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絶対に二人で帰るんだ! 皆のところへ!
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お願い……もう止めて……ブライ。
約束したじゃない! 共に世界を守りましょうって……
私と貴方は神子と守護者。今は離れ離れになっても、いつか必ず巡り会えるから……悲しむことはないんだって……
なのに、どうしてあの子まで傷つけるの? どうして世界を滅ぼそうとするの?
お願い……誰か、彼を……あの子を助けて! どうか……どうか!
今のは……夢? 女の人の声……だったよな?
ブライって……あの子って……誰のことだ?
頭の中で鳴り響いていた息が詰まる程の嘆きが、祈りが重たい金属を打ち合う音に置き換わっていく。
俺……何、してたんだっけ? 確か食堂で皆と別れて、先生……キョウヤさんに鎧兜のことを相談しようとして……それから?
「うっ……一体……何が、起きて……」
くっついたみたいに離れない瞼を無理矢理開く。まだぼんやりとした視界にさらりと揺れた黒く艷やかな髪。
「……レン?」
驚きに見開いた紫が俺を見下ろしていた。
「まさか、目覚めて……ぐッ」
再び重たい音。頭の芯に、腹の中心にまで響く金属音に続けて視界がブレる。
頬には冷たく固い感触。気怠さの残る身体もまた黒い金属を纏った片腕にしっかりと支えられている。キョウヤさんに俺、抱き抱えられて?
ただでさえ状況が一切飲み込めていない俺の目に飛び込んできたのは、おどろおどろしい威圧感を漂わせる漆黒の巨体だった。
「余所見をする余裕があるとは舐められたものだな……」
苛立ちを露わにしたしゃがれ声が、吐き捨てるように呟く。
その手には、先にゴツゴツした飾りがついた棍棒のような武器が握られていた。
「鎧兜!?」
瞬間、走馬灯みたいに蘇った。俺とキョウヤさんの間で生まれた愛の輝石。白く輝く結晶を手にした彼が鎧兜と同じ黒い鎧を纏って……
そうだ。俺、利用されたんだ。輝石を手に入れる為にキョウヤさんに。
「……って何で仲間割れしてるんですか!?」
相手は明らかに敵意剥き出しだ。一撃でも受けたらアウトな物騒な武器持ってるし。
よくよく見ればキョウヤさんも長剣と銃が合体したみたいな武器持ってるし。
同じ邪神の守護者なのに何で戦ってんだよ!?
「はっ……何で、だろうな」
「はい?」
「全ては母上の、民の……父上の為だった……だが君と君達と過ごす日々は心地よかった……失いたくないと思ったんだ……」
自嘲気味に笑っていた唇が震え出す。
「今更だと思うだろう? 私もだ……失いかけて初めて皆を大切だと……君を、レンを心から愛していたと気づくなんてな……」
紫の瞳から溢れ落ちた雫が、俺の頬を熱く濡らした。
「……キョウヤさん」
「今度は呑気にお喋りか? 多少は手心を加えてやろうかと思ったが……必要ないようだなッ!」
割って入ってきた咆哮が、重々しい金属の棒を俺達目掛けて振り下ろす。目の前で黒と黒が交差し、火花が散った。
「ッ……くぅ……」
「キョウヤさん!」
痛烈な一撃を何とか受け止め切った彼の腕は、痙攣しているかのように震えている。
このままじゃもたない……せめてキョウヤさんが全力で戦えるようにしないと……
ジャケットの内ポケットを探る。
皆から念を押され、肌身離さず持ち歩いていた最終手段。指先に触れた冷たい円柱を握り、いつでも放てるように底面のスイッチに親指を添えた。
「キョウヤさんっ俺を下ろしてくだ」
「……私が隙を作る……逃げなさい。博士達のことだ……きっと君を助けに来てくれる筈だ……だから」
「隙だと? そんなもの与える筈がなかろう!」
押し合っていた鈍く光る黒を鎧兜が再び振り上げる。鋭い金属の刃を纏う重たい先端を、ハンマーみたいに振り下ろしてくる。
「させない!!」
押しながら取り出した筒は、瞬く間に白銀の銃へと姿を変えた。不気味な角の生えた兜に向けた銃口から、眩いピンクにも明るい紫にも見える光が放たれる。
「ッ……輝石の輝きか! 忌々しい……」
狙い通り、とまではいかなかった。素顔を暴いてやるつもりの一撃は、既のところで躱されてしまった。
が、怯ませることには成功したようだ。飛び退き離れた鎧兜が着地ざまによろめき、膝をつく。
「レン……何故……」
カチンときた。呆気に取られたように見つめる紫は何にも分かっていないらしい。
「何でって……好きだからですよ! キョウヤさんのことが!」
「だが、私は君を……」
「はい、スゴく傷つきました。お詫びに帰ったらアイス奢って下さいよねっ皆にもっ」
だから言ってやった。自分ながら子供じみてる気もするけれど、全部ぶち撒けてやった。
「俺が簡単にキョウヤさんのこと嫌いになると思ったら大間違いですからね! だからっ……だから、ちゃんと話して下さい……頼って下さい……今度勝手に一人で背負い込んだら……口聞いてあげませんから! ……一日」
ますます丸くなった瞳がゆるりと細められる。苦しげに歪んでいた口角も柔らかく綻んでいた。
「ふっ……はは、それは困るな。可愛い君から丸一日無視されるなんて、寂しくてどうにかなってしまいそうだ」
「寂しいとか……ウソでしょ、絶対」
「本当だよ」
そっと抱き下ろした俺の肩に腕を回しながら、今度は違う涙を滲ませ笑う。
すっかりいつも通りだ。彼が重々しい鎧なんて纏っていなければ。黒い霧が漂う物々しい雰囲気の遺跡内で、鎧兜と対峙していなければ。
「この程度で勝った気でいるとは……誠に私は舐められているようだな?」
ゆらりと立ち上がり武器を構える鎧兜。
低く唸るような声だけで、肌がひりつく……足が震え出しそうになる。でも……
「レン、サポートを頼む。ただし、決して無理はするなよ」
一緒なら頑張れる。前を向けるんだ。
「はい! キョウヤさんこそ、無茶しちゃイヤですからね? 絶対に二人で帰るんですからっ皆のところへ!」
「ああ!」
白銀と黒、一緒に銃口を構えた先で鎧兜が嘆くようにひび割れた兜を、鈍く光る金属を纏う手で覆う。
「仕方がない……ここまでするつもりはなかったのだがな……」
下ろしかけた丸太のように太い腕を、空気を切り裂くように真横に振るう。途端にぞわりと薄闇が揺らめいた。
俺達の足元で漂う黒いモヤが集まり、人型へと成っていく。続々と俺達の周囲を囲むように。
「影……」
「数が多いな……囲まれると厄介だ! 抜けるぞ!」
俺の手を引き、長い獲物を構えたキョウヤさんが、まだ数が少ない場所へと連続して銃弾を叩き込む。
爆音と共に散り散りになり、影の囲いにぽかりと開けた道。駆け抜けようとした俺達の背後から、虚ろな腕がいくつも伸びてくる。
「このっ!」
まだ残弾には余裕がある。
時間を稼ぐ為にも振り向きざまに放った二発目。煌めく光の線が、蔦のように幾重にも絡まりながら追い縋ってきていた黒い腕達を貫き、群れのど真ん中で花火みたいに弾けて輝いた。
「良くやった。いい判断だったぞ、レン」
「ふふ、頼まれましたからねっ」
影達は霧散し窮地は脱したかに見えた。
「愚かだな」
声を弾ませ微笑み合う俺達に、しゃがれた呟きが水を差すまでは。
「はなから有象無象ごときに期待してはおらぬ。貴様らを黙らせるにはこれくらいの歓待はせねばな」
それは黒い太陽みたいだった。
鎧兜が手にしていた黒い棍棒。その先端に禍々しい闇が集まり球を成している。俺の身体くらい容易く飲み込めてしまいそうな大きさだ。まともに受けたらひとたまりもない。
「レンッ!」
鋭く叫んだキョウヤさんが銃を構えた。
「はい!」
鎧兜に照準を合わせた俺を見て紫の瞳が小さく頷く。
同時だった。俺達が狙い打ったのと黒い塊が放たれたのは。
あまりの眩さに刺すように目が痛む。弾けた閃光が遺跡内を包み込み、雷に打たれたような轟音と衝撃が石造りの柱を、地面を揺らす。
耐えられず爆風に攫われていく俺の身体を、逞しい腕が守るように抱き締めてくれた。
約束したじゃない! 共に世界を守りましょうって……
私と貴方は神子と守護者。今は離れ離れになっても、いつか必ず巡り会えるから……悲しむことはないんだって……
なのに、どうしてあの子まで傷つけるの? どうして世界を滅ぼそうとするの?
