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マッチョな先生と恋人同士になった件(グレイルート)
何とか誤解を解かなければ
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俺をそっと下ろした先生が、静かに玄関へと向かう。しばらくしてから、ガチャリと鍵をかける音がした。
幅広の肩を落とし、いかにも寂しげな雰囲気で俺の元へ戻ってきた先生。その眉間に刻まれたシワは、何故かより一層深くなっていた。
「せ、先生……大丈夫ですか?」
扉の近くで佇む彼に慌てて駆け寄る。あと一歩のところで筋肉質な腕が伸びてきた。再び俺を抱き締めた先生は、何も言ってはくれない。
俺も、何と言えばいいのか分からなくなっていた。だから、とにかく抱き締めた。少し曲がった背中に腕を回し、力を込めた。
どのくらいの間、そうしていただろうか。不意に抱き締める腕の力を弱めた先生が、俺の肩を優しく掴んだ。
寂しそうな光を宿した眼差しが、俺をじっと見つめている。躊躇いがちに口を開いた先生が、ぽつぽつと理由を話し始めた。
「……さっきのは……一体、何の合図だい?」
「……え、合図? ……何のことですか?」
合図……合図? 全くもって分からない。見に覚えもなかった。
首を傾げる俺に、先生が額を合わせてくる。覗き込むような、俺の心の内を伺っているような青い双眸が、切なそうに揺れていた。
「……アイコンタクト、してたよね? セレストと」
「……あ」
ああ、そうだった。確かにしていたな、合図。
でも、あれは多分、セレストさんなりの俺へのエールだろう。シミュレーション通りに、しっかりやりたまえよ! っていう意味での。
けれども先生は知らない。俺とセレストさんの企みも、俺がどれだけ先生のことしか頭にないってことも。
だから、ますます勘違いが加速してしまっていた。俺の反応を後ろ向きに受け取ったんだろう。苦しそうに歪んだ顔が痛々しい。
肩を掴むその手は震えていた。絞り出すように発した声も。
「……その前は、彼に耳元で囁かれて……君は……嬉しそうに、はにかんで」
何とか誤解を解かなければ。伝えなければ、俺には先生だけだってことを。
そんな気持ちが先行してしまったんだろう。俺は、思い切った行動に出ていた。言葉を遮るように、先生の口を自分の口で塞いでいたんだ。
悲しそうに細められていた瞳が丸くなる。されるがままになっている先生は、完全に固まってしまっていた。指先どころか、長い睫毛すら動かない。
しかし、何度目かの口づけに、ようやく現状を、俺にキスされているってことを認識したらしい。青白くなりかけていた頬が、瞬く間に血色を取り戻す。眉間のシワも消え失せ、すっかり口元も綻んでいた。
とはいえ、疑問は尽きないのだろう。嬉しいんだけど、何故? といった複雑な表情で俺を見つめていたんだ。
幅広の肩を落とし、いかにも寂しげな雰囲気で俺の元へ戻ってきた先生。その眉間に刻まれたシワは、何故かより一層深くなっていた。
「せ、先生……大丈夫ですか?」
扉の近くで佇む彼に慌てて駆け寄る。あと一歩のところで筋肉質な腕が伸びてきた。再び俺を抱き締めた先生は、何も言ってはくれない。
俺も、何と言えばいいのか分からなくなっていた。だから、とにかく抱き締めた。少し曲がった背中に腕を回し、力を込めた。
どのくらいの間、そうしていただろうか。不意に抱き締める腕の力を弱めた先生が、俺の肩を優しく掴んだ。
寂しそうな光を宿した眼差しが、俺をじっと見つめている。躊躇いがちに口を開いた先生が、ぽつぽつと理由を話し始めた。
「……さっきのは……一体、何の合図だい?」
「……え、合図? ……何のことですか?」
合図……合図? 全くもって分からない。見に覚えもなかった。
首を傾げる俺に、先生が額を合わせてくる。覗き込むような、俺の心の内を伺っているような青い双眸が、切なそうに揺れていた。
「……アイコンタクト、してたよね? セレストと」
「……あ」
ああ、そうだった。確かにしていたな、合図。
でも、あれは多分、セレストさんなりの俺へのエールだろう。シミュレーション通りに、しっかりやりたまえよ! っていう意味での。
けれども先生は知らない。俺とセレストさんの企みも、俺がどれだけ先生のことしか頭にないってことも。
だから、ますます勘違いが加速してしまっていた。俺の反応を後ろ向きに受け取ったんだろう。苦しそうに歪んだ顔が痛々しい。
肩を掴むその手は震えていた。絞り出すように発した声も。
「……その前は、彼に耳元で囁かれて……君は……嬉しそうに、はにかんで」
何とか誤解を解かなければ。伝えなければ、俺には先生だけだってことを。
そんな気持ちが先行してしまったんだろう。俺は、思い切った行動に出ていた。言葉を遮るように、先生の口を自分の口で塞いでいたんだ。
悲しそうに細められていた瞳が丸くなる。されるがままになっている先生は、完全に固まってしまっていた。指先どころか、長い睫毛すら動かない。
しかし、何度目かの口づけに、ようやく現状を、俺にキスされているってことを認識したらしい。青白くなりかけていた頬が、瞬く間に血色を取り戻す。眉間のシワも消え失せ、すっかり口元も綻んでいた。
とはいえ、疑問は尽きないのだろう。嬉しいんだけど、何故? といった複雑な表情で俺を見つめていたんだ。
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