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マッチョな先輩と恋人同士になった件(サルファールート)
向き合わなければ、逃げずに、ちゃんと
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告、白……? シュンに?
上手く飲み込めていない俺に、捲し立てるようにソルが叫ぶ。
「マジでいい加減にしろよ! 待たせてるってだけでもヤキモキしてたのに、挙げ句泣かせやがって!」
その声は震えていた。怒っているだけじゃない。
「オレの知ってる親友はっ、どんなに相手が強くても、勝ちの目が薄くても、笑って立ち向かっていくんだよ! 俺達なら勝てるって、背中を叩いて励ましてくれるんだよ! なのに……」
オレンジの瞳が、薄い涙の膜に包まれていく。
「一番向き合わないといけない相手から、逃げてんじゃねぇよッ!!」
貫かれた気がした。
刃は届いてなんかいないのに。いまだに俺とソルの間で、不協和音を立てているのに。
心の奥の一点を、見て見ぬふりをして隠そうとしていた気持ちを。
……そうだ。俺はずっと、シュンから逃げて……
好機と声援に湧く観衆。その中で一人、祈るように俺達を見つめている黒の眼差し。
「……シュン」
不安に濡れた、その双眸と視線が絡む。
俺は気づけなかった。
交わしていた刃から、俺を押し切ろうとする力と重みがなくなったことに、ソルが少し後ろに飛び退いていたことに。
気づけた時には、もう遅かった。
視線を戻した瞬間、視界に映ったブーツの先端。顎に受けた鋭い衝撃。鈍く、熱い痛み。
彼が得意としている回し蹴りが、俺の顎を的確に捉えた後だった。
頭がグラつく。目の前が、白と黒に明滅する。反動のまま仰け反り、仰向けに倒れかかっていた上体を、石畳を踏みしめることで堪える。
どうにか、オレンジがかった天を仰がずに済んだ。が、今度は前のめりに倒れ込みそうになってしまう。
先に崩れた膝が、固い石に叩きつけられた。皮膚が、骨が、熱く痺れていく。
水の中で目を開けたかのようにボヤける視界。薄汚れ、灰色になりかけている白い石ばかりを映していたハズが、そこへ鮮やかな赤い斑点がポツ、ポツ、と落ちていく。
どうやら、口の中を切ったようだ。口の端からこぼれ、顎まで伝っていた雫を見たことで、ようやく口内を占める鉄の味を感じた。何度味わっても、やはり美味くはない。
「どう? 少しは目が覚めた?」
……ああ、そうだな。美味くはないが、目は覚めた。
尋ねたソルは、また飄々とした調子に戻っていた。必要最低限の間合いを取り、俺を見下ろしている。
向き合わなければ。
先ずは、馬鹿な俺の目を覚まさせてくれた親友と。そして……
いまだ焦点の合わぬ視界でも、ハッキリ捉えられた彼の姿。震える細い体躯をダンとライに支えられながら、不安と悲しみに表情を歪ませながら、それでもなお、シュンは逃げずに俺達の決闘を見届けようとしてくれている。
……今度こそ、シュンと話をしよう。ちゃんと、俺の気持ちを伝えよう。
たとえ、この想いが届かなくても構わない。伝えたことで彼との温かい今が壊れてしまっても、彼に微笑みかけてもらえなくなったとしても。
それでも、言葉にして伝えなければ。逃げずに、向き合わなければ。
「……もう、終わり? オレ、まだ本気出してないんだけど? 流石にフヌけ過ぎじゃ」
「……だ…………ない」
「……何? 聞こえないんだけど?」
「まだ、勝負はついてないぞソルっ!」
柄を握った手は震えていた。足もだ。まだ、まともに力が入らない。
口から伝う生暖かさが、不愉快極まりない。手の甲で拭ってみたが、あまり変わらなかった。
だが、視界は晴れてきた。
「イイ顔になったじゃん。ほら来いよサルフ、叩きのめしてやんよ!」
上手く飲み込めていない俺に、捲し立てるようにソルが叫ぶ。
「マジでいい加減にしろよ! 待たせてるってだけでもヤキモキしてたのに、挙げ句泣かせやがって!」
その声は震えていた。怒っているだけじゃない。
「オレの知ってる親友はっ、どんなに相手が強くても、勝ちの目が薄くても、笑って立ち向かっていくんだよ! 俺達なら勝てるって、背中を叩いて励ましてくれるんだよ! なのに……」
オレンジの瞳が、薄い涙の膜に包まれていく。
「一番向き合わないといけない相手から、逃げてんじゃねぇよッ!!」
貫かれた気がした。
刃は届いてなんかいないのに。いまだに俺とソルの間で、不協和音を立てているのに。
心の奥の一点を、見て見ぬふりをして隠そうとしていた気持ちを。
……そうだ。俺はずっと、シュンから逃げて……
好機と声援に湧く観衆。その中で一人、祈るように俺達を見つめている黒の眼差し。
「……シュン」
不安に濡れた、その双眸と視線が絡む。
俺は気づけなかった。
交わしていた刃から、俺を押し切ろうとする力と重みがなくなったことに、ソルが少し後ろに飛び退いていたことに。
気づけた時には、もう遅かった。
視線を戻した瞬間、視界に映ったブーツの先端。顎に受けた鋭い衝撃。鈍く、熱い痛み。
彼が得意としている回し蹴りが、俺の顎を的確に捉えた後だった。
頭がグラつく。目の前が、白と黒に明滅する。反動のまま仰け反り、仰向けに倒れかかっていた上体を、石畳を踏みしめることで堪える。
どうにか、オレンジがかった天を仰がずに済んだ。が、今度は前のめりに倒れ込みそうになってしまう。
先に崩れた膝が、固い石に叩きつけられた。皮膚が、骨が、熱く痺れていく。
水の中で目を開けたかのようにボヤける視界。薄汚れ、灰色になりかけている白い石ばかりを映していたハズが、そこへ鮮やかな赤い斑点がポツ、ポツ、と落ちていく。
どうやら、口の中を切ったようだ。口の端からこぼれ、顎まで伝っていた雫を見たことで、ようやく口内を占める鉄の味を感じた。何度味わっても、やはり美味くはない。
「どう? 少しは目が覚めた?」
……ああ、そうだな。美味くはないが、目は覚めた。
尋ねたソルは、また飄々とした調子に戻っていた。必要最低限の間合いを取り、俺を見下ろしている。
向き合わなければ。
先ずは、馬鹿な俺の目を覚まさせてくれた親友と。そして……
いまだ焦点の合わぬ視界でも、ハッキリ捉えられた彼の姿。震える細い体躯をダンとライに支えられながら、不安と悲しみに表情を歪ませながら、それでもなお、シュンは逃げずに俺達の決闘を見届けようとしてくれている。
……今度こそ、シュンと話をしよう。ちゃんと、俺の気持ちを伝えよう。
たとえ、この想いが届かなくても構わない。伝えたことで彼との温かい今が壊れてしまっても、彼に微笑みかけてもらえなくなったとしても。
それでも、言葉にして伝えなければ。逃げずに、向き合わなければ。
「……もう、終わり? オレ、まだ本気出してないんだけど? 流石にフヌけ過ぎじゃ」
「……だ…………ない」
「……何? 聞こえないんだけど?」
「まだ、勝負はついてないぞソルっ!」
柄を握った手は震えていた。足もだ。まだ、まともに力が入らない。
口から伝う生暖かさが、不愉快極まりない。手の甲で拭ってみたが、あまり変わらなかった。
だが、視界は晴れてきた。
「イイ顔になったじゃん。ほら来いよサルフ、叩きのめしてやんよ!」
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