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マッチョな先生と恋人同士になった件(グレイルート)

絶対、据え膳食わせてやる

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 脱いだ服を軽く畳んで浴室へ。静かに扉を閉めてから、シャワーのコックを思いっきりひねった。

 勢いよく降ってきた冷水が、俺の頭に降り注ぐ。肌を、タイルを叩く水音が、変に脈打つ俺の鼓動を掻き消した。

 さっきの言葉に嘘はない。俺に対して誠実な先生は好きだ。

 先生の気持ちも分かっているつもり。きっと、俺のことを大切にしようとしてくれているんだって。

 でもそれはそれ、これはこれというわけで。

「絶対、据え膳食わせてやる……」

 教師のけじめだの何だのしったことか!

 恋人がしたいって言ってんだぞ!?

 絶対襲うように仕向けてやる!

 拳を強く握りしめる。どれだけ浴びようが、冷えることはなさそうだ。



 チューブがズボンのポケットに入ってるのを確認してから、何食わぬ顔で部屋に戻る。あくまで冷静にだ。ことを起こすのは、先生が眠ってからなのだから。

 丁度、先生は食事の準備を終えたところだったらしい。少しバツが悪そうに眉を下げ、それでも柔らかい声で「おかえり」と瞳を細めた。

 お弁当の中身は豪華な幕の内。唐揚げ、焼き魚、卵焼き、煮物と色んなおかずが詰められていた。

 いただきますをしても先生は、心配そうな顔で俺を見つめていた。割り箸を手にしてはいるものの、一切手をつけないで。

 しかし、俺がことさら明るく振る舞いながら弁当を元気よく頬張っている内に、安堵したように頬を綻ばせた。

 美味しいですね、こっちも美味しいよ、と交わす俺達の雰囲気は、いつもと変わらなかったと思う。ちゃんといつも通りに振る舞えていたと思う。

 夕食後、先生もシャワーを浴びてくると言うので先に寝室で休んでると告げた。少し寂しそうな顔をしていたが、先生は何も聞かずに「おやすみ」と俺の頭を撫でてくれた。

 寝室のドアから背を向けて寝たふりをする。程なくして静かに扉が開く音がした。ゆっくりと足音がベッドに向かって近づいてくる。

 目を閉じて息を潜める俺の頭に何かが触れる。ふわりと香る優しく甘い匂い。僅かに聞こえたリップ音。

 ……キス、してくれたんだ。

 途端に込み上げてきた喜びと衝動。抱きつきたくて仕方がなかったけれど。口にもして下さい、と強請りたくて仕方がなかったけれど。必死に歯を食いしばって堪えた。堪えきった。

 髪を梳くように撫でてもらえて、布の擦れる音がして、背中に感じた先生の温もり。でも、腕が回されることはなかった。

 ……今日は抱き締めてくれないのか。

 いやいや、むしろ好都合じゃないか。腕から抜け出すリスクが無いんだからさ。なのに残念がってる場合じゃないだろ! しっかりしろ!

 乱れた気持ちと鼓動を落ち着かせている内に、規則正しい呼吸が聞こえてくる。眠ってくれたんだろうか。

 音を立てないよう、細心の注意を払いながら起き上がる。先生の横顔を確認すると髪は下ろされ、その瞼は固く閉じられていた。

 念の為、と頬を指でつつく。つん、つん。少し唸ったものの、再びすやすやと寝息を立て始めた。準備は整ったな。
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