどころか、日常茶飯事だ。
互いの主張が対立し、話し合いでは解決しない時は、いつも剣で、拳で決めていた。大きいことから些細なことまで、酷い時は、遊びにいく場所を決める為だけに、剣を取った時もある。
だが、今は理由がない。俺とソルがぶつかり合う理由が。
不意に、今にも泣いてしまいそうな彼の顔が浮かんだ。
「……シュン」
彼の名前を口にするだけで、胸の奥が痛んだ。俺には、傷つく資格なんてありはしないのに。彼を傷つけてしまったのは、俺なのに。
どうして、ソルは彼を此処に呼んだのだろうか。
シュンは、随分とソルに懐いているようだった。ソルを頼りにしているらしかった。彼の態度から見ても明らかだ。
現に先程も、その信頼を見せつけられた気がした。
泣きそうな顔をしていた彼は、ソルを見ただけで、彼と一言二言話しただけで、安心したように可愛らしい笑顔を見せていたのだから。
やはり、俺では……シュンを……
コツ、コツと軽やかな足取りが、ブーツの底が石畳を叩く音が、近づいてくる。
「……話は済んだのか」
「うん、バッチリ! 待たせちゃってごめんねー」
ソルの表情は、いつも通りだ。変わらず明るい。軽く上げた手をひらひらと振りながら、人の良さそうな笑みを浮かべている。
やっぱり分からない。
昨日の晩、急に部屋へ押しかけて来たかと思えば「決闘するから。明日の放課後、練習場で待ってる、逃げんなよ」と言いたいことだけ言って帰っていった、ソルの表情。
キレイに笑っているのに、目だけは笑っていない……一番怒っている時の顔をしていたのは、俺の見間違いだったんじゃないかと思ってしまう。
浮かんだ疑問は問いかけとして、自然と口から出てしまっていた。
「一応確認するが、本当にやるのか?」
瞬間、空気が変わった。
「……何? 今さら逃げるの?」
ソルの顔から笑顔が消える。だけなら、まだ良かった。
まるで鉄仮面のようだ。表情は抜け落ち、ただ刃の切っ先のように鋭くなった瞳だけが、ギラリと俺を見据えている。
ああ、やっぱり怒っているんだな、貴様は。本気で。
こういう時に驚きや心配よりも、血が騒いでしまうのが、いけないのだろう。
自覚は、反省はあれど、口角が上がっていくのが抑えられない。久しぶりに、本気の親友と剣を交えることに、仄かな喜びを感じてしまう。
手離しかけていた柄を握り直す。射殺すようなオレンジの瞳を、正面から受け止めた。
「悪かったなソル、今のは忘れてくれ。貴様の本気に、俺も全力で応えるとしよう」
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