104 / 519
マッチョな先生と恋人同士になった件(グレイルート)
大事な話があるんだ
しおりを挟む
連れて行ってもらえたのは、美術館の近くにある隠れ家的なお店。童話の中にでも出てきそうな可愛らしいレンガのお店で、クリームパスタと先生お薦めのザッハトルテに舌鼓を打った。空が茜色に染まる頃に俺達は、先生の部屋に帰ってきていた。
早々に先生が、テーブルの椅子を引いて俺を手招きする。俺が座ってから、向かいの席に先生も腰掛けた。姿勢を正し、向けられた真剣な眼差し。
「……君に大事な話があるんだ。聞いてくれるかい?」
「……はい」
思い当たる節がない。
放課後、ずっと描いてもらっていた絵を見せてもらって、受け取る約束もして。後は、のんびり過ごすものだと。少し早いけれど、宣言通りに最後まで愛してくれるものだと思っていたのに。
沈黙が重い。中々口を開かない先生の手は震えていた。美術館の時と一緒だ。また俺に、何か隠しているのかな。
軽く息を吐いただけ。その微かな呼吸音にすら、肩が跳ねてしまう。息を整えているみたいに数回繰り返して、先生が自分の胸元に手を伸ばした。
覚悟を決めたような顔をして、先生が取り出したのは小さな黒いケース。俺の手のひらでも余裕で乗るくらいの箱を、テーブルの上に置いた。
「……開けてみて、くれないかい」
「……はい……分かり、ました……」
この中身が、大事な話と繋がるんだろうか。
途端に鼓動が煩くなる。口の中が乾いていく。震える指先で掴んだ箱は、大した重みを感じなかった。一体、何が。
先生が見つめる中、ゆっくり蓋を開ける。瞬間、目に飛び込んできた、煌めく銀の輝き。そこには、大きさの異なる指輪が二つ、仲良く並んで収まっていた。
シンプルなデザインだ。リングの真ん中に、小粒の宝石があしらわれただけ。小さい方には青い石が、大きい方には黒い石が輝いている。
なんだか、まるで俺と先生の瞳の色みたいな。
「先生、これ……」
「シュン、好きだ。愛してる」
俺の持つ箱ごと、大きな手が包み込む。
伝わってくる体温が、真っ直ぐな瞳が、言葉が、心にじんわりと染みて震える。身体が熱くなっていく。もう、一年分は泣いたつもりでいたのに。
「君を必ず幸せにすると誓う。だから、どうか私と婚約して欲しい。君が卒業したら、一緒に暮らそう。結婚しよう」
必死に堪えてもダメだった。後から後からこぼれて、止まらなくて、顔がぐしゃぐしゃになってしまった。笑顔で応えたかったのに。
「します……っ……よろしく、お願いします……俺、先生と一緒がいい……ずっと……一緒に、笑っていたい……」
「っ……シュン……私もだよ……」
立ち上がり、先生が俺の側に来てくれる。箱から小さな指輪を、そっと摘まんで跪く。
恭しく左手を取られ、丁寧に、ゆっくりと指輪がはめられていく。俺の薬指で銀の輪が、小さな青い宝石が眩く煌めいた。
震える唇が、手の甲に触れる。温かい眼差しが、俺を見つめる。俺も、先生に。
目元を拭ってから、大きな指輪をケースから取り出した。俺よりもひと回り大きな左手を掴む。
先生は、目を瞬かせていた。けれども、薬指に指輪をはめた途端に、満面の笑みがこぼれた。太く引き締まった腕が勢いよく伸びてきて、俺を椅子から抱き上げる。
先生の首に腕を回す。どちらともなく交わした触れるだけのキス。でもそれは、とびきり甘くて、幸せで。額を寄せながら笑い合った。
早々に先生が、テーブルの椅子を引いて俺を手招きする。俺が座ってから、向かいの席に先生も腰掛けた。姿勢を正し、向けられた真剣な眼差し。
「……君に大事な話があるんだ。聞いてくれるかい?」
「……はい」
思い当たる節がない。
放課後、ずっと描いてもらっていた絵を見せてもらって、受け取る約束もして。後は、のんびり過ごすものだと。少し早いけれど、宣言通りに最後まで愛してくれるものだと思っていたのに。
沈黙が重い。中々口を開かない先生の手は震えていた。美術館の時と一緒だ。また俺に、何か隠しているのかな。
軽く息を吐いただけ。その微かな呼吸音にすら、肩が跳ねてしまう。息を整えているみたいに数回繰り返して、先生が自分の胸元に手を伸ばした。
覚悟を決めたような顔をして、先生が取り出したのは小さな黒いケース。俺の手のひらでも余裕で乗るくらいの箱を、テーブルの上に置いた。
「……開けてみて、くれないかい」
「……はい……分かり、ました……」
この中身が、大事な話と繋がるんだろうか。
