39 / 43
諦めたくない、まだ……諦めない
しおりを挟む
……手が、顔が痛い。小石だろうか。顔を上げたことでぱらぱらと落ちていく。皮膚にめり込むみたいにくっついていた欠片が、ひび割れた石造りの床に。
身体は動く……みたいだ。鈍く重いけれど、感覚はある。腕も足もちゃんと。
「……キョウヤ、さ……」
黒い輝きとの衝突から庇ってくれた彼、俺に覆い被さっている長身は呼びかけに答えてくれない。
「随分と手こずらせてくれたな」
代わりに答えた声。苛立つしゃがれ声が、力なく横たわる彼の首根っこを掴んで吊り上げた。
だらりと垂れ下がる長い四肢。目の前の光景があの時のアサギさんと重なる。
「キョウヤさんッ!」
素早く見回し見つけた白銀。
手元を離れてしまっていた唯一の対抗手段に、手を伸ばそうとして防がれた。鈍い光沢を帯びた大きな足に踏み潰され、右手が嫌な音を立てて軋む。
「っあ……ぐ……ぅ……」
「やらせるとでも? 大人しくそこで見ているといい。我らが神の復活を、世界の終わりをな!」
キョウヤさんの胸元に鎧兜が手をかざす。すると白い輝きが、見覚えのあるハート型にカットされた宝石が現れた。
「……愛の、輝石」
白い煌めきを手中に収めた鎧兜が感極まった声を上げる。
「なんと神々しい……ああ、ようやく君に会えるんだな……待っていてくれ、セレネ……」
……このままじゃ、世界が終わってしまう……皆が影にされてしまう。
ヒスイ……コウイチさん……ダイキさん……アサギさん……キョウヤさん……博士……
なくなっていく手の感覚と一緒に瞼が落ちていく。全身を蝕んでいく重さと絶望感に身を委ねかけようとして、ぽつりと浮かんだ。
……イヤだ。
イヤだ、イヤだ! 諦めるもんか! まだだ、まだ終わっちゃいない!
無理矢理動かした身体からブチブチと固いものを割くような音がする。でも構わない。あと少しで届くんだ。
「……ッ」
握り締めた白銀を構え、黒い巨体目掛けて放つ。
眩い輝きに巻き込まれようがどうってことない。皆を失う恐怖に痛みに比べたら。
「ガ、ぁっ!?」
まともに受けた鎧兜が後方へと数歩分よろめいた。手放され、地面に転がったキョウヤさんの胸元で愛の輝石が煌めいている。
「キョウヤ、さ……」
反動からか、身体に上手く力が入らない。
動け……動け、動け!
伸ばした腕が引き摺る足が痛いとか重いとか、もうよく分からない。唯一感じていた鉄の味に砂利が混ざる。地面を藻掻くように這いずりながら彼の元へ。
辿り着いたキョウヤさんの瞳は固く閉じられたままだった。けれども音がする。呼吸が、鼓動が……命の音が聞こえる。
「良かった……まだ、生きて……」
「貴様……」
直撃させたハズだ。ゼロ距離で。その証拠にやつの鎧には大きな亀裂が、脇腹を中心に胸元まで届いている。なのに。
「ッ……」
黒く光る棍棒を手に、俺達に影を落とす鎧兜に銃口を向ける。瞬間、視界を真横に過ぎった黒い影。
「あっ……?」
影にしか見えなかったやつの一振りにより、白銀が甲高い音を立てて俺の手を離れていく。背後でカン、カラカランと絶望の音が地面に転がった。
「残念だったな……だが、最期まで大切な者の為に戦うその雄姿、敵ながら天晴であったぞ」
容赦なく振り下ろされようとしている黒い線。俺はただ、まだ温かいキョウヤさんの身体を抱き締めることしか出来なかった。
身体は動く……みたいだ。鈍く重いけれど、感覚はある。腕も足もちゃんと。
「……キョウヤ、さ……」
黒い輝きとの衝突から庇ってくれた彼、俺に覆い被さっている長身は呼びかけに答えてくれない。
「随分と手こずらせてくれたな」
代わりに答えた声。苛立つしゃがれ声が、力なく横たわる彼の首根っこを掴んで吊り上げた。
だらりと垂れ下がる長い四肢。目の前の光景があの時のアサギさんと重なる。
「キョウヤさんッ!」
素早く見回し見つけた白銀。
手元を離れてしまっていた唯一の対抗手段に、手を伸ばそうとして防がれた。鈍い光沢を帯びた大きな足に踏み潰され、右手が嫌な音を立てて軋む。
「っあ……ぐ……ぅ……」
「やらせるとでも? 大人しくそこで見ているといい。我らが神の復活を、世界の終わりをな!」
キョウヤさんの胸元に鎧兜が手をかざす。すると白い輝きが、見覚えのあるハート型にカットされた宝石が現れた。
「……愛の、輝石」
白い煌めきを手中に収めた鎧兜が感極まった声を上げる。
「なんと神々しい……ああ、ようやく君に会えるんだな……待っていてくれ、セレネ……」
……このままじゃ、世界が終わってしまう……皆が影にされてしまう。
ヒスイ……コウイチさん……ダイキさん……アサギさん……キョウヤさん……博士……
なくなっていく手の感覚と一緒に瞼が落ちていく。全身を蝕んでいく重さと絶望感に身を委ねかけようとして、ぽつりと浮かんだ。
……イヤだ。
イヤだ、イヤだ! 諦めるもんか! まだだ、まだ終わっちゃいない!