お願い……誰か、彼を……あの子を助けて! どうか……どうか!
今のは……夢? 女の人の声……だったよな?
ブライって……あの子って……誰のことだ?
頭の中で鳴り響いていた息が詰まる程の嘆きが、祈りが重たい金属を打ち合う音に置き換わっていく。
俺……何、してたんだっけ? 確か食堂で皆と別れて、先生……キョウヤさんに鎧兜のことを相談しようとして……それから?
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くっついたみたいに離れない瞼を無理矢理開く。まだぼんやりとした視界にさらりと揺れた黒く艷やかな髪。
「……レン?」
驚きに見開いた紫が俺を見下ろしていた。
「まさか、目覚めて……ぐッ」
再び重たい音。頭の芯に、腹の中心にまで響く金属音に続けて視界がブレる。
頬には冷たく固い感触。気怠さの残る身体もまた黒い金属を纏った片腕にしっかりと支えられている。キョウヤさんに俺、抱き抱えられて?
ただでさえ状況が一切飲み込めていない俺の目に飛び込んできたのは、おどろおどろしい威圧感を漂わせる漆黒の巨体だった。
「余所見をする余裕があるとは舐められたものだな……」
苛立ちを露わにしたしゃがれ声が、吐き捨てるように呟く。
その手には、先にゴツゴツした飾りがついた棍棒のような武器が握られていた。
「鎧兜!?」
瞬間、走馬灯みたいに蘇った。俺とキョウヤさんの間で生まれた愛の輝石。白く輝く結晶を手にした彼が鎧兜と同じ黒い鎧を纏って……
そうだ。俺、利用されたんだ。輝石を手に入れる為にキョウヤさんに。
「……って何で仲間割れしてるんですか!?」
相手は明らかに敵意剥き出しだ。一撃でも受けたらアウトな物騒な武器持ってるし。
よくよく見ればキョウヤさんも長剣と銃が合体したみたいな武器持ってるし。
同じ邪神の守護者なのに何で戦ってんだよ!?
「はっ……何で、だろうな」
「はい?」
「全ては母上の、民の……父上の為だった……だが君と君達と過ごす日々は心地よかった……失いたくないと思ったんだ……」
自嘲気味に笑っていた唇が震え出す。
「今更だと思うだろう? 私もだ……失いかけて初めて皆を大切だと……君を、レンを心から愛していたと気づくなんてな……」
紫の瞳から溢れ落ちた雫が、俺の頬を熱く濡らした。
「……キョウヤさん」
「今度は呑気にお喋りか? 多少は手心を加えてやろうかと思ったが……必要ないようだなッ!」
割って入ってきた咆哮が、重々しい金属の棒を俺達目掛けて振り下ろす。目の前で黒と黒が交差し、火花が散った。
「ッ……くぅ……」
「キョウヤさん!」
痛烈な一撃を何とか受け止め切った彼の腕は、痙攣しているかのように震えている。
このままじゃもたない……せめてキョウヤさんが全力で戦えるようにしないと……
ジャケットの内ポケットを探る。
皆から念を押され、肌身離さず持ち歩いていた最終手段。指先に触れた冷たい円柱を握り、いつでも放てるように底面のスイッチに親指を添えた。
「キョウヤさんっ俺を下ろしてくだ」
「……私が隙を作る……逃げなさい。博士達のことだ……きっと君を助けに来てくれる筈だ……だから」
「隙だと? そんなもの与える筈がなかろう!」
押し合っていた鈍く光る黒を鎧兜が再び振り上げる。鋭い金属の刃を纏う重たい先端を、ハンマーみたいに振り下ろしてくる。
「させない!!」
押しながら取り出した筒は、瞬く間に白銀の銃へと姿を変えた。不気味な角の生えた兜に向けた銃口から、眩いピンクにも明るい紫にも見える光が放たれる。
「ッ……輝石の輝きか! 忌々しい……」
狙い通り、とまではいかなかった。素顔を暴いてやるつもりの一撃は、既のところで躱されてしまった。
が、怯ませることには成功したようだ。飛び退き離れた鎧兜が着地ざまによろめき、膝をつく。
「レン……何故……」
カチンときた。呆気に取られたように見つめる紫は何にも分かっていないらしい。
「何でって……好きだからですよ! キョウヤさんのことが!」
「だが、私は君を……」
「はい、スゴく傷つきました。お詫びに帰ったらアイス奢って下さいよねっ皆にもっ」
だから言ってやった。自分ながら子供じみてる気もするけれど、全部ぶち撒けてやった。
「俺が簡単にキョウヤさんのこと嫌いになると思ったら大間違いですからね! だからっ……だから、ちゃんと話して下さい……頼って下さい……今度勝手に一人で背負い込んだら……口聞いてあげませんから! ……一日」
ますます丸くなった瞳がゆるりと細められる。苦しげに歪んでいた口角も柔らかく綻んでいた。
「ふっ……はは、それは困るな。可愛い君から丸一日無視されるなんて、寂しくてどうにかなってしまいそうだ」
「寂しいとか……ウソでしょ、絶対」
「本当だよ」
そっと抱き下ろした俺の肩に腕を回しながら、今度は違う涙を滲ませ笑う。
すっかりいつも通りだ。彼が重々しい鎧なんて纏っていなければ。黒い霧が漂う物々しい雰囲気の遺跡内で、鎧兜と対峙していなければ。
「この程度で勝った気でいるとは……誠に私は舐められているようだな?」
ゆらりと立ち上がり武器を構える鎧兜。
低く唸るような声だけで、肌がひりつく……足が震え出しそうになる。でも……
「レン、サポートを頼む。ただし、決して無理はするなよ」
一緒なら頑張れる。前を向けるんだ。
「はい! キョウヤさんこそ、無茶しちゃイヤですからね? 絶対に二人で帰るんですからっ皆のところへ!」
「ああ!」
白銀と黒、一緒に銃口を構えた先で鎧兜が嘆くようにひび割れた兜を、鈍く光る金属を纏う手で覆う。
「仕方がない……ここまでするつもりはなかったのだがな……」
下ろしかけた丸太のように太い腕を、空気を切り裂くように真横に振るう。途端にぞわりと薄闇が揺らめいた。
俺達の足元で漂う黒いモヤが集まり、人型へと成っていく。続々と俺達の周囲を囲むように。
「影……」
「数が多いな……囲まれると厄介だ! 抜けるぞ!」
俺の手を引き、長い獲物を構えたキョウヤさんが、まだ数が少ない場所へと連続して銃弾を叩き込む。
爆音と共に散り散りになり、影の囲いにぽかりと開けた道。駆け抜けようとした俺達の背後から、虚ろな腕がいくつも伸びてくる。
「このっ!」
まだ残弾には余裕がある。
時間を稼ぐ為にも振り向きざまに放った二発目。煌めく光の線が、蔦のように幾重にも絡まりながら追い縋ってきていた黒い腕達を貫き、群れのど真ん中で花火みたいに弾けて輝いた。
「良くやった。いい判断だったぞ、レン」
「ふふ、頼まれましたからねっ」
影達は霧散し窮地は脱したかに見えた。
「愚かだな」
声を弾ませ微笑み合う俺達に、しゃがれた呟きが水を差すまでは。
「はなから有象無象ごときに期待してはおらぬ。貴様らを黙らせるにはこれくらいの歓待はせねばな」
それは黒い太陽みたいだった。
鎧兜が手にしていた黒い棍棒。その先端に禍々しい闇が集まり球を成している。俺の身体くらい容易く飲み込めてしまいそうな大きさだ。まともに受けたらひとたまりもない。
「レンッ!」
鋭く叫んだキョウヤさんが銃を構えた。
「はい!」
鎧兜に照準を合わせた俺を見て紫の瞳が小さく頷く。
同時だった。俺達が狙い打ったのと黒い塊が放たれたのは。
あまりの眩さに刺すように目が痛む。弾けた閃光が遺跡内を包み込み、雷に打たれたような轟音と衝撃が石造りの柱を、地面を揺らす。
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