途端に鼓動が煩くなる。口の中が乾いていく。震える指先で掴んだ箱は、大した重みを感じなかった。一体、何が。
先生が見つめる中、ゆっくり蓋を開ける。瞬間、目に飛び込んできた、煌めく銀の輝き。そこには、大きさの異なる指輪が二つ、仲良く並んで収まっていた。
シンプルなデザインだ。リングの真ん中に、小粒の宝石があしらわれただけ。小さい方には青い石が、大きい方には黒い石が輝いている。
なんだか、まるで俺と先生の瞳の色みたいな。
「先生、これ……」
「シュン、好きだ。愛してる」
俺の持つ箱ごと、大きな手が包み込む。
伝わってくる体温が、真っ直ぐな瞳が、言葉が、心にじんわりと染みて震える。身体が熱くなっていく。もう、一年分は泣いたつもりでいたのに。
「君を必ず幸せにすると誓う。だから、どうか私と婚約して欲しい。君が卒業したら、一緒に暮らそう。結婚しよう」
必死に堪えてもダメだった。後から後からこぼれて、止まらなくて、顔がぐしゃぐしゃになってしまった。笑顔で応えたかったのに。
「します……っ……よろしく、お願いします……俺、先生と一緒がいい……ずっと……一緒に、笑っていたい……」
「っ……シュン……私もだよ……」
立ち上がり、先生が俺の側に来てくれる。箱から小さな指輪を、そっと摘まんで跪く。
恭しく左手を取られ、丁寧に、ゆっくりと指輪がはめられていく。俺の薬指で銀の輪が、小さな青い宝石が眩く煌めいた。
震える唇が、手の甲に触れる。温かい眼差しが、俺を見つめる。俺も、先生に。
目元を拭ってから、大きな指輪をケースから取り出した。俺よりもひと回り大きな左手を掴む。
先生は、目を瞬かせていた。けれども、薬指に指輪をはめた途端に、満面の笑みがこぼれた。太く引き締まった腕が勢いよく伸びてきて、俺を椅子から抱き上げる。
先生の首に腕を回す。どちらともなく交わした触れるだけのキス。でもそれは、とびきり甘くて、幸せで。額を寄せながら笑い合った。
0
お気に入りに追加
141
あなたにおすすめの小説

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。
【完結】お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!
MEIKO
BL
第12回BL大賞奨励賞いただきました!ありがとうございます。僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して、公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…我慢の限界で田舎の領地から家出をして来た。もう戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが我らが坊ちゃま…ジュリアス様だ!坊ちゃまと初めて会った時、不思議な感覚を覚えた。そして突然閃く「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけにジュリアス様が主人公だ!」
知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。だけど何で?全然シナリオ通りじゃないんですけど?
お気に入り&いいね&感想をいただけると嬉しいです!孤独な作業なので(笑)励みになります。
※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

せっかく美少年に転生したのに女神の祝福がおかしい
拓海のり
BL
前世の記憶を取り戻した途端、海に放り込まれたレニー。【腐女神の祝福】は気になるけれど、裕福な商人の三男に転生したので、まったり気ままに異世界の醍醐味を満喫したいです。神様は出て来ません。ご都合主義、ゆるふわ設定。
途中までしか書いていないので、一話のみ三万字位の短編になります。
他サイトにも投稿しています。

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話
gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、
立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。
タイトルそのままですみません。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる