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マッチョな先生と恋人同士になった件(グレイルート)
これ以上の幸せはないハズなのに……
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あの騒動が終わってから俺は毎日、放課後はグレイ先生のアトリエに入り浸っていた。
先生の淹れてくれる紅茶を飲みながら他愛のない話をしたり、絵のモデルをしたりと穏やかな時間を過ごしている。
いつも柔らかい笑顔で俺を迎えてくれる先生。別れ際には必ず優しく抱きしめてくれて、額にキスをしてくれる。
とても満ち足りているハズなのに、何でだろう。少し物足りない気がするのは。
今日も俺は先生の元へ訪れている。
いつも通りノックを三回。どうぞ、と穏やかな返事をもらってから扉を開く。
「失礼します」
足を踏み入れた途端、視界に飛び込んでくる彩り豊かな絵画。先生が描いた風景画や人物画、壁の至るところを飾っている温かみのある絵からは、彼の人柄が滲み出ているようだ。
先生の好きな紅茶缶やお菓子の箱、だろうか。お洒落なデザインの箱が並べられた棚の側、作業台の前に立っていた先生が振り向く。
緩めに束ねた青い髪がふわりと揺れて、幅広の肩に広がっていく。俺を捉えた同色の瞳が微笑んだ。目元に刻まれた渋いシワが深くなる。
「いらっしゃい、シュン君。今日の紅茶のお供はチョコバームクーヘンだよ」
いつもの俺達の席。こじんまりとした木製のテーブルへ、湯気立つティーポットや切り分けたバームクーヘンを置いていく。
スーツ越しでも分かる逞しい身体を揺らしながら、いそいそとティータイムの準備を進めていく先生は上機嫌だ。子供のように目をキラキラ輝かせている。可愛い。
整ったのか、満足そうな笑みを浮かべ俺の席を引く。さあ、おいで、と手招きした。
「ありがとうございます」
席に着けば、すぐに華やかな香りが、俺専用のティーカップへと紅茶が注がれていく。
「いい匂いですね」
「ふふ、良かった。今日は久々に茶葉から淹れてみたんだよ。どうぞ召し上がれ」
「いただきます」
美味しい紅茶に美味しいお菓子。そしてグレイ先生の可愛い笑顔、これ以上の幸せはないハズなのに……
やっぱり物足りない。飲みやすい、スッキリとした紅茶をお代わりしても妙な渇きが癒えない。
しっとり甘くてほろ苦い、バームクーヘンを頬張っても満足出来ない。
それどころか日に日に酷くなっていく。先生の笑顔を見ていると、余計に胸が苦しくなるんだ。
先生なら分かるのかな。このわだかまりの正体が。
分からないにしても話を聞いてもらうだけでも楽になるかもしれない。俺は勇気を出して口を開いた。
「あの、先生……相談が、あるんですけど」
「なんだい? 君の話ならいくらでも聞くよ」
俺の向かいに座る先生が、ふわりと口元を緩めながら優しく話の続きを促してくれる。
まただ。また胸の奥が、きゅって……
胸に重石が乗せられているような重苦しさ。上手く息が出来ない感覚に襲われて、俺は俯いてしまっていた。
視界に映ったブレスレット。先生から貰った連なる青い石に触れると、少しだけホッとした。
「……俺、今すごく幸せなんです。大好きな先生と放課後二人で一緒に過ごせて、でも胸がモヤモヤして……何だか物足りなくて……俺、やっぱり変なんでしょうか?」
指先でいじっている石が、ほんのり冷たい。何で、何も言ってくれないんだろう?
