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マッチョな先生と恋人同士になった件(グレイルート)
……やっぱり、ダメだったのかな? 嫌われちゃったのかな?
しおりを挟む「それは……」
思わず言葉を詰まらせてしまったせいだ。静かに上げた先生の表情は、寂しく沈んでしまっている。
「やはり、そうなんだね……」
「先生……」
胸が軋むように痛んだ。眉間に皺を寄せながら力なく微笑む先生は、何だか今にも消えてしまいそうで。
「私では、君の笑顔を守ることは」
「ちょっと待って下さい!」
早く誤解を解かなければ。たとえ幻滅されてしまったとしても、取り返しがつかなくなるよりはよっぽどマシだ。
俺は拳を固く握りしめて先生に向き直った。
「……ごめんなさい、ちゃんと説明します。ただ、その……理由を聞いても、俺のこと……嫌いになったりしないで欲しいんですけど……」
「たとえ何があっても、私がシュン君のことを嫌いになることなんて絶対にないよ?」
即答どころか、力強い声で断言されてしまった。少し明るさを取り戻した先生。ゴツゴツした大人の手が、俺の頬を撫でてくれる。
『先生、シュンにべた惚れだから、それくらい我が儘の内に入らないと思うよ? むしろ喜んでくれるんじゃない?』
ホントに、そう……なのか? ライが言ってた通り……喜んで、もらえるのかな……
「う……えっと、先生を……ようとして、その」
「ごめん、聞き取れなかった。もう一回言ってくれないかい?」
顔が熱い。湯気でも出ていそうだ。あの二文字を言えなくて、まごまごしている俺を、真剣な面持ちで先生が見つめる。
あー……こうなったら、もうヤケだ! どうにでもなれ!!
「せっ、先生を誘惑する相談をライとしてたら遅くなりましたっ! ごめんなさい……」
一気に捲し立てるが、気恥ずかしさでだんだん声が萎んでいってしまう。
だけど、伝えなければ。最後まで、ちゃんと。
「俺、先生ともっと……キス、以上のこと……したくて……ライに相談したんです……そしたら、先生の部屋に泊めてもらったら? って。明日から、休みだし……土日、先生と二人っきりで過ごせるかもって……だから……」
胸の内は全部言い切ったハズ。しかし、先生は何も言ってくれない。眉一つ動かさずに俺のことを、射抜くように見つめている。
……やっぱり、ダメだったのかな? 嫌われちゃったのかな?
これ以上、顔を見ていられなくなって俯く。
もう、自分の鼓動しか聞こえなくなっていた中、ガタリと椅子が動く音がした。コツコツと靴底が床を叩く。
……止まった。すぐ側に気配が、馴染みのある体温を頬の近くに感じた。
「本当に君はイケナイ子だね……こんなにも私を夢中にさせるなんて」
蕩けるような声だった。
耳元で囁かれただけ。それだけなのに、背筋に淡い感覚が走っていく。身体が勝手に震えてしまう。
「あ……」
恭しく手を取られたかと思えば、立ち上がらせられた。覚束なくて、ふらついた俺を、逞しい腕が抱き止めてくれる。
温かい手のひらが、俺の頬に添えられる。
もう、先生しか見えない。うっとりと俺を見つめる、柔らかい微笑みしか。
「シュン……」
「グレイ、先生……」
どちらともなく詰めていき、触れ合った。
「ん……ぁ……む、ふ、んっ……ふ……」
先生もドキドキしてくれているんだろうか。唇に触れる吐息が荒い。俺を抱き締めてくれる、腕の力も。
滲みかかった視界の中で視線が交わる。一心に見つめてくる、情欲に濡れた青。宿った熱さに、胸がきゅんと高鳴った。
名残惜しそうに、形のいい唇が離れていく。すっかり息が上がってしまった俺の背を、労るように撫でてくれた。
「はっ、は……せ、んせ……俺のこと、幻滅したり……しないんですか?」
青い睫毛がぱちぱち瞬く。穏やかな笑みが、より一層深くなる。男らしい喉仏が、くすくすと震えた。
「……恋人に、こんなに可愛くお強請りされて……喜ばない男がいたら教えて欲しいね」
先生が額を合わせてくる。擦り寄るみたいに鼻先を寄せた彼の瞳は、とろんと細められていた。何だか甘えてくれているみたいだ。
「えっと……じゃ、じゃあ今夜……先生の部屋に泊まってもいい、ですか?」
チャンスは今しかないだろう。勇気を出してお願いしてみた。
満開の花みたいだ。間近にある先生の顔が、見る見るうちに明るく色づいていく。
再び優しく口づけられて、抱き締められた。安心する温もりに包まれながら、俺は広く頼もしい背に腕を回した。
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