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マッチョな先輩と恋人同士になった件(サルファールート)

いつまでも貴方と一緒に

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 砂粒のように小さな黒いチェーンをそっと摘んで持ち上げてみる。

 軽い金属音を鳴らしながら宙に揺れた細く長いスティックが、はめ込まれているペリドットが、日差しに照らされて淡い光沢を帯びた。

「……キレイ」

 俺達だけの特別だからだろう。余計にそう感じてしまう。

 骨ばった指が伸びてきた。俺が持つネックレスに触れる寸前で止めてから、尋ねてくる。

「いいか? 俺から君に着けさせてもらっても」

「は、はい……お願い、します……」

「ありがとう」

 お礼を言うのは俺の方な気がするんだけど。

 瞳を細めた先輩が、ネックレスの留め具を外す。俺の首にそっと回して着けてくれてから、首元で傾いていたスティックを整えてくれた。

「綺麗だ。似合っているよ」

「ありがとう、ございます……あの、俺も……」

「ああ、君から俺に着けてくれないか?」

「はいっ」

 先輩がネックレスの入った箱を差し出し、開けてくれる。取り出したネックレスは、俺のものより少しだけチェーンが長かった。

「失礼します」

「よろしく頼む」

 着けやすいように伸ばした背筋を屈めてくれた先輩。彼の太い首に抱きつくように腕を回しながら、あらかじめ外していた留め具を止めた。

 浮き出た左右の鎖骨の真ん中で、黒いスティックが艶めいている。輝く黄色の天然石と同じ色の瞳が俺を見つめている。

「カッコいい……」

「ありがとう……嬉しいよ」

 返ってきた柔らかい声に気づかされた。胸の内に浮かんだ気持ちが口をついて出ていたことに。

 それが何だか気恥ずかしくて。つい俯こうとしたのだけれど、叶わなかった。頬に添えられた分厚い手のひらから持ち上げられて、熱い眼差しにつかまった。

「あの時、このネックレスを君と選んだ時……俺が君に言ったこと……覚えているか?」

 あの時。デートがしたいと、お揃いが欲しいと、そう強請った俺の為に連れて行ってくれたショッピングモール。アクセサリー店でオリジナルのネックレスが作れるって、好きなメッセージを彫ることも出来るって、そのサンプルを見つけてそれで。


『互いのイニシャルを入れれば、もっと特別感が増すだろう? 結婚指輪みたいに』


 忘れるハズが、忘れられるハズがない。

「覚えて、ますよ……」

「そうか……」

「はい……こうして出来上がったネックレスを見たら、余計に先輩が言っていた特別感を実感したっていうか……ホントにその、け……」

 手を握られた。両手で優しく包みこんでくれたのだけれど、急だったものだから俺は思わず言葉を止めてしまっていて。続く彼の言葉に、ますます言葉が出なくなった。

「……気が早いってのは分かっているんだ。だが、いずれは君と……そう、なれたらいいと思っているというか……いや、曖昧なのは駄目だよな」

 彷徨っていた眼差しが、意を決したように真っ直ぐに俺を見つめてくる。

 さっきから鼓動が騒がしくて仕方がない。このままじゃあ、壊れて。

「シュン……君を必ず幸せにしてみせる。君が卒業したら、結婚してくれないか? これから先も、ずっと君と一緒に歩んで行きたいんだ」

 先に壊れたのは、心臓の方じゃなかった。一気に熱くなった目の前がボヤけていく。拭っても、拭っても、止まらない。大好きな彼を見つめることが出来ない。

「う、ぁ……俺も……俺、も……っ……一緒に……」

 あふれている喜びの分だけこぼれているようだ。声まで震えてしまって上手く言葉が出てこない。応えないといけないのに。応えたいのに。

 何度も頷きながら、頬を濡らしながら、唯一伝えられたのは。

「ぐすっ、ふ……すき……好き、です……」

 それだけ。いつかと思い描いていたような、一緒に幸せになりましょうねとか。俺の方こそ幸せにしてみせますとか。ちゃんとした言葉も、笑顔すらも返せなかった。

「……俺も、愛しているよ」

 なのに、先輩は嬉しそうに応えてくれた。いまだに止まることなく濡れている目元を指先で撫でて、拭ってくれた。

 頬を伝って口の中まで入ってきて、しょっぱくない涙の味になっているのに、構わずに口づけてくれた。

「ん……ん、ふ……」

 止まる気配もなかったのに。角度を変えながら交わしてもらっている内に、不思議と涙が止まっていた。心に余裕が生まれたからだろう、欲が滲み出てきてしまう。

 もっと……もっと、先輩と……

 気がつけば俺は彼の首に腕を絡めていた。形の良い唇へと俺からも求めようとしたところで、離れていってしまう。

「……ぁ……やだ、サルファー……もっと……」

「す、済まない……シュン、これ以上してしまうと……我慢が……」

 慌てた様子で先輩がゴンドラの窓へと視線を向ける。幸せな時間が過ぎるのは早いもんだ。ずっと離れていた景色が、地面が近づいてきている。あと5分もないかもしれない。

 そうだった。ここは公共の場だ。二人っきりだったから、うっかり忘れていたけれど。

「……ごめんなさい」

「いや、元々は俺が先に手を出したんだからな……それで、その」

 宥めるように頭を撫でてくれていた手が止まる。左右に彷徨いながらも見つめてきた瞳には、確かな熱が宿っていた。

「帰らないか? 少し早いけれど……」

 また俺は言葉を失ってしまっていた。

「君が欲しいんだ……せっかくのデートだってのは分かっている、だが……もう、俺は……」

 吐息が触れ合いそうな距離で一心に見つめられてながら強請られて。

「この埋め合わせは必ずする……だから、駄目か?」

「……帰りましょう……俺も、先輩が欲しいです……」

 断れる訳がなかった。俺だって同じ気持ちだったのだから。
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