黙ったまま何の反応も見せない先生を不思議に思い、恐る恐る顔を上げる。
てっきり、きょとんとしているのかと思ったんだが。俺の予想は大いに外れた。
耳まで真っ赤にした先生が、口元を押さえながら固まっていたんだ。
「せ、先生……どう、したんですか? その……大丈夫、ですか?」
目をしばたたかせながら俺が首を傾けると、先生が今度は顔を手で覆った。あらわになった口元からは笑みが消え、深いため息が漏れた。
「……いや、まさか君に、こんな形で先を越されるとはね」
「……どういうことですか?」
先生の淹れてくれる紅茶を飲みながら他愛のない話をしたり、絵のモデルをしたりと穏やかな時間を過ごしている。
いつも柔らかい笑顔で俺を迎えてくれる先生。別れ際には必ず優しく抱きしめてくれて、額にキスをしてくれる。
とても満ち足りているハズなのに、何でだろう。少し物足りない気がするのは。
今日も俺は先生の元へ訪れている。
いつも通りノックを三回。どうぞ、と穏やかな返事をもらってから扉を開く。
「失礼します」
足を踏み入れた途端、視界に飛び込んでくる彩り豊かな絵画。先生が描いた風景画や人物画、壁の至るところを飾っている温かみのある絵からは、彼の人柄が滲み出ているようだ。
先生の好きな紅茶缶やお菓子の箱、だろうか。お洒落なデザインの箱が並べられた棚の側、作業台の前に立っていた先生が振り向く。
緩めに束ねた青い髪がふわりと揺れて、幅広の肩に広がっていく。俺を捉えた同色の瞳が微笑んだ。目元に刻まれた渋いシワが深くなる。
「いらっしゃい、シュン君。今日の紅茶のお供はチョコバームクーヘンだよ」
いつもの俺達の席。こじんまりとした木製のテーブルへ、湯気立つティーポットや切り分けたバームクーヘンを置いていく。
スーツ越しでも分かる逞しい身体を揺らしながら、いそいそとティータイムの準備を進めていく先生は上機嫌だ。子供のように目をキラキラ輝かせている。可愛い。
整ったのか、満足そうな笑みを浮かべ俺の席を引く。さあ、おいで、と手招きした。
「ありがとうございます」
席に着けば、すぐに華やかな香りが、俺専用のティーカップへと紅茶が注がれていく。
「いい匂いですね」
「ふふ、良かった。今日は久々に茶葉から淹れてみたんだよ。どうぞ召し上がれ」
「いただきます」
美味しい紅茶に美味しいお菓子。そしてグレイ先生の可愛い笑顔、これ以上の幸せはないハズなのに……
やっぱり物足りない。飲みやすい、スッキリとした紅茶をお代わりしても妙な渇きが癒えない。
しっとり甘くてほろ苦い、バームクーヘンを頬張っても満足出来ない。
それどころか日に日に酷くなっていく。先生の笑顔を見ていると、余計に胸が苦しくなるんだ。
先生なら分かるのかな。このわだかまりの正体が。
分からないにしても話を聞いてもらうだけでも楽になるかもしれない。俺は勇気を出して口を開いた。
「あの、先生……相談が、あるんですけど」
「なんだい? 君の話ならいくらでも聞くよ」
俺の向かいに座る先生が、ふわりと口元を緩めながら優しく話の続きを促してくれる。
まただ。また胸の奥が、きゅって……
胸に重石が乗せられているような重苦しさ。上手く息が出来ない感覚に襲われて、俺は俯いてしまっていた。
視界に映ったブレスレット。先生から貰った連なる青い石に触れると、少しだけホッとした。
「……俺、今すごく幸せなんです。大好きな先生と放課後二人で一緒に過ごせて、でも胸がモヤモヤして……何だか物足りなくて……俺、やっぱり変なんでしょうか?」
指先でいじっている石が、ほんのり冷たい。何で、何も言ってくれないんだろう?
黙ったまま何の反応も見せない先生を不思議に思い、恐る恐る顔を上げる。
てっきり、きょとんとしているのかと思ったんだが。俺の予想は大いに外れた。
耳まで真っ赤にした先生が、口元を押さえながら固まっていたんだ。
「せ、先生……どう、したんですか? その……大丈夫、ですか?」
目をしばたたかせながら俺が首を傾けると、先生が今度は顔を手で覆った。あらわになった口元からは笑みが消え、深いため息が漏れた。
「……いや、まさか君に、こんな形で先を越されるとはね」
「……どういうことですか?」
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