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マッチョな先生と恋人同士になった件(グレイルート)

ここから始まっていく俺達の日々(終)

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 紅茶の匂いが薄っすら香るお部屋は、随分と見慣れてきたハズなのに、つい最近も遊びに来たハズなのにそわそわしてしまう。

 実感しちゃってるから、だよな。やっぱり。

 騒がしい鼓動を、少しでも落ち着かせるべく深呼吸。ダンボールを抱え直した。

「グレイさんっ、この荷物、何処に置いたらいいですか?」

 呼びかけてすぐだった。後ろに緩く纏めた青い髪を揺らしながら、グレイさんが俺の元に来てくれる。筋肉質で太い腕が、軽々と俺の荷物を抱えてくれた。

「こっちの空き部屋に置くといいよ。今日から、ここが君の部屋だからね」

 リビングからほど近い部屋の扉を開いて中に入り、丁寧に床へと下ろしてくれる。広い背中越しに見えた室内は、一人暮らしでも十分なくらいの広さがあった。俺が元々使っていた机や椅子やら本棚やらも、すでに設置済みだ。有り難い。

「ありがとうございま、うわっ」

 頼もしい背中に声をかけていたハズが、眼の前には逞しい雄っぱいが。グレイさんに抱き締められてる。

「ちょ、ぐ、グレイさん?」

「後で手伝うから、今は私を構ってくれないかい?」

「え、それは全然構わないですし、スゴく嬉しいですけ、どっ」

 言い終わるより前に、骨ばった指から顎を持ち上げられていた。かち合った青の瞳が嬉しそうに微笑んでいる。

 晴れ渡る空のような色に、艷やかに笑う口元に見惚れている内に、重なっていた。優しく唇を食まれながら、ますます強く抱き寄せられる。

 ふわふわと頭の中が蕩けていく。触れ合う部分から広がっていく甘い痺れに、すっかり溺れかけていた時だ。

「全く……相変わらずだな、君達は。私が、ケーキを食べ終えるのも待てないのかね?」

 リビングに居たハズの彼、セレストさんが呆れたように俺達を見つめていた。お皿もフォークも使わず豪快に手掴みで、ショートケーキを頬張っている。

「……セレスト」

「……す、すみません、セレストさん。わざわざお祝いのケーキ貰ったのに」

「まあ、気持ちは分かるがね。シュン君も無事卒業、約束していた同棲を始められるだけでなく、近い内には籍を入れるのだから。私も、これを食べたら、お暇するつもりではあったからね」

 そうボヤいて残りのケーキをぱくんっと一飲み。指先についた生クリームを丁寧に拭い終え、反対の手に持っていた紙袋を俺に向かって押しつけてきた。

「えっと……ありがとう、ございます?」

「うむ、君は実に素直でよろしい。是非とも、そのままでいてくれたまえ。式の日取りが決まったら、いの一番に教えてくれたまえよ!」

 はっはっはっと笑いながら去っていく背中を呆然と見送っていると、グレイさんが俺の頭をひと撫でしてから追いかけていった。

 何か話していたんだろう、しばらくして帰ってくる。

「ごめんね、初日から騒々しくて」

「いえ、相変わらず嵐みたいな人ですよね、セレストさんって。スゴく良い人ではあるんですけど」

「うん」

 苦笑しながらも、やっぱりグレイさんは嬉しそうに口元を緩めている。

「ところで、何だったんだい? それは」

「ああ、何でしょう、ね……おわ……」

 袋を開けた瞬間、変な声を上げた俺に「どうかしたのかい?」と尋ねながらグレイさんも覗き込んでくる。そして。

「…………」

 顔を真っ赤にしたまま、固まってしまった。

 中身は、あの日からずっとお世話になっている、潤滑油代わりのチューブ。そして、その改良版であるローションが数本。

 それから「盛んなのはいいことだがね、あまりシュン君に無理をさせないようにしたまえよ」と書かれたメモが入っていた。

「えっと……ごめんなさい、そろそろ無くなりそうだって、俺が連絡したからかと……」

「……そうだったんだね、ごめんね……私が連絡すべきだったのに」

「いっ、いえ、その……無いと……困るのは俺ですし……そのせいでグレイさんと出来ないと、寂しいですから……」

 気恥ずかしさに、俯きかけていると肩を掴まれた。

「シュン……」

 見下ろす眼差しは妖しい熱を帯びている。頬に添えられた手もだ。熱くて、ドクドク脈打つ音が聞こえてきそう。

「あ……まだ、お昼ですよ……」

「……駄目かい?」

 断れる訳がない。

 大好きな人から、切なそうに瞳を細められてしまえば、焦がれるような声で願われてしまえば。

「……俺達の分のケーキ、冷蔵庫にしまったら……グレイさんのこと構ってあげます、いっぱい」

「ありがとう」

 俺の方が言うべきだろうに。結局、構われるのは、たっぷり愛してもらうのは、俺の方なのにさ。

 彫りの深い顔を、ぱぁっと輝かせ、グレイさんが俺を抱き上げる。額を寄せ、手を取り繋ぐ。俺の薬指には、彼と揃いの指輪が輝いていた。



 了
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