無理矢理動かした身体からブチブチと固いものを割くような音がする。でも構わない。あと少しで届くんだ。
「……ッ」
握り締めた白銀を構え、黒い巨体目掛けて放つ。
眩い輝きに巻き込まれようがどうってことない。皆を失う恐怖に痛みに比べたら。
「ガ、ぁっ!?」
まともに受けた鎧兜が後方へと数歩分よろめいた。手放され、地面に転がったキョウヤさんの胸元で愛の輝石が煌めいている。
「キョウヤ、さ……」
反動からか、身体に上手く力が入らない。
動け……動け、動け!
伸ばした腕が引き摺る足が痛いとか重いとか、もうよく分からない。唯一感じていた鉄の味に砂利が混ざる。地面を藻掻くように這いずりながら彼の元へ。
辿り着いたキョウヤさんの瞳は固く閉じられたままだった。けれども音がする。呼吸が、鼓動が……命の音が聞こえる。
「良かった……まだ、生きて……」
「貴様……」
直撃させたハズだ。ゼロ距離で。その証拠にやつの鎧には大きな亀裂が、脇腹を中心に胸元まで届いている。なのに。
「ッ……」
黒く光る棍棒を手に、俺達に影を落とす鎧兜に銃口を向ける。瞬間、視界を真横に過ぎった黒い影。
「あっ……?」
影にしか見えなかったやつの一振りにより、白銀が甲高い音を立てて俺の手を離れていく。背後でカン、カラカランと絶望の音が地面に転がった。
「残念だったな……だが、最期まで大切な者の為に戦うその雄姿、敵ながら天晴であったぞ」
容赦なく振り下ろされようとしている黒い線。俺はただ、まだ温かいキョウヤさんの身体を抱き締めることしか出来なかった。
0
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
【完結】運命さんこんにちは、さようなら
ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。
とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。
==========
完結しました。ありがとうございました。
恋の終わらせ方がわからない失恋続きの弟子としょうがないやつだなと見守る師匠
万年青二三歳
BL
どうやったら恋が終わるのかわからない。
「自分で決めるんだよ。こればっかりは正解がない。魔術と一緒かもな」
泣きべそをかく僕に、事も無げに師匠はそういうが、ちっとも参考にならない。
もう少し優しくしてくれてもいいと思うんだけど?
耳が出たら破門だというのに、魔術師にとって大切な髪を切ったらしい弟子の不器用さに呆れる。
首が傾ぐほど強く手櫛を入れれば、痛いと涙目になって睨みつけた。
俺相手にはこんなに強気になれるくせに。
俺のことなどどうでも良いからだろうよ。
魔術師の弟子と師匠。近すぎてお互いの存在が当たり前になった二人が特別な気持ちを伝えるまでの物語。
表紙はpome bro. sukii@kmt_srさんに描いていただきました!
弟子が乳幼児期の「師匠の育児奮闘記」を不定期で更新しますので、引き続き二人をお楽しみになりたい方はどうぞ。
【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
運命の息吹
梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。
美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。
兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。
ルシアの運命のアルファとは……。
